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「着れたっすか?」

「はい、着れました」


「失礼するっす」とひと言断ってから、カーテンを開け悠太は満足げに頷いた。


「似合ってるっすね!」


 そう言って笑ってくれ、ほっと胸を撫で下ろした。自分ではおかしくないつもりでも、悠太から見たらおかしく見えるかもしれないと思ったが、どうやら杞憂で終わったようだ。


「じゃあこれは買いっすね」


 買ってもらうことにはまだ抵抗があったが、服がないと困るのは事実だし、無一文な現状は変わらない。買いというからには脱がなければいけない。カーテンを閉めて服を着替えようとすると、それを制止して今度は黒のブイネックのTシャツと青のストライプ柄のシャツを渡された。意味が分からなくて、思わず二度見する。


「これは……」


 困惑して悠太を見れば、彼は不思議そうに首を傾げた。


「だから、着てみないとサイズとか分かんないじゃないっすか」


 当然そうに言われ、一瞬思考が停止する。


「そうですよね」

「っす。ってわけで、はい」


 停止した頭のまま返事をし、悠太に背を押される形で試着室に逆戻る。

 呆然と渡された服を見、ようやく稼働してきた頭で現状を理解し、慌ててカーテンを開ける。


「って! 何で二着も試着するんですか?!」


 司の狼狽に、悠太は訝し気に眉を寄せた。


「何で一着しか買わないと思ったんっすか?」


 逆に問い返されグッと言葉に詰まる。何でと言われても困る。何でもどうもない。そうだと思っていたのだ。一着買って終わりだと思っていたのだ。

 だって、


「買っていただくのに、何着も、なんて思いません……」


 ぼそぼそと抗議する。服がないと困るのは事実だし、無一文な現状は変わらない。けれどまさか複数買うだなんて思ってもいなかった。分かっていたら、そう易々と了承などしなかったのに。

 顔全体に不服を出す司に、悠太は腰に手を当てため息をついた。


「いいっすか、司っち」


 呆れたような顔をして


「遠坂先輩から貰った服って何着っすか」


 答えなんて分かっている問いを投げられる。視線を少し上げ、下げ、服を右手で弄りながら司は蚊が鳴くような声で答える。


「三着」

「そんなこったろうと思ったっす」


 ため息をつきながら言って、悠太は手にしていた服を全て司に押し付ける。


「放課後をずっと制服で過ごす気っすか? 最低五着は買うっすから、覚悟するっす」

「五着?!」

「最低でも、っすよ」

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