Track #13 Live After Death

Lato di Eisernen Jungfrau


 衝撃の後、地面に立っていたのは俺だけだった。ナミアは俺のことを気遣いうと共に何が起こったかを必死に聞いた。俺は答えた。わからない、と。


 その後も俺達の日常は変わらなかった。魔物と闘い、この国の人々のために働く。それだけだったはずだが、いつの間にかリルムとアイズミックが消えてしまった。そして魔物達との歩み寄りまで起ころうとしている。


 奴らは徐々に自分の気配を消していき、最後には人々の記憶からも消えた。覚えているのはこの戦いに関わった一部の者達くらい。俺達は奴らが戻って来た時の為に備えることにした。


 備えるとは、即ち、自分の気付きを大事にすること。


 そして、時々思い出し、忘れること。


 それでも、ナミアは俺に聞き続けた。あの時、一体何が起こったかを。

 俺が語るのは自分の物語。ナミアは不満そうだが、俺はこうするのがいいと思った。


――


 " Schizophrenia" という病気がある。俺の記憶では『統合失調症』と呼ばれていた。だが、名前が変わったそうなんだ。その前は『精神分裂病』と呼ばれていたらしい。この名前が与える印象が強烈で、誤解を招きやすかったから変えたんだと思う。だが、俺が得た知識からすると、『精神分裂』というのは結構的を射ていたと感じるんだ。


 人の心はとても複雑だ。とても理解することは出来ない。だが解っているのは、心と言うのは様々な機能が連関して起こっているということだった。


 心が調子が悪くなるのは、その様々な機能の連関が上手く働かず、弛緩してしまうからだと。そして付けられたのが『精神分裂病』。


 そう考えるとわかりやすくなった。もちろん一部だが。


 もしも、俺たち自身がこの世界の心であり、それぞれが心の機能を担っているとしたら?


 それぞれの役割が全体に影響することもあるとすれば?


 そんなことを考えていた。きっと、ラヴェンヌもそう思ったんじゃないか?


 そして、想像した。『あの人々』のことを。


 俺の想像が正しければ、俺は『彼等』にずっと助けられてきた。世界はずっと助けられてきた。俺がこの世界を知れば、『彼等』に応えることもできると思うんだ。


 先は長いだろう。


 だが、お前が居てくれるのは嬉しいよ。


 ラヴェンヌとも確認したんだ。


 魔法の言葉は『お気に召すまま』


(終わり)

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素晴らしい異世界と、通りすがり。 風祭繍 @rise_and_dive

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