第18話名探偵

  19-18

「その加藤さんは?」

「もう、亡くなられたよ、数年前、子供さんが居なかったので、奥さんの実家か、妹さんの物に成ったのかな?」

「住宅が在ったのですね」

「数年前に取り壊して、更地にしてから、そのままだよ」

「今の持ち主は判らないですね」

「役所で調べれば判るだろう、安いからね!この辺りは、中々売れないだろう」

守口の疑いは晴れて、町内会長は安心したのか立ち去った。

守口は乗りかかった船だ!市役所まで行って調べてみようと出掛けた。

事情を話すと「不思議な話ですが、関係が有るかも知れませんので、持ち主は教えましょう」そう言って調べて来て「長谷川昌子さんの名義に成っていますね」

「長谷川昌子さん?加藤さんでは?」

「加藤響子さんが相続されて、長谷川さんが相続されていますね」

「加藤さんの子供さん?」

「はい、加藤さんは結婚されて毛利さんに成られましたが、元は加藤一次さんの妹さんですから、一次さんは奥様がいらっしゃいませんでしたので」

「地元では奥様はいらっしゃったと聞きましたが」

「この書類には載っていません、もしかして離婚されたのかも知れませんね」

「長谷川昌子さんって、どちらの方でしょうか?」

「お待ち下さい」

係は資料を調べに行って、しばらくして「東京の方ですね、固定資産税の納付書を送っていますから、間違い無いです」守口は完全に行き詰まった。

東京の人間が救急病院の住所に使う理由が無かったからだ。

夜その事を渡辺に話すと「守口さん、今まで探していたの?」と呆れた顔をして「それなら、いっそ小豆島観光に行きましょうか?」と笑いながら言うと「それも良いわね、小豆島行った事無いから」

「私も、一度行きたかったのよ、季節も良いから」

二人には事件をネタに小豆島観光に行く事にしてしまった。

神戸港から坂手港、そして小豆島一周、寒霞渓、オリーブ園、二十四の瞳の映画村、そして診療所に記載の有った、土庄港の近くの住所に行く予定だ。

五月の連休の出勤の代わりに連休を貰っている二人は、半分観光気分半分は探偵気分だった。


兵庫県警は捜査課長の井元が誤認逮捕の責任を取って辞任して、新しく小南捜査課長が指揮を執って、新に捜査が始めから行われる事に成って、姫路警察の藤井と田所も呼び出されて兵庫県警で捜査会議が行われた。

①南田凜は四月の姫路動物園の遠足で行方不明に成った。

②誘拐をしたと云う連絡も身代金の要求も無い。

③南田麻由子の過去のデリヘル時代を告白するチラシが配布されていたが、二年前で今回の失踪との結びつきは無い。

「誤認逮捕の工藤百合ですが、誤認逮捕の後はマスコミに毎日の様に出ていましたが、急に見なくなったのは、何か理由が有るのでは?」と和田が発言した。

「それは、単なる偶然では?」

「あれほど、警察を笑う発言をしていたのに、急に消えたのが些か気に成ります」

「和田君はその辺りを調査して下さい」

「本当に誘拐でしょうか?」と藤井が発言すると和田が「百パーセントとは言えませんが、八十パーセントは誘拐だと思います」

「では、犯人像は?」

「半分は変質者で、普通の生活を出来る人間だと思います」

「短時間に連れ去っていますから、計画的でしょうね」田所が発言して、その後も色々な刑事が発言して、夕方まで初めての新体制の捜査会議が続いた。


翌日和田達は工藤百合の自宅に向かった。

突然の豹変の真相を突き止めるためだったが、由佳子の実家に百合の姿は無く、何処に行ったのか判らなかった。

由佳子の働いている職場に行くと「もう数日前に、何処かに子供と出て行きました」

「行き先に心辺りは?」

「有りません、唯娘が危ない、見られていると話していました」

「それは、何か切掛けが有ったのですか?」

「手紙かも知れません、全国から沢山色々届きましたから」

「手紙?」

和田は百合を脅迫した?真犯人?麻由子を苦しめていたから?との推測をした。

和田刑事は最初から、麻由子に対する何かの思いが有るのでは?との疑問を持っていたのが、この話を聞いて大きく心の中にその思いが大きく渦を巻き始めた。

何処に行ったのだろう?百合の行方が心に引っかかった。

百合が今度は自分と子供が狙われるのでは?の恐怖に姿を隠したのだ。


週末から、夜間救急センターの二人は、探偵旅行と観光旅行を兼ねて神戸港からフェリーに乗って小豆島に向かった。

五月の中旬はもう夏の日差しが照りつけて、フェリーの客席は暑さを感じるので、外の空気を吸おうと二人が甲板の椅子に向かった。

午後二時に神戸港を出港して、約三時間半の船旅、甲板で守口が「あの親子見て」と目で合図をした。

「あれは、工藤百合さんでは?」と渡辺が驚きの表情に成った。

テレビで何度も見たから、覚えていたのだ。

「一緒の子供は間違われた女の子よね」

「小豆島に用事かな?」甲板の日陰でアイスクリームを食べる子供の姿。

「私達の探偵旅行には、幸先が良いわね」

「本当は犯人と接触していたら、大スクープね」二人はデジカメで撮影を密かにしていた。

興奮の二人は絶えず親子を見ていると「私達があの親子と仲良く成るともっと聞けるわね」と守口が急に言いだした。

どの様に切掛けを作ろうかと考えていた二人に百合が「貴女方、私達に用事なの?」といきなり声を掛けてきた。

すると守口が「有名人だから、知っているわよ」

サングラスと帽子で判らない様にしていたが、見られていたのかと失敗と云う顔で「何者なの?」と百合が聞くと「病院の事務員よ、怪しい者ではないわ、安心して」と笑うと渡辺も「小豆島の観光に来ただけですよ、貴女がテレビで有名だから、見ていました。すみません」と会釈をした。

「私達、小豆島始めてなのです、観光ですか?」と守口が言う。

「私、今は小豆島に住んでいるので、帰るところです」

百合は病院関係の女性だと安心したのか本当の事を喋った。

二人はその後理佳子に気に入られようと、おもちゃを売店で買ってきて喜ばす。

百合も気を許して、警察の逮捕劇の話をして、大笑いをして気分が良かった。

二人は百合がバスに乗って自宅に帰ると話したので、一緒に送りましょうと話すと、百合は喜んで二人の車に乗った。

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