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 苦笑を浮かべた志紀が、遠くを見るようにグランドに目を向ける。そこでは、サッカー部がドリブルの練習をしているところだった。


「でもね」


 どこか悲しい目をして


「俺は、それでいいと思っているんだ」


 その向こうに、彼は何を見ているのか。

 司が問うより早く、彼の顔から翳りが消える。


「さぁ、早く行こう。みんなが帰ってしまうからね」


 明るく笑うその顔に、先ほど見た暗さはもうない。

 そうなってしまったら、もう問い返すことは出来なかった。

 何より志紀自身が、その言葉を望んではいなかったのだろう。


「自己紹介は、何にしましょうか」


 ならば、自分はそれに従おう。

 いつか、

 いつかきっと、それを話してくれるだろうから。






 志紀がブリーフィングルームのドアを開けると、ちょうど三人が帰ろうとしているところだった。


「みんな、すまない。もう少しだけ時間をくれないか」

「えー……俺、スクード隊の女子と合コンの予定があるんっすけどー」


 不満そうに唇を尖らせている悠太だったが、志紀の後ろから入ってきた司を見、意外そうに目を丸くした。涼も、同じように驚愕してる。

 ただ一人、智治だけが、当然であるかのように涼しい顔を崩さなかった。


「今日から新しくメンバーに加わることになった、神宮寺 司くんだ。みんな、仲良くするように」

「ちょ、ちょっと待ってください遠坂先輩! マジでこの子入学したんっすか?!」

「新しくメンバーにって、こんな素人が?!」


 驚きを隠さない悠太と、不満をあらわにする涼をなだめながら、志紀は苦笑する。


「ちゃんと入学テストを合格したし、成績も優秀だ。今ウチの隊は欠員がいるだろう? だからここにという司令官の指示だ」

「うちにって……そんなに成績良かったんすか?」


 不服そうに唇を尖らせる悠太に、さすがの志紀も渋面になった。


「言いたくないが、成績はお前より上だぞ、悠太」


 志紀の言葉がよほど意外だったのか、悠太が音を立てて固まった。


「俺より、上?」

「そうだ」


 悠太の視線が、自然と智治に向く。先日の言葉を思い出したのだろう。

 視線を向けられた智治は、退屈そうな顔であくびをかみ殺していた。

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