頂点現る

 グリフォン三体を相手に孤軍奮闘していた妾の周りに、下級悪魔が数匹現れる。

――これは……放出され続けている魔力の影響か!!

 下級悪魔は妾に襲い掛かって来る。

――鬱陶しい!!

 尾を一振りし、下級悪魔を滅する。下級悪魔はグリフォン等にも襲い掛かっていた。

 グリフォン等は問題せずに、これを滅した。

――聖の枷が外れても、その力は衰え無し、か

 元々魔獣側のグリフォンだ。下級悪魔など敵では無いか。

 しかし、下級悪魔はその数を数十、数百と増え続けいる。その数は厄介だ。救いはグリフォンにも向かって行っている事か。

 群がる下級悪魔を蹴散らしながら、グリフォンに牙を剥く妾。

 グリフォンは下級悪魔を翼で叩きながら、妾の牙を爪で牽制する。

――少し安請け合いしたか…

 尾を振るう都度、下級悪魔の身体が潰れ、地に落ちて滅するも、グリフォンにはあと少し届かない。

 妾は少し苛立った。しかし、苛立ちは向こうも同じようで、妾に爪や嘴を向けるも、下級悪魔が目隠しをするが如く群がって来るので、目の前の敵を滅する事を優先せざるを得ないようだ。

 ならば、と妾は地に尾を一尾這わせて下からグリフォンを襲う。

 目の前の下級悪魔に夢中だったグリフォンの腹を、妾の尾が貫いた。

――残り二体…

 だが安心は出来ない。

 腹を貫かれたグリフォンは、確かに重傷を負ったが、未だに生きている。

 残心を怠らず、残り二体のグリフォンに視線を向ける。

 やはり下級悪魔に群がられて、思い通りには行動出来ない様子だ。

 妾に群がる下級悪魔は、尾を一本使い叩き落としているから、この状況は妾にとって有利かもしれぬ。聖なる騎士に制御されていたら、勝負は解らなかったかもな。

 妾は一つ吼えた。

 下級悪魔が一瞬怯む。

 その隙にグリフォンが翼や爪、嘴を以て下級悪魔を滅している。

――ふん、目の前の隙に夢中か。丁度良い

 高速でグリフォンの真上に跳ね上がり、背中に爪を浴びせた。

 背中から血を噴き出しながら、グリフォンが落ちて行く。

――残り一体!!む?

 その時に気が付く。下級悪魔があれから増えていない事に。

――魔力の源が消えたのか?

 思案する妾の前に影が出来る。グリフォンがその爪で妾を握り潰そうとして接近してきたのだ。

――そちらから寄って来てくれるとは有り難い

 妾は高速でグリフォンの懐に飛び込み、喉笛を牙で斬り裂いた。

 喉元から血を噴き出しながら落ちて行くグリフォン。

――まぁ、惜しかったな。そこそこは強かったぞ

 本能のみの雑な攻撃は妾に通じぬ。制御されていれば、どう転んでいたか解らぬが。

 それ程グリフォンの底力は凄いと言う事だ。

 妾はまだ庭に居る下級悪魔を滅する事にした。

――貴様等は頼まれてはおらぬが、妾の巣に攻撃的な魔力を以て現れたならば、致し方ない

 妾は残りを殲滅する為に尾を振るった。

 数百の数の下級悪魔が落ちては滅する。

 奴等の数が半数になった時、それは起こった!!

――な、なんだこの魔力は!?

 突如、家の中から現れたとてつもない魔力!!

 呼応するように下級悪魔が喜々として踊り出す。凶暴性も増したような?

 更には滅される寸前だった重傷の者まで復活しだした。

 下級悪魔に此程の影響を与える魔力……

 家の中に、魔族の王か、それに匹敵する者が現れたのか…?


 キィィイイイインン…!!


 既に尚美によって亜空間に創った家と庭の周りに、透明なパネルが合わさったように空間が広がって行く!!

――な、何事だ?

 家と庭を中心に、見渡す限りの空間が創り出された。無論、天までも!!

