第24話 兄妹の時間

「ようワタル。どうだったよ」

「返してもらったよ」

「うん。探してるとこ見つかったのはしゃーねぇーよ」


 俺の中には今、一抹の不安がある。それはコノミが先ほど放った言葉。

 おにーちゃんの好きなシチュエーションも分かったし。

 何をされるのか分かったもんじゃない。コノミは一旦火がつけば止まらないからな。


「ワタル君。コノミちゃんにもちゃんと構ってあげるんだよ。一応ワタル君の妹なんだから」

「分かってるよそんなこと。どんな時でも一番可愛いのは実の妹だからな」


 俺は腕を組み、ふん!と鼻を鳴らす。


「あのぉ、ワタルくん。僕、そろそろ帰らなきゃなんだけど……」

「シュンが変えるんだったら俺も帰ろっかな」


 時計の針はもうすでに6時を指していた。


「ハナカはどうする?」

「後は2人でお楽しみください」

「そ、そんなんじゃねえし‼︎」


 必死の抵抗を見て、ハナカが意地悪く笑う。

 みんなが帰って、どっと疲れが押し寄せる。


 ーーなんか一苦労って感じするなぁ。


 それから俺はいつも通り妹の作る飯を喰らい、風呂に入る。


 ーー明日が休日といっても喜べないのはなんでだろう……?


 シャワーのお湯が悲しみの雨に変わる。

 コンコン

 ドアをノックする音が聞こえる。おそらくコノミが着替えを持ってきてくれたんだろう。


「はーい。どうしたぁ?」


 ガチャッ

 コノミが風呂に入ってくる。タオル一枚で身体の全面だけを隠し、


「おにーちゃん。ごほーし、します……」


 とっさに俺も、近くにあったタオルでソレを隠す。


「は?何て?」

「だから!その、ごほーし!」


 ーー絶対意味わかってないよこの娘。てか何?これもその俺の好きなシチュエーションとかいうヤツ?


「まず、頭から洗うから」

「でもお前そのタオル、絶対落ちるぜ?」


 コノミがハッとする。そこは考えてなかったのかと呆れさせられた。


「だいじょうぶ。おにーちゃんになら全部見られても!」

「こっちの心臓が危ういわ‼︎」


 少し拗ねたように目をそらし、


「だって、おにーちゃんにごほーししたくて。おにーちゃんに好かれたくて」


 ーーぐっ、ここは妥協すべきか……


「分かった。好きなようにやってくれ」

「いいの?うん。そうする」


 ためらいつつも身体からタオルを放すコノミ。コノミのコノミが見えてしまった時、俺の心臓は1秒間に10回鼓動を打っているような気がした。


 ーーダメだ。コノミは妹コノミは妹コノミは妹コノミは妹。欲情したら負けだ‼︎


「それじゃあ髪から洗っていくね」


 わしゃわしゃとシャンプーをしてもらう。


 ーーあれ?気持ちいい。


 いわゆる頭皮マッサージというものだ。日々の疲れや緊張がほぐれる。


「コノミ。気持ちいいよ」

「そんな風に言わないで。ルピが聞いてたらチョットヤバイことしてるって思われるし」


 シャワーで流した後、心なしか髪がサラサラになったような気がする。


「顔は、洗いづらいから自分で洗ってね」


 コノミを待たせないように洗顔を素早く済ませ、


「終わりましたぁ‼︎次!よろしくお願いします‼︎」

「え⁉︎もう顔洗い終わっちゃったの?待って、さすがに身体洗うのには私にだってこころの準備があるよ」


 そんなこと抜かしているが、石鹸を泡立てネットで擦り始める。

 背中から始まる。


「おにーちゃん。背中、おっきい。私がちっちゃい頃とは全然違う」


 ーーあいにくお前のちっちゃい頃は知らねーよ!


 そこでふと気になったことがあった。


「コノミ、お前いつから俺のこと好きになったんだ?」

「ええと、6歳あたりからかなあ。初めは単なる好意だったんだけどそこからどんどん愛情に変わっていって……」

「んで今に至ると。ふーん。かなり前からだったんだな」

「うん。でもね、最近おにーちゃんが今までのおにーちゃんじゃないって知ってからかな。もっともっとおにーちゃんのこと好きになってきた」


 一通り後ろを洗い終わり、一応確認する。


「前も、やるんだよな」

「うん。そのつもり」

「よろしく、お願いします」


 そよままコノミは前に回り込むことなく、後ろから抱きつくような形で胸から洗い始めた。

 コノミの柔らかい感触が肌に触れる。


「ま、前に来て洗えよ!」

「ゲームでこうやってたんだからこうしてるの!それにまだおにーちゃんのソレ見たことないから勇気でないんだもん!」


 胸を洗っていた手がはらに移り、さらに下へ行こうとしている。


「おいコノミ。この先も洗うつもりなのか?」

「ゲームでは主人公がヒロインのこと投げて回避したけどおにーちゃんはそんなことできないでしょ?」

「だからって流石にそれはないんじゃ」

「それもそうだけど……」


 その先は自分の手で洗い、シャワーで流す。


「そんじゃ今度は俺が洗う番だな」

「それはいい。そんなことされたら私、ホントの意味でコワレチャウから……」








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