第19話重なる偶然

 19-19

車に乗ってから「百合さん、何処まで送れば良いの?土庄港の方のホテルに泊まるのだけれど」

「そうなの?同じ方向だわ、何処に泊まるの?」

「土庄グランドホテルよ」

「わー、近いわ、直ぐ側よ」二人はあの森田健次と云うお爺さんが書いた子供の両親で、自宅の近くにホテルを探していたのだ。

徹は昔配達に行った前田佃煮の住所を記入していたのだ。

「この住所って近く?」とメモ書きを百合に見せると「「何?なの?」

「夜間救急センターに治療に来て、お金を払わない人が書いた住所よ」

「貴女達は小豆島の人ではないでしよう?」

「患者の子供の親の住所よ」と守口が言うと渡辺が「家族で実家に遊びに来て、USJに熱が出て行けなかった子供が居たのよ」と言う。

「病院で治療受けて、お金を払わないのは良くないわね」と百合が言うと「この住所は近くなの?」と渡辺が尋ねると「私の家より、勤め先の側だわ」と百合が話して車は436号線を、土庄港を目指して走って行った。


(土庄グランドホテル)の仲居に二人は住所を見せて、場所の確認をした。

夕食の時に仲居が調べて「この住所は前田佃煮で、該当の百合と云う子供は居ませんよ」と詳しく調べてくれて報告を受けた。

翌朝、二人は前田佃煮に歩いて向かうと、昨日の工藤百合が工場の手前に来て、ばったりと出会した。

「えー、工藤さんもこの工場に?」

「はい、以前勤めていましたから、明日からまた働かせて貰おうかと思いまして」と答えたので二人は事情を話す為近くの茶店に百合を誘った。

百合は警察に連絡した方が良いよ、危険だわと和田刑事の連絡先を二人に教えて、自分達の知っている事を話すと、百合は顔色を変えてそのまま自宅のマンションに帰って行った。

この近くに犯人が居ると思った百合は、直ぐにマンションを逃げる事にしたのだ。

あの脅迫の手紙の人物が、小豆島に詳しいそれも前田佃煮を知っている。

この事実は工藤百合には恐怖以外の何ものでも無かったのだ。


逆に二人も恐く成っていた。

工藤百合とこの前田佃煮、そして誘拐犯が直ぐ近くに居る様に思えて、その日映画村とオリーブ園の観光をして、翌朝神戸に朝から戻って警察に行こうと、和田刑事に連絡をしていた。

和田刑事と山本、晶子の三人は渡辺達の到着を待っていた。

二人は夜間救急センターに急患で来た森田健次と百合の事を警察に説明した。

その幼女が誘拐された凜ちゃんに似ていた事、連れて来た男は60歳から70歳位で、禿頭、両親と上の兄弟とUSJに行く予定が下の子供の具合が悪く実家に残って、夜高熱が出て、救急センターに来たと聞いたと説明をした。

保険証を持参せずに来たので、住所と名前そして子供の実家の住所を書いて貰って、取り敢えず一万円を預かって、何日経過しても来ないので、書かれた住所に行くと空き地で、色々調べた事も説明をして、昨日小豆島にも行ったが該当の人が居なかったと説明した。

他に何か覚えていませんかの質問に渡辺が、乗ってきた車が私の車と同じ車種でしたと答えた。

直ぐに和歌山県警に連絡がされて、捜査の協力を要請した。

翌日夕方「長谷川昌子さんの土地は、持ち主の加藤一次さんに子供が無くて、奥様も離婚されて、妹の加藤響子さんの子供さんが相続されています。昌子さんの弟さんが和歌山に住まれています」

「年齢は?」

「五十代です」

「違うな」

和田刑事は年齢が六十~七十と言う渡辺の証言を重要視していた。

和歌山県警は車の車種からも調査をしていたが、担当が異なる為に両方でリストに載っていた徹をどちらも年齢が合わないで削除していた。

車の車種からも数人の該当者が見つかり、捜査員が調査に出掛けて調べる。

買った時が五十代でも現在六十代の人間は対象に調査をしていた。

徹は長年の失意の影響で、年齢よりも十歳以上も老けて見え、その上頭が禿げていたので、誰が見ても六十歳以上に見えたのだ。

本当なら、直ぐに該当者の一番手に成る筈が、偶然対象外に成るから不思議な話だ。


病気の看病から凜は徹に懐いて、楽しく生活をしていて、時々海外からいつパパとママは帰るの?と聞く以外は殆ど満足をしていた。

毎日徹は凜と遊ぶから、凜の好みの漫画、テレビ、食べ物、最近ではウサギまで買ってきて、二匹のウサギを家で飼って凜はすっかり気に入っていた。


真三の家では、母真由が息子に離婚を勧めていた。

役所の仕事でも移動で閑職に行かされる事が決まって、失意の底の真三を見かねての助言だった。

問題は子供をどちらが引き取るか?息子の再婚が難しいのなら、長男だけでも貰わなければと考える真由だ。

今は何も考えたく無いと怒る真三に困り果てる母だ。


翌日和歌山県警が長谷川昌子の土地の調査で、加藤一次、純子夫妻の子供が居ないので、妹の加藤響子に相続がされて、響子が亡くなったので長谷川昌子が相続した経緯を東京の昌子に尋ねる電話をした。

母の響子の兄夫婦に子供が居ない迄は理解出来たが、歳老いてからの離婚で加藤一次さんの土地が妹に渡った。

県警の捜査で意外な事が判明したのだ。

捜査本部は、この離婚から清水宗平の存在を突き止めたのだ。

偶然は恐ろしい、全く異なる方向に捜査がまたまた進み始めていたのだ。

捜査本部の調べで、この清水宗平は現在行方不明に成っていたので尚更、犯人の可能性が高く成った。


和歌山県警から詳しい資料が兵庫県警に送られて、捜査本部の小南は事件の解決が近づいたと喜んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る