――動じるな九尾狐!亜空間を広げただけだ!

 裏山の三神が妾を取り囲むよう、姿を現す。

――巨大な魔力が現れたからか!?

――どうやら魔王を喚んだ者がいるようだね…

 普段は温厚な死と再生の神が、問答無用で下級悪魔を滅しながら言う。

――以前戦った強欲の魔王よりも巨大な魔力だ!もしかしたら、悪魔王かもしれぬ!

 魔力が発している家の中を威嚇するように睨み付ける地の王。

 その時、バキバキバキバキ!と、家が壊れ始めた!!

――出るぞ!!!

 三神は家を取り囲む。出て来る魔王を取り囲んでいるのだ。


 バガアアアアアアアア!


 屋根が破壊され、真っ黒い蛇の如くの身体が立ち上った!!

――あれが…悪魔王…!!

 妾の永き経験にも該当しない魔力…此程の力の持ち主は知らぬ…!!

 鋭い爪を生やした二本の腕を広げ、瘴気と思しき息を吐きながら、妾達を『見下ろす』悪魔王!!

 ドス黒い魔竜、憤怒を司る魔王、悪魔王、サタンがその姿を現したのだ!!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「た、助かった……」

 心から安堵した。

 予想していたとは言え、私の喚んだ氷地獄など物ともせずに、憤怒の魔王が家を破壊し、姿を現した。

 私が創った亜空間は庭と家のみ。あれ程の魔王を留めておく事は出来ない。

 恐らく三柱様が亜空間を広げて下さったのだろう。

 少なくとも現世に現れる事は阻止した。

「おおおおお!!俺の家があああああああああ!!やい銀髪、お前建て替えしろよな絶対にっっっ!!!」

 北嶋さんが涙目になりながらリリスに向かって指を差して振り回す。

「亜空間の家だから、現世の家に影響は無いわ…」

 立つのもやっとだが、フラフラになりながらも北嶋さんを安心させるよう説明をする。

「亜空間は時間軸に干渉した空間…四次元と言えばいいかしら…高次元とも言われているわ。私達の三次元の世界よりも遥かに広く、遥かに濃密なこの世界は、天界も地獄も存在する世界。尤も、人間は肉体を失ってからじゃないと行けない世界だけど。例外を除いてね」

 北嶋さんは解ったような、解らないような表情をしながら首を捻っていた。

 溜息をついて追記する。

「パラレルワールドにも行き来出来るこの世界に、『もしも北嶋さんの家が無人だったら』の家を創ったのよ。だから現世の家には影響は無い」

「ふーん。本物に関係無いならいいか」

 北嶋さんは相変わらずマイペースだった。あれ程の負過の者が現れたのに。

 ヴァチカンの騎士、リチャードとレオノアは全く生気の無い顔になり、仰いでいるし、松山 主水もジル・ド・レも味方の筈なのにガタガタと震えている。

 葛西はへたり込みそうな身体を何とか踏ん張って倒れないように気を張っているし、ヴァチカン最強の騎士は震えながらも切っ先を向けている。

「はぁっ!!はぁっ!!どうだい神崎…この巨大な存在感は!!」

 喚んだリリスですら、気を保つのが精一杯の様子だ。当然、私もギリギリ正気を保っている状態。

 北嶋さんだけだ。何も感じず、変わらずに普通にいられるのは…

「何かみんなおかしくなっているが、その黒くてデカ過ぎる奴がなんだってんだ?」

 呑気な質問をしてくる北嶋さん。誰も答えない代わりに、サタンが私達に問い掛けて来る。


――殺してもいいのは…八人か!!


 松山とジル・ド・レの顔が青ざめる。

 この場にいる人間は全部で九人。喚んだリリスを除外して、八人となるからだ。

「はあ?やい黒いの、俺以外の人間を全て殺すつもりか!!」

 北嶋さんが拳を振り上げながら喚いた。

 ってか『俺以外』って!!

 どこまでも自分の力に自信があるのだろうか。

「はぁ、はぁ、憤怒の魔王は私にも御し切れない魔王…その彼が言ったんだ。この場の人間は全て死ぬ事になる。宣戦布告したその日に決着が付くなんて、無駄が無くていいじゃないか!」

 そう言うリリスだが、自分の身も安全とは思っていないようで、心を許してはいない様子。

「北嶋…テメェ恐ろしくねぇのか?」

 あの喧嘩好きな葛西ですら、その圧倒的な魔力に打ちひしがれていた。

「あん?なんだ暑苦しい葛西、ビビってんのか?」

 決して虚勢では無い北嶋さんの態度。

 その態度に頼もしさを覚えているのは、私だけだった。

「おお…主よ…お助け下さい…お助け下さい…お助け下さい…」

 リーダーの彼は地に頭を擦り付けて、胸のロザリオを握り締めながら必死に祈っている。

「しっかりしろリチャード!!我々が奴を倒すんだ!!」

 己を奮い立たせているが、虚勢に過ぎない。少し触っただけで倒れそうなくらい震えているからだ。

「命令を…命令をくれ…」

 戦えと命令を願っている訳では無い。死ねと命令されるのを待っている様子だ。彼は諦めたのか。ヴァチカン最強の聖騎士ともあろう者が…

 そんな様子を見た北嶋さんがヤレヤレと言って叫ぶ。

「タマ!こっち来い!!」

「タマにもどうにも出来ないよ?」

 悪魔王はそんな生易しい相手じゃない。タマは愚か、三柱様纏めて向かって行っても多分勝てない。

「いや、タマに乗って奴の顔面に近付くんだよ。やたらデッカイから話し難いからな」

 対話を試みるのか?

 話し合いは恐らく不可能だと思う。

 決裂した途端に戦うのだろうか?

 だけど私はこう言う。

「よし!流石私の北嶋さんだわ!頑張ってね!!」

 にっこり笑って北嶋さんの背中をパンパン叩いた。

「私の?」

「婚約指輪くれるんでしょ?」

 北嶋さんは私の顔をしばらくボーっと眺めていた。

 少しすると、タマが到着する。

――勇、来たが妾には…

 たじろいでいるタマを余所に、北嶋さんが大声で叫んだ。

「よっしゃああああああ!!やったるぞおおおおおお!!うおおおおおおおお!!!」

 喜び勇んでタマに飛び乗る北嶋さん。

「タマ、黒いのの顔面に近付け!後は俺に任せろ!やっほぉぉぉいぃぃ!!!」

――な、何か知らんが、凄まじいやる気だな…解った…

 タマは困惑しながらも、北嶋さんを乗せて飛び立った。

 小さくなる北嶋さんとタマを微笑みながら見送る私に、リリスが話し掛ける

「いくら良人とは言え、憤怒の魔王はどうにも出来ないよ」

 勝利を確信しているのか、冷笑を浮かべているリリス。対して余裕を持って笑い返す。

「そう?やっぱりあなたには北嶋さんは無理だわ。だってあの人を全く理解していないもの」

 リリスの表情が険しくなったが、それに触れずに話を続ける。

「あの人に出来ない事は無い。北嶋さんを安く見ないでね」

 リリスも葛西も、ヴァチカンも、北嶋さんでも不可能と思っている。

 だが、誰か見た事があるのだろうか?

 北嶋さんの限界を。

 長い間傍に居る私も、あの人の限界を見た事がない…知らないと言うのに。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 勇を乗せて憤怒の魔王の真正面に飛ぶ妾。途中、下級悪魔がその前に立ちはだかる。

「うらあああああ!!邪魔すんなボケえ!!」

 背に乗せている妾ですら、その迫力で止まりそうになる。

 下級悪魔は明らかに怯え、妾の前を開けた。

――本当にやる気があるのだな…

「あー!ちゃっちゃと終わらせて指輪買いに行かなきゃならねーからな!」

 上機嫌な勇だが、尚美が求婚を受けたのか?

――あの尚美がなぁ…

「おー!これで堂々と風呂を覗いたり、部屋に侵入できるってもんだぜ!」

――求婚を受けたのなら、そんな真似をする必要も無いと思うが…

 喜々としている勇に半ば呆れながら、妾は遂に憤怒の魔王の顔、真正面に立った。

――勇!?何故来た!!危険だ!!

――北嶋 勇!!君の強さは理解しているが、ここは私達に任せてくれないか!?

――北嶋!!離れていろ!!

 背に受ける形になっている三柱が、勇でも不可能と判断し、退くよう命じる。

 勇はクルンと回転し、三柱を見た。

「三柱がガン首揃えて何してんだ?お前等手ぇ出すなよ?」

――手を出すなだと!?

――話し合いでもするつもりかい!?

――奴は悪魔王だぞ!!

 妾もそう思う。

 目の前の敵は憤怒の魔王…魔界の頂点にして悪魔の王、サタンだ。話し合いで決着するとは思えない。

 決裂したら戦うつもりだろうが、妾と三柱で何とか退かせられるか、と言った所だ。

 危険過ぎる…

 だが、勇は全くいつも通りにキョトンとして返した。

「話し合い?何で俺が?」

――勇!!今までの奴等とは違うんだぞ!!

 叱るような海神。微妙に怒気も含まれている。

「いーや、変わらん。むしろ楽だ」

――楽な訳ないだろう!?君は自分の力を過信し過ぎている!!

 死と再生の神も、普段の温厚さがすっかり影を潜めていた。

「あいつはサタンなんだろ?じゃあ少なくとも俺とはやり合わないよ。むしろ危ないのはお前等だ」

――貴様とは戦わない?どう言う事だ?

 妾達の疑問を変わりに投げる地の王。

「まぁ、俺は大丈夫だって事だ。ほら、お前等下がっていろ」

 そう言って、勇は憤怒の魔王に顔を向けた。

「やい黒いの。喚び出されたばっかりで悪いがな、もう帰れ」

 妾は凄まじい程に肝を冷やした!!

 あの憤怒の魔王に命令口調だ!!

 成程、話し合いはするつもりは無いらしい。戦うつもりも無いようだが…

――帰れだと?この俺を前に、よくもそんな事を言えたものだな…

 憤怒の魔王は瘴気と思しき息を吐きながら勇を睨む。

 常人ならば、向けられた視線で絶命するであろう、それ程の圧倒的魔力を受け、平然としながら、勇は続ける。

「お前、俺を殺す為に喚ばれたんだろ?俺はお前にとって殺す対象なのか?」

 目を細めて勇を見続ける憤怒の魔王。やがて徐に口を開いた。

――殺すのは…強いて言うならば、お前を除いたこの場の連中だな

 妾も三柱も驚いて勇を見た。

 勇は当たり前のような顔をしながら頷き、続けた。

「解ってんなら帰れ。俺とやり合う事は無いんだろ?仲間に手出されたら、流石に俺は刀を抜くぞ」

 そちらが戦う意志が無くとも、仲間に向かって行ったら勇は戦う。

 憤怒の魔王に対して、遥か上から『見下ろした』交渉!!

 妾も三柱も、流石に声すら出せぬ程仰天した!!

――俺がお前と戦う理由は無い。無いが、喚び出された身、ただ帰る訳にはいかんな…

 ザワッと全身の毛が逆立つ。

 誰かを殺す気か?

「おい、仲間に手出すつもりじゃねーだろうな?」

 身を乗り出して憤怒の魔王に拳を振り上げる勇。その動作に全く躊躇が無い。本気で普通に殴りつけるつもりだ。

 あの超巨大な悪魔の頂点相手に、ただの拳骨で挑むのか!?

――あ、あまり暴れるな!!落ちるぞ!!

 全くこの男は、大した男か、後先考えない馬鹿者か、さっぱり解らぬ。

 その時、憤怒の魔王が徐に口を開く。

――落ちるか…ふん、全く以て不満だが、それで手を打つか

 憤怒の魔王の身体が黒く飛散して行く…!?否、存在が消えていく!!

――か、帰るのか!?

 思わず訪ねてしまった程、それは呆気なく、唐突だった。

――奴に言われたなら、そうせざるを得ぬだろう。だが、土産は貰った。貴様等は命拾いをしたな。奴に感謝しておけ……

 憤怒の魔王の巨躯が徐々に小さくなって行く…と言う事は本当に…?

「土産だ?まぁ仲間に手を出さなきゃ問題ねーけど」

 小さくなって行く憤怒の魔王は確かに笑った。

――いずれまた会う事になる…

 そう言い残して、憤怒の魔王は完全に妾達の前から姿を消した……


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ば、馬鹿な!!何故!?」

 存在が徐々に薄れて行く憤怒の魔王に驚きを隠せないリリス。

「あの馬鹿が何かやったのか!?」

 やたらと興奮している葛西。

「解らない…解らないけど…戦闘はしなかったのは確実だわ」

 ならば話し合いで?

 いや、北嶋さんの性格上、それは無い。上から目線の物言いで、失せろとは言うだろうが。

 それに、地獄にただ帰るとは思えない。


――リリス……!!


 完全に存在が消える前、憤怒の魔王がリリスに話し掛けてきた。

「は、はい…」

 流石のリリスもその圧倒的存在の前にはただ平伏するしかない。深く頭を下げて応えた。

――今回は見逃すが次は無い。せいぜい奴に感謝しろ

 それを聞いてガタガタと震え出すリリス。

 今回は見逃す。つまり、憤怒の魔王にとって、殺す対象になっていた?

 そう言えば、確か言っていた。殺していいのは八人か、と。

 北嶋さんが何らかのアクションを取り、全員無事だと言う事は、最初から北嶋さんは殺す対象になっていなかった?

 奴に感謝しろと言う発言からも、それは確定なのか…?

 考えている最中、憤怒の魔王の存在が完全に消えた。

 全員に圧倒的な恐怖を残して…

 ヴァチカンとリリス達が、未だに震えているだけになっていた。

 タマに乗って北嶋さんが帰ってくる。三柱様も後を付いて来ていた。

「北嶋さん、どうやって説得したの?」

 駆け寄りながら訊ねる。

「説得?いや?奴がサタンで地獄の支配者だから、俺と戦う事は無い。だが、仲間に手を出すならやると言っただけだ」

 タマと三柱様に目を向けると、ウンウン頷く。

 どうやらその通りのようだ。

「地獄の支配者だから…サタンだから…」

「は、はははは!!良人はあのお方だから魔王の敵にはならないんだよ!!」

 勝ち誇ったように笑うリリスだが、それは間違いだ。

 リリスが捜しているのは伴侶、アダム。

 北嶋さんがアダムだから、魔王が退いたと言う理屈はおかしい。

 ならばリリスを殺す対象にしていない筈だから。悪魔堕ちしたリリスは、基本的には魔王の仲間だから。

 もっと根本的な何かが…北嶋さんだけが知っている理由がある…

「憤怒の魔王の何かを鏡で知ったのね?」

 北嶋さんはタマから降りて首をコキコキ鳴らしながら言った。

「まぁ、全員間違っている。と言う事だな。勿論三柱も含めてだ」

 そしてリリスを見据えながら言い放つ。

「お前等今日はもう帰れ。俺はこれから婚約指輪を買いに行かなきゃならないから忙しいんだよ」

 にこやかに笑う北嶋さんに対して、憎悪を持った瞳で見据えるリリス。

「…良人…次は殺し合いですね…」

「一方的にぶち殺されるの間違いだろ。俺に喧嘩を売るっつうならそう言う事だ」

 寧ろ余裕で返す北嶋さん。リリスが微かに奥歯を噛みしめて松山を見た。

「主水、帰るよ」

 松山がヨロヨロとリリスの手を握る。もう片方の手はジル・ド・レを掴んでいた。

「神崎、またね…」

 私はゆっくり頷いた。

「本当の意味で…戦いは始まったわね…」

 去り際にリリスの口元が歪んだのを確認した。

 その歪んだ口元は、薄く笑った形となっていた。

 そしてリリスは姿を消した………


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