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「……何だよ」


 視線に気付き、智治は片眉を上げる。


「何で、俺より上ってわかったんっすか?」


 悠太の問いに、智治はただ「ああ」とつまらなそうな声を上げた。


「身内に詳しいやつが一人いんだ。乗鞍岳軍事兵器開発機構に、幼い天才学者がいるって。確か暴発事故んときに行方不明になったって言ってたな~って覚えてたから、そいつが暴発事故に巻き込まれたっていうんなら、それがくせぇなって思っただけだよ。ビンゴだとは思わなかったけどな」


 彼は、そう言って肩をすくめる。おいそれと手に入る情報ではないはずだ。一体、智治の身内とはどのような人物なのだろうか。

 同じように目を丸くした涼だったが、立ち直りが一番早いのも彼だった。


「寮はどうされるんですか? 空き部屋は……」


 言葉を区切って、悠太を見る。すると彼は、なるほど、確かに頭の回転が速いのだろう、すぐに意味を悟って嫌な顔になった。


「俺と相部屋っすか?」


 心底嫌そうに言われ、司もやや怯む。そこまで拒まれるとどうにもやりづらい。だが、不安を素直に言える雰囲気ではなかった。


「あの、僕なら」


「野宿でも」と言いかけたが、悠太のため息に打ち消される。


「いっすよ。りょーかいっす。一年は相部屋がデフォっすもんね。はいはい分かりました部屋案内するっすよ」


 乱雑に頭をかきながら早口でそう言い、悠太は鞄を肩にかけた。ふっと、志紀が笑う。


「合コンはいいのか?」


 揶揄の言葉に、悠太がじっとりと目を細めた。


「分かってるくせに。せーかく悪いっすよ、遠坂先輩」


 不満の言葉もサラリと返し、志紀は両手を叩く。


「と、言うわけでこの隊も五人になった。今後の作戦も気を引き締めてあたるように」

「Yes, Sir」


 綺麗な敬礼をする三人を見て、やはりここは、学校に見えて限りなく軍――それも空軍に近いのだと司は実感した。


「早速ですが、先日のテラー戦についてお話しが」


 タブレット端末を片手にやってきた涼に、志紀は頷きを返した。そっと、司の背を悠太の方に押す。戸惑いを浮かべると、横目でチラリと司を見て、彼は小さく笑った。


「寮の中のことや、食事の時間などは悠太に聞いてくれ。これから同じ部屋になるからな」

「でも」

「そうと決まればさっさと行くっすよ、神宮寺サン」

「あの」

「悠太、後は頼んだぞ」

「りょーかいっす」

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