第7話 かごめ かごめ


かごめ かごめ かごのなかのとりは


──懐かしい歌が聞こえる。


うしろのしょうめん だあれ


 あ、そうか。私みんなと遊んでたんだっけ。


「みぃちゃんでしょ?」

「あったりー」

「ちぇー、やっぱ4人じゃすぐ当たっちゃうな」


 いつもの山の中にある社の前、そしていつものメンバー。近所のみぃちゃん、おとなしめのてるちゃん、そして唯一男の子のよっちゃんだ。

 よっちゃんの家はあまり裕福でなく、他の男子の様に「バケモンウオッチ」を持っておらず仲間に入れてもらえないのだ。だからいつも遊ぶ時は私達と一緒だった。


「じゃさ、缶蹴りする?」

「缶がないよ」

「前に来た時床の下に隠しといたやつがある」


 そう言ってよっちゃんはお堂の下から缶を持ってきた。こちらに来ようとしてふいに上を見上げ、指をさす。


「あ、天狗だ!天狗出た!」


 一斉に皆振り向くと、木の上に黒い何かがいてこちらを見ていた。


「あっホントだー!」

「爺天狗と子供天狗がいるんでしょ?」

「今日も爺天狗だな、子供のは滅多に出ないし」


 そうそう、天狗。ここで遊んでいると天狗様がたまに覗きに来るのだ。天狗様は2人いるらしく、私は子供の方は見たことがない。


「こっちきて一緒に遊ぼうよー」


 みぃちゃんが声を掛ける。無駄だよ、天狗様はこちらが気が付くとすぐ姿を消してしまう。何度か声を掛けたことがあったが結果はいつも同じだった。


バササッ!


「あっ!」


 だが今日は違った。黒い姿の天狗様は私の幼い手を鷲掴みにするとそのまま連れていこうとする。


「えっえっ?」


 辺りを見ると誰もいない! 周りも真っ暗!


「み、みんなどこ?! い、いや! 行きたくないの!」


 嫌がる私に見向きもせず、そのまま高い空へ連れていこうとする!


「嫌ぁ──!! 助けてっ!!! 嫌ぁぁぁ────っ!!!!!」





「いやっ!……………ぁ……」


 気が付くと優衣は見知らぬ部屋で寝ていた。かぶせられていたのはシーツ一枚、

右手は点滴の為固定されていた。


ガシャッ!


 急に扉の開く音が聞こえ、誰かが部屋に入って来た。


「ひっ!」


 まだ半分寝ぼけている優衣は反射的にシーツで身を隠した。


「もう大丈夫よ、怖がらなくても。安心してね」


 誰だろう? 園江ではない、もっと若く聞き覚えのない声だ。恐る恐る顔を出してみるとスーツを着た髪の長い女性がいた。


「ここは八汐病院、あなた高天岳にある道の駅のベンチで寝ていたのよ。貴女のお名前……山ノ瀬 優衣ちゃん、でいいのよね?」


「あ、あの……どちら様ですか? あなたが私をここへ?」


 女性はにっこりとほほ笑んだ。

 優しげで凛として、それでいて綺麗な人だ。


「私は北上きたかみ 菖蒲あやめ、京の母です。息子から『同級生が倒れてるからすぐ来てくれ』って連絡があって、それからすぐここへ運んできたのよ」


「北上……君の……あっ北上君はどうなったんですか!?」


 そうだ、京は怪我をしていた筈だ。

 彼もこの病院にいるのだろうか。


「京なら心配ないわ、それよりも親御さんに連絡しないとね。お家の番号教えてくれないかしら。京の話によれば昨日の夕方から今までずっと寝ていたのよ」


 はっとする優衣。

 そうだ、連絡をよこさず園江もきっと心配しているだろう。


「あっ自分で連絡しますから! えと……携帯……」

「多分今の優衣ちゃんだと混乱しててうまく説明できないと思うの。私が調べて連絡しておくから休んでいてね」


 優衣は青ざめた。菖蒲は何と園江に言うだろうか?

 山にいたことを知られたら、と考えると居ても立ってもいられなくなった。


「駄目! おばさんには連絡しないでください!……友達の家に泊まるって言っておいてあるんです! 心配かけたくないの……」


 シーツで顔を覆い泣き出す優衣に、菖蒲はそっと頭を撫でた。


「わかったわ、うまく内緒にしておくから今日はここでゆっくりお休みなさい」


 面会時間を過ぎたのだろう。

 菖蒲は点滴を外しに来た看護師にかされながら出ていった。



(もう夜なのかな)


 カーテンの隙間から外を見ると真っ暗だった。ごうごうと音が聞こえる、相当風が強いのだろう。ベッドの脇にリュックと優衣の着ていた服があり、ところどころ破れていた。


(………あれは一体何だったんだろう)


 春華といったか、あの子供の姿をした何か。山で起こった出来事が徐々に浮かび上がってくる。


 その時、窓が強風で音を立てた。


「ひっ……!」


 慌ててベッドに戻り、頭からシーツを被る。もしやこの風は春華が自分を探しに来ているのではなかろうか。そう考えると気が気ではなくなる優衣。


 だが体の疲れはいつの間にか優衣を眠りへと誘うのだった。

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