第25話 ワタルに姉なんて……

朝9時。携帯にミサからメッセージが届いた。


「今日あんたの家に行くから。起きてなさい」


ーーったく。休日ぐらいゆっくり寝かせろよな。


ルピは大の字で寝ている一方、隣にはもうとっくにコノミの姿はなかった。おそらくもうすでに朝食を作り始めてくれている頃だろう。それにしてもよくできた妹だ。

下に降り、コノミにミサが来ることを報告する。


「ヤッタ!私、先週会って以来まだ会えてないんだ〜」


休日の朝ごはんはパンと決まっている。

トースターでキツネ色になったら、ハムエッグとともにいただく。

優雅な朝食を終え、部屋に戻る。部屋に忘れていった携帯に通知があったことに気付く。


〈今から出るから〉

〈あんた、起きてるんでしょうね?〉

〈起きてなかったら承知しないから。〉

〈なんで既読つかないのかなー?〉

〈本当に今から行くから。〉


通知の量に絶句していると、新たにメッセージが追加される。


〈今、あんたの家の前にいるから。〉


ーーメリーさんかよ……。


ピンポーンと呼び鈴が鳴る


ーーうっ、もう来やがった


ピンポン。ピンポピンポピンポピンポピンポン


「ハイハイわかった今出ますから」


ドアを開けるとミサは詰め寄り、


「遅い!今より早く来なさい!」

「うっせーなぁ。ところで、今日は何の用?」

「ただルピの様子を見に来ただけよ」

「それだけならこんなに早くに来なくていいだろ」

「とにかく!ルピの面倒を見に来ただけなんだから早く家に入れなさいよ」


ズンズンと踏み入るミサ。


「ルピはどこにいるの?」

「俺の部屋で寝てる」

「な、なんであんたの部屋で寝てんのよ!」

「他に空いてる部屋がないからだよ。しょうがねぇだろ」


ミサは俺の両肩を掴み、顔を近づけて来た。


「何もされてない?襲われてない?」

「ルピはそんなことしねぇよ!」

「それなら、いいんだけど」

「ご心配どうも」

「あ、あんたの心配なんてしてないわよ!ただルピがあんたのせいで変な方向に進まないように……」


俺とミサで部屋へ向かう。ドアを開けると、先ほどまで敷かれていた布団がキッチリと片付けられ、その隣でルピがふう、と一息ついていた。


「おお、ミサちゃん。来てたんすねー。寝てなんかないっすよ。私はとても早起きさんっすから。ハイッ」


ーーコイツ、しらを切らやがって


「そう、それなら良かったわ。ワタルの話だと、まだ夢の中って聞いたけど、問題なさそうね」

「もちろんっすよ。私がそんなだらしない生活送ってるわけないじゃないっすか。どっかの堕天使ではあるまいし」

「そうよね。そんな天使あるまじき行為。絶対にないわ。ほっぺたにシーツの跡が付いてるのもきっと何かの間違い。よね?」


この時、ミサの顔はまるで谷に落ちて行く人をただ酷視する心亡き者のようだった。


「これは、あの、その。あれがこうなって、えっとー」

「ルピ、もう諦めろ。お前に残された道はもうない」


ルピの肩に手を置き、必死のフォローをする。


ガチャッ


ドアが開き、誰かが俺に突然抱きついて来た。


「ワタル?私、お姉ちゃん。覚えてる?」

「???え?何?姉さん?」

「ああん♡姉さんなんてステキな響き……。こんなに大きくなっちゃって」


ミサは目を丸くして聞く。


「サクラさん。ですか?」

「あなたはぁ。んーっと。そうだ、ミサちゃんね?元気にしてた?」

「ハイ。私は元気でした。サクラさんはアメリカでの生活、どうでしたか?」


ーーアメリカ?お姉ちゃん?なんの話だ?ワタルの姉なんて本編には一切出て来なかったはずじゃ……


サクラがルピの胸ぐらを強く掴み、


「ちょっとコノミ‼︎何グレてんのよ!髪の毛も金髪にしちゃって、毛先ちょっと緑色になってるじゃない。私がちょっと見なかったうちに何があったのよ?」


「えっ?誰っすか?この人。ちょっやめてくださいよ。助けてくれーっご主人!」


その時開きっぱなしのドアからコノミが入って来て、サクラのことをたまにかかる。


「おねーちゃん。私はコッチ。グレてないから」

「あら、コノミ。なんだ、フツーじゃない」


そう言って掴んでいたルピの胸ぐらを離す。

重力に逆らえず、ルピの後頭部が床に叩きつけられる。


「いってー。今ので脳細胞5万個は持ってかれたっすよ」


そんなルピの言葉を無視し、 半泣きでサクラはコノミと俺を抱き寄せた。


「2人ともほんっとうに大きくなったわね。お姉ちゃんは嬉しいわ」


コノミはサクラに尋ねる。


「おねーちゃんはなんで帰って来れたの?」

「大学で長期休暇をもらえたのよ。向こうに戻る時夜間とか、レポートを終わらせるための時間も考慮して明日のお昼には帰らなきゃだけどね」


苦笑いをしたあとで、サクラから質問があった。


「それで、このさっきからプンスカ怒ってるキワドイギャルは誰よ」

「その娘、ルピっていうの。うちに居候させているの。」


どうやらコノミは俺のことを気にかけてくれているようで、サクラからの質問には全て応答してくれる。


「ってことは家族ってこと?」


目を光らせて、ルピの手を両手で握り、縦にブンブンと振るサクラ


「よろしくね。ルピちゃん‼︎」

「ひいいぃぃぃぃぃ‼︎ごめんなさい!ごめんなさいい!!!!!!」

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