第23話スパイ作戦決行

 やわらかい空気が教室を包む中、俺の瞼はほぼ重力に逆らえずにいた。


「ワータール!」

「なんだよショウマ」

「昨日買ったももラビどうだったよ?」

「妹にぼっしゅーされた……。 無念」


 前の席で聞いていたシュンが振り返る。


「ええっ? 取られちゃったの?」

「そうなんだよぉ……。 俺の妹が私だけを見て! ったさ。そうしたら断れるわけねぇだろ?」


 ショウマはいくぶん声を抑えて言った。


「コソッと取り返しに行こうぜ」

「どうやって? 俺1人でできると思うのか?誰かコノミの気を引かせる人が……」

「それなら僕、やるけど」


 控えめだが、シュンが手をあげる。


「いや、でもコノミは人見知りが酷いからなぁ」

「そんじゃあ俺やるか?」

「ダメ、お前はムサイ」

「お前、俺へのあたり強くね?」


 ーーせめて女子がいいな。


 そこにハナカが教室に入ってくる。


「ハナカとかどうだ?」


 提案すると、ショウマは過敏に反応する


「おま、は、はな、ハナハナハナハナ……!」


 手が震え、歯をガチガチ鳴らす。


「ショウマくん、ねぇショウマくん大丈夫? どうしよう、返事がないよ」


 シュンが焦ってこっちに涙目で目をよこす。


「大丈夫だこいつは。 いっつもこんなんだから」


 俺らが話し合っている間にもショウマはハナハナ言っている。


「ねえ、ハナカ」

「なあに? ワタル君」

「今日うちに来ない?」


 俺は何の気なしに誘った。が、ハナカにはもっと別の意味で伝わったらしい。ハナカはいじらしく笑って見せる


「あら?ワタル君。 とうとう私から行くんじゃなくてそっちから誘うように……」

「違う!大きな勘違いだ!」


 俺は先ほどショウマがしたように、声を抑えて事情を説明する。


「実はな? 色々事情があって、コノミからゲームソフトを取り返すことにしたんだよ」

「あ、どんなゲームか分かっちゃった〜。 きっとワタル君のことだし、また小ちゃい女の子とか、妹キャラとかそういうのしか出ないやつなんだろうな〜」


 ハナカが距離を縮める


「そこらへんは割愛させてもらうが、とにかくミッション達成にはハナカ、君の力が必要なんだ」


 腕を組み、頷くハナカ。このポーズをするときは大体何か企んでいる。


「それで? 私は何をすればいいの?」

「俺がコノミの部屋に侵入している間、コノミの気を反らせていて欲しいんだ」

「なぁんだ。 そんなに簡単な仕事なの? もっとやりがいがあると思ってた私がバカだったわ」


 ハナカとの距離がさらに縮まる。


「でも、その話。 のったわ」


 2人に報告しようと、後ろを振り返る。

 天井を見つめているショウマの目から一粒の雫が流れ落ちた。

 時は来た。今は、なんとなくだがドアが大きく、重く見える。


「それじゃあみんな。 よろしく。」

「OK♪」

「任せなって!」

「僕でも力になれるといいな」


 今までにないほどの団結力を見せる。

 いざ、妹の元へ。


「ただいまー」

 と言った後、ハナカの


「お邪魔しまーす」


 の声で注意を引かせる。

 ちょっと大きめの声でシュンとショウマに話をしてもらい、いつものメンバー以外の人もいることを知らせて、準備はバッチリだ。

 2階からコノミが降りて来て、何時もに増して一層暗く、緊張気味だ。


「こんにちは……。 どうぞ、おあがりください」


 そう言ってリビングまで連れて行かれる。


「今、お茶の準備をして来ますね」

 

コノミがキッチンへ行った今がチャンスだ。

 音を立てないよう階段を上がり、静かにコノミの部屋に入室。

 まずは棚からだ。コノミもゲームはするため、それ専用の棚がある。上から順に調べたが、それらしきものは見当たらない。

 洋服タンスの中はどうだろう。服の間から、中まで調べたが手がかりはなかった。


 ーーもしや、これはベットの下……?

 

手を突っ込み、スマホのライトで照らすが、ここにもなかった。

 ため息をつき、顔を上げると枕の横に見覚えのあるパッケージが……。


 ーーきたー!!!!!!これが夢にまで見た秘宝か!

 

ケースを開けてみるが、本来CDが入っている場所が空っぽだった。


 ーーいや、まさか……。 まさかな。

 ゲーム機の電源に手を伸ばし、取り出しボタンを押す。

 ウィーン と無機質な音を立てて出てきたのは、正真正銘ももラビのソフトだった


 ーー⁉︎ なんで? なんでコノミがプレイしているんだ?

 ガチャッと開けて部屋に入ってかのはコノミだった。

 おわった。任務失敗だ。みんな、ごめんね。

 コノミは頬を膨らませながら近寄る。


「おにーちゃん。 何してんの?」

「ええと、これはだな、そのぉ……。」

「はあ、もういいよ。 もういいよおにーちゃん。おにーちゃんの好きなシチュエーションが大体分かったからね」

「それじゃあ、返してくれるのか?」

「うん。 このままじゃおにーちゃんが可愛そうだもんね」

「ヤッタァー‼︎ ありがとうコノミ。 やっぱ俺お前のこと好きだ」

「でもね、おにーちゃん。 今日から私もガンバルから。 そこは覚悟しといてね」

 コノミはそう言うと、リビングに戻ってしまった。

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