-17-

 廊下を歩いていると、何人も悠太に声をかけていく。出逢ってからずっと思っていたことではあったが、彼の顔の広さをしみじみと実感した。明るく人懐っこい彼の性格は、きっと色々な人に好かれるからだろう。

 自分も見習いたいものだ、と小さくため息をつく。

 目敏くそれを見咎めた悠太が首を傾げるが、首を横に振り何でもないと答えた。

 二人並んで階段を降り食堂につくと、すでに満席に近い状態だった。


「あっちゃー……人多いっすねぇ」


 困ったように苦笑する悠太に、申し訳なく頭を下げる。


「僕が寝過ごしたばっかりに……」

「司っちのせいじゃないっすよ。俺も、結構寝過ごすんっす」


「今日はたまたま早かっただけっすよ」と、彼は笑った。気配り上手な悠太のことだ。これもまた、司が気に病まないようにという気配りなのだろう。それがまた申し訳なかった。


「さて、どこに座ろうかなっと……」


 言いながらぐるりと食堂を見渡していると、ある女生徒の一団が悠太に手を振った。


「やまちゃ~ん、おっはよ~」


 彼女の声に、悠太はニッコリと笑う。


「霜月じゃないっすか~。おはよーっす」


 挨拶を返すと、霜月と呼ばれた少女は悠太を手招いた。


「席無いんだったら、隣空いてるよ~」


 言われて見てみれば、確かに彼女の隣とその向かいの二つが空いている。渡りに船と、悠太の顔が明るくなった。


「相席いいんっすか?」


 すまなそうに近づくと、霜月は明るく手を振る。


「いいよいいよ、やまちゃんだし」


 ありがたい申し出に、司も小さく礼をした。そこで初めて司の存在に気付いたらしき霜月たちは、お互い顔を見合わせ小声で話を始める。声があまりに小さいので、司たちには内容が良く分からない。

 隠しもしない好奇の目に、髪を指で梳かす。

 どこか変なところがあるだろうか。悠太に指摘された寝ぐせは直してきたのだが、もしかしたら他にもあったのだろうか。

 座りが悪い司をもう一つの空いている席に促し、悠太が踵を返す。


「じゃあ、ちょっと朝ごはん持って来るんで、待ってるっす」

「悠太くん、僕も」

「司っちは座ってていいっすよ、俺持って来るんで」


 軽やかに笑い去っていく背を所在なさげに見つめた後、諦めのため息とともに司は椅子に座った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る