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「司っち、起きるっすよ」


 揺さぶられる感触に、司は重い目を開けた。


「ゆうたくん?」


 寝ぼけた舌っ足らずな声で誰何の声をあげると、まだぼやける視界の向こうで悠太が笑うのが見えた。


「朝っす。早く食堂行かないと食いっぱぐれるっすよ」


 そこまで来てようやく覚醒した頭が、時計と窓の外を同時に見る。時刻は七時半。日はすでに昇っており、カーテンを白く照らしていた。悠太を見れば、すでに制服に着替え前髪を留めようとしているところで、それ以外は身支度が完了している様子だ。


「す、すみませんっ 寝過ごしましたっ!」


 慌てる司に、悠太はおかしそうに笑う。


「気持ちよさそうに寝てたっすからね。起こすの憚られたっす。

 よく寝れたっすか?」


 問いに、頬を赤くしながら頷く。見ていた夢が何なのかを忘れるほど、よく眠れた。

 そう、何か夢を見ていた気がする。何か、大切な夢を。

 けれど、それは朝日の向こうに消えてしまい、今はもう思い出すことが出来ない。

 ボーっとしていると、悠太が訝し気に顔を覗き込んできた。消えてしまった夢を忘れるように一度軽く首を振り、頬を叩く。


「えっと、すぐに支度します」


 朝食の時間が学年ごとに割り振られているのは、昨晩聞いた。一年生と女生徒は一番早い時間帯だと言うから、確かにそろそろ行かないと間に合わない。

 慌ただしく身支度をする司の後ろで、悠太はタブレット端末で何かを確認していた。鏡ごしに見ると、端末を見ながら教科書や参考書を揃えている。どうやら、時間割はあれで確認するらしい。あとでやり方を教わろう、と心の中で頷く。


「すみません、お待たせしました」


 サッと顔を拭き、悠太に向き直る。すると、小さく笑われた。首を傾げると、彼は笑いながら司の後頭部を撫でつける。


「跳ねてるっすよ」


 言われた個所を手で押さえながら、司は頬を朱に染めた。さきほどから、悠太には恥ずかしい所ばかり見せている気がする。


「す、すみません」

「さっきから謝ってばっかりっすね」


 そう言って、また笑われた。


「じゃあ、食堂行くっすか」


 教科書の入った鞄を持ってドアに向かう悠太の後を追う。司の教科書や参考書は今日渡される手はずになっているので、手ぶらだ。何となく座りが悪かったが、明日からは解消されるだろうと考えることにした。

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