ある木曜日に汚屋敷の片づけさえ洒脱に語る英国マジックにハマったこと。

プロフェッショナルオーガナイザー、という初めて聞く職業。
西暦2000年のイギリス北部の田舎町なんて馴染みのない場所。
噂によれば翻訳ものっぽい雰囲気らしく、実は苦手な文体。
こんなんで読めるのか? と思っていたけど見事にハマった。

イギリスの歴史と文学作品への造詣が極めて深く、現地に住み、
生の言語と文化に接してきた著者でなくては書けない作品である。
洒脱な文章は軽妙で、そ知らぬ顔をして織り込まれたユーモアに、
思わず噴き出したり膝を打ったりしてしまう。何かすごい。

かっちりして上品な老婦人ミルドレッド、御年80歳は、
その外見に似つかわしくない「溜め込み」癖がある。
初めはミルドレッドを理解できないマキカだったが、
次第に老婦人が心に秘めた悲しみの存在に気付き始める。

2000年における汚屋敷お片付けを物語の主軸としながら、
1940年代の回想が差し挟まれて老婦人の人生が紐解かれ、
また同時に、イギリスという国の現代史が語られていく。
戦争の記憶を埋没させてはならないと、改めて感じた。

たかがお片付け、されどお片付け。
ゴミに埋もれた思い出を拾い集め、
老婦人の心は解き放たれるのだろうか。
マキカの心は解き放たれるのだろうか。

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