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 自分のあずかり知らぬところで話が進んでしまい、あわあわと慌てふためいている左腕を掴まれる。


「部屋、案内するっす」


 明らかに不機嫌、不満、不平を訴える顔のまま、司の腕を取り悠太は歩きだした。引きずられる形でブリーフィングルームを後にした司は、まろびながらなんとか悠太に歩調を合わせる。


「あ、あの」


 どうしたものかと声をかけると、肩越しに振り返り悠太が片眉を上げる。


「悠太。月見里やまなし 悠太っす。悠太でいいっすよ、同い年なんだし」


 一度大きくため息をついたあと、立ち止まり彼はようやく、呆れたように笑った。


「まさか、ホントに合格するとは思わなかったっす。エウロパ、ああ見えて難しいっしょ? それをゼロから習得して及第点――しかも俺より成績がいいなんて、悔しいけどアンタ流石っす」


 そう言って、司の腕を離し、悠太は右手を差し出す。


「改めて、よろしくっす。ようこそアルゴノーツへ」


 呆然とその手を見つめていると、小さく噴き出した悠太が司の右手を握った。


「これから戦う戦友を、いつまでもシカトできるほど、俺、頭固くないっすよ」


 志紀とは違う、太陽のような笑みに、つられて司も微笑む。


「よろしくお願いします、悠太くん」


 手に力を込めて握り返すと、満足げに悠太が頷いた。


「あ、司っちって呼んでもいいっすか? 初めての同い年のメンバーなんっすよ」

「構いませんよ」


 そこまで言って、ふと悠太は司を上から下まで見た。


「そういや、司っちの私物とかないんっすか?」


 こてんと首を傾げられ、いささか気恥ずかしさを覚えて司は頬をかく。


「気づいたらこの世界にいたので、着の身着のままなんです。洋服は、遠坂先輩のおさがりを何着かいただきましたが、それ以外は何も」

「え、勉強は?」

「先輩から本をお借りしました」


 司が苦笑を浮かべると、悠太が目をまんまるく見開いた。


「洋服もケータイも本も持ってないんっすか?!」

「お恥ずかしながら」


 信じられないと顔にでかでかと書かれ、気まずく苦笑する。

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