モンスターデザイン工房と勇者パーティの宣戦布告
はい、アーティストはゴールドスタチューで曲名は「黄金の戒め」でした。
大きな体から発せられる良く響くバリトンボイスは非常に聞き心地が良いですね。
「黄金の戒め、という曲名は彼の体験に基づくようですね。欲にまみれた人間達は、自分が守る宝物のみならず自分をも狙う事が多く、その度に返り討ちにしていたとの事です」
彼自身も黄金に輝く。ゆえにつられて挑んで敗れ去った冒険者も数多いのだろうね。
「実際、ゴールドスタチューさんはある遺跡の最奥で宝を守っており、その強さは折り紙付きです。なお、ゴールドスタチューという名前ではありますが、彼の体自体は金メッキを施されているだけです」
そうなの!? 全然知らなかったんだけど!
「彼に襲い掛かる事自体が間違いという事ですね。労多くして益少なしの典型です」
じゃあメッキの下の素材は何でできてるの?
「魔鉄鉱石から精製したデモン鋼で出来ております。魔法を反射し、物理攻撃にも極めて高い耐久性を持つ、非常に良質な金属です。あまり量産できないのが悩みどころですが」
それほど良い素材なのに量産が出来ないのは勿体ない。もっと体制を変えて、量産できるように精製方法なんかも模索しないといけないね。
「そうですね」
はい、では次のコーナーに行きましょう!
こちらも新コーナーとなります!
「マオウ様、タイトルコールお願いします」
行きますよ~~~!
『モンスターデザイン工房』のコーナー!!
「ぱちぱちぱち」
えー、このコーナーはですね、魔王軍で魔物を考えるアイデアがなんだかマンネリ化してきたのでリスナーから奇抜あるいは新鮮な魔物のアイデアを募ろうというコーナーです。
「我々が考えるとどうしても本気で冒険者を殺しに掛かるようなものしか考えないのですよね。それは目的から考えれば当然の事なのですが」
ゴールドスタチューもそうだけど、キラーラビットやグレーターデーモン、ニンジャマスターとかもね、冒険者をどうやってぶち殺そうかとその一点に絞られた、実にストイックなものになりがちだよね。
でもそれじゃやっぱりつまらないよね。何より面白みがない。
そういう訳で、この番組を聞いてるようなリスナー諸君なら何か面白いアイデアを閃いてくれるんじゃないかと思って作ったんだ。
「アゼル様の魔王時代の魔物なんか、本気で神や人間をぶち殺そうという気概に溢れたデザインばかりでしたね。今残ってるのはほんのわずかですが」
そんな父さんが精力を注いで作り上げた最高傑作の魔物が、アシュラ像とかいう物らしいね。あれは一度だけ僕も動いている所見たけど凄まじいよ。
人間達が崇拝している宗教の神? をモチーフに作ったらしいけど、アシュラとか言っている割には千手観音かよってくらい手があって、武器を何本も持てる上にどの腕も干渉しないように上手く作られている。
見上げる程の巨体の癖に素早さが尋常じゃなくて、盗賊や忍者ですらも先手を取れない。1ターンで最大8回攻撃してくる極悪な物理主体の魔物なんだよ。
しかも像を作って仮初めの命を吹き込む魔法生物だから、像さえ作ってしまえばいくらでも補充が利くのが素晴らしいんだよね。
問題はその像を作る所なんだけど。
「熟練の職人が数か月手掛けてようやく1体作れるか、ですからね」
あまり経験のない職人でも作れるように、造形を簡略化したアシュラも作ってはみたんだけど、それだとやっぱり強さが数段落ちるって言われていたね。
「中の部品も減らしたり機構も単純にしたらしいですね」
そうだね。やっぱり複雑に、繊細にするほどアシュラ像は強くなる。
簡略化すると量産しやすくなるけど、できる動きが限られてしまい動きが読みやすくなってしまうって言ってたな。
結局作れたアシュラ像は10体にとどまったが、長い戦いの果てに9体は壊されてしまった。1体だけ残ったけどメンテナンスできる職人も引退してしまって技術が途絶えてしまった。勿体ないよね。
その技術の粋を詰め込んだ最後の1体は魔物ミュージアムの中に保管されているよ。
「そうなんですか。俄然興味が湧いてきたので一度見てみたいですね」
うむ。一度見てみるといいよ。芸術的な美しさもあるから。戦いの道具だけど。
じゃあそろそろリスナーさんが送ってくれたアイデアを紹介していくよ。
投稿者、人面樹さんより。
マオウ様こんにちは。
――はいこんにちは。
私は常々思っているのですが、植物系の魔物は他の魔物と比べて種類が少ないように思います。
――そうかな? 結構様々なのが居ると思いますけどね。
ハエトリソウが餌を求めて歩行するようになったマントラップ、そこから進化して人の頭をまるごとかぶりつくようになったヘッドイーター。毒の霧を吐くグレイブポット。ちょっと例を出しただけでもこれだけいるし、更に人面樹さんやドリアードみたいなのも居ますしバリエーