第7話

 「次戦、先鋒イリス・ミカエラ対中堅ランプ・ガバルド」

 両者ともに挨拶をして、契約を交わす。そして、イリス達は決闘を始めた。

 極簡単な説明になってしまうが、本当に極簡単に説明するかないほどに終わるのが早い戦闘だった。相手をイリスがさっきと同じように倒す。それ以外の手を全く見せない。それには理由がある。

 イリス曰く、他チームに技を見られるのはあまり良くないとのことだった。確かに一理ある、技を見られることで対策をされやすくなる。

 「雑魚ね」

 だからと言って暴言は言ってはいけません、と言っておきたい。そういうこと言うから他の奴らから邪険に扱われるんだ。なんてのも言ってみたいものだ、何されるか分からんから勘弁だけども。

 「えーっと、最終戦は先鋒イリス・ミカエラと大将オルカ・クラウス」

 若干説明も適当になっている。無理もないが、かなり酷い。この後に控えているのは学園最強のシエルに、最弱の俺だ。実力主義にも近いこの学園では致し方のないことだった。

 「あら、あの時の雑魚じゃない」

 初めてその場に姿を現した時、俺は違和感を感じた。それはオルカにだった。

 「アッハッハ、雑魚か、面白いこと言う」

 「醜い姿を晒さないのね、ようやく自分の器を理解してきたのかしら」

 「そうだな、確かにそうかもしれない」

 「......」

 いつもならここでキレている。それだけオルカは煽り耐性がないはずだ。なのにキレていないことに俺は驚いていた。それはシエルも同様、かと思っていたが、存外そうでもなく、大人しくその場を眺めていた。イリスに関してはいつもキレている様子を見て楽しんでいたから、この状況はあまり気に入らないように見えた。

 「......つまらない男」

 「吠えてろ、今から叩き潰してやる」

 「両者共々契約を」

 アナウンスが入りイリスとオルカは両手をかざす。

 「「導きによって進む我が身に宿る剣に誓って、この場に相手の盟約を期す」」

 「始め」

 気だるげそうにいい放たれた言葉と同時にイリスが動き出した。

 「早々に行くわよ、厳戒の盾よ、最強の矛にて最強の盾になりなさい!」

 先ほどと同じように行動をする。周囲にフラッシュが走る。そして会場の誰もが目を瞑っていた。これで終わると。

 「……見えてんだよ」

 カキィン……鈍い音が響き渡った。それは鉄同士がぶつかり合い、掠れる音だった。

 目が慣れ始めてきた時に、目に入った光景は。

 「……やるわね」

 あれで終わると思われていた試合が、まだ続いていた。

 オルカは仁王立ちで立ったまま一歩もあるいていない。それに対しイリスは盾ではなく二つのトンファー手にしていた。

 十字マークを半分にしたようにマークが入っていた。

 「なんだありゃ!」

 俺は始めてみるイリスの姿に驚きを隠せなかった。

 「あれがイリスの矛です。それよりも、オルカさんが可笑しい。彼にはあの技は防げないと思っていました……」

 シエルは動揺を隠せず、食い入るように見ていた。

 「じゃあ次は俺から行くぜ」

 オルカは姿勢を下げ、獲物を狙うように指先を向ける。

 「黒龍の園庭……」

 オルカの体には黒いモヤが出現し始めた。それを回避することは出来ない。ならば、とイリスが身構えた。

 「……あんな技今まで」

 俺はそのモヤをジっと見つめて、何か理解した時に、背中から冷たいものが走った。

 「はぁ……はぁ……」

 この会場に来たときに感じたあの感覚、あれはダメだ、戦っちゃダメだ。

 だが体が動かない。シエルは目の前の試合を釘いるように見ていた。もしかしたらイリスが負けるかもしれないと思っているのだろうか。でも、見られていなくて良かったと思う。俺はその黒いモヤに怯えていた。悪いことをして怒られるのを待っている子供のように。意味が分からない、何故怯えている?何故なんだ?

 「アハハハハハ!」

 体をグニャリと曲げ、突進をして来る。手をフォークのような形にし、上から振り下ろす。人間の技とは到底思えない。しかし、イリスはそれを間一髪で受け流す。

 「何この早さ!」

 尋常ではない、それはイリスも今ので気付いたはずだ。

 しかし、受け流してもオルカの進撃は止まらなかった。

 受け流されたのは右腕、左腕は勢いで制御できない。残るは足。

 オルカはその場で一回転して左足で回し蹴りを入れる。

 「ッ!!」

 完全に不意を付かれた。一回の攻撃で油断をした、というのもあるだろうが、あの攻撃を二回連続打ってくることを予想できなかったのだ。

 無理もない、あれだけ重く早い一撃を二回も反応できるわけない。

 「きゃあっ!」

 その蹴りが直撃した直後、土煙が吹き荒れる。

 「何が起こった!?」

 観客が慌てている。

 「イリス!」

 俺は横でイリスの名前を呼ぶシエルの声で、はっとした。

 何が起こってるんだ?

 「騒がないでくれる…かしら、こんな程度でやられるわけないに決まってるわよ……」

 そして土煙が収まると、イリスは片腕をぶら下げていた。

 「右手が行ったかしら……」

 右手にはトンファーは握られておらず、左手だけで構えていた。

 肩は上下に運動を始め、頭部からは血が流れていた。

 「はぁ……はぁ……」

 血が左目に流れ込んでいる。左目を瞑り、右目だけで敵を据えている。

 「あの一瞬で防御するなんて、流石だな」

 「それがこの様、話にならないわね」

 喋るのもやっとなのだろう、喋る度に唾を飲んでいる。

 「俺はお前に用はない。失せろ」

 「……まだ、やれる」

 トンファーを構える。

 「なら、やって見せろよ!」

 イリスの体はイリスが思っている以上に深刻だったらしい。

 「うっ……まだ、行け……」

 イリスは意思半ばにして、倒れた。

 「……えっあ、勝者、オルカ・クラウス!」

 観客がワンテンポ遅れて歓声が響き渡る。

 俺は、この状況を飲み込めず、カルラの方を見た。あいつなら何か知ってるんじゃないか。

 カルラは今まででみたことのない程の鋭い目付きをオルカに向けていた。そして、俺の視線に気付くと口で何かを喋って見せた。俺はその言葉をしっかりと理解してした。

 「……そうか、分かった」

 俺はその言われたことを、そのまま実行した。

 「イリスが、負けたなんて……」

 驚愕しているシエルのそばに行く。

 「シエル、ごめん」

 「えっ…あっ…」

 俺は気絶させたシエルをカルラの近くへと運ぶ。

 「すまない、手荒な真似しかなかった」

 「気にしないでください、それよりも、行けますか?」

 カルラは真剣な眼差しで俺を見つめる。

 「やれるかどうかじゃねえだろ、やるんだろ?」

 「……頼みます」

 俺は会場へと戻っていった。

 「つくづく、師匠に似てきましたね……」

 後ろからコツコツと暗闇から現れた一人の男。

 「最初から最後まで、本当に馬鹿な師匠と弟子ですよ」

 「インター、状況は?」

 「……不味い状況になりました」

 「まさか……」

 神妙な面持ちで、インターは意を決したように話す。











 「アニュー・アルバートンが、死亡しました」

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