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「悠太くんは、彼女はいるんですか?」


 司の問いに、悠太はボッと頬を赤くした。


「え?」


 予想外の反応に目を丸くすると、彼は明後日の方向を向いて乱雑に後頭部を掻く。


「な、何っすか藪から棒に」

「い、いえ、女生徒と遊ぶことが多いようですから、特別な関係の方がいらっしゃるんじゃないかと思っただけですが」


 思わずつられて動揺した司を見ないで、悠太はもごもごと口の中で何かを呟いた。


「え?」


 反射的に聞き返すと、恨めし気に司を見た後、悠太が今度は気持ち大き目な、けれどやはり小さな声で同じ言葉を繰り返した。


「残念ながら独り身っす」


「でも」と付け足して


「す、好きな奴ならいるっす」


 唐突な告白に、司は再び目を丸くする。百戦錬磨の女遊びが激しい少年なのかと思いきや、存外一途なのだろうか。


「アルゴノーツに、ですか?」

「そうっすよ」

「学年は」

「……一個上」

「はぁ」


 意外だった。

 すごく意外だった。

 思わず感嘆の声が出る。

 司の反応が不満だったのか、悠太は唇を尖らせた。


「意外だとかおもったっしょ?」

「いえ、そんな」


 思ったけれど。

 首を横に振る司の心などお見通しとばかりに、彼はじっとりと不貞腐れた視線をよこす。


「女遊び激しいチャラ男の癖にって思ったっしょ?」

「いえ、別に」


 思ったけれど。

 素直に答えたら盛大に拗ねられそうな雰囲気を読み取れないほど、司は愚かではなかった。

 それでも、「いいっすよ別に」と答える悠太はすでにだいぶ拗ねているようだ。


「相手にもそう思われてるっすから」


 想定外の言葉に、今度は驚愕を隠すことは出来なかった。


「思われてるんですか?」

「思われてるっすね」

「それなのに合コンするんですか?」

「……だって、無関心だったらそんなん気にしないっすよね。気にされるってことは、ワンチャンあるかもしれないじゃないっすか」


 いかにもな言い分に、笑ってしまう。気を引きたいが故の、言ってしまえば気になる子ほどいじめてしまう、その感覚なのだろう。


「司っちは意地悪っす」


 不貞腐れて唇を尖らせる姿が幼くて、司は思わず吹き出していた。


「意地悪って……ふふふっ」


 ついには声を出して笑ってしまう司に、憤慨して悠太は地団駄を踏む。


「そんなに笑うことないじゃないっすか!」

「すみません、言い方が面白くてつい……ふふふっ」

「笑うなー!」

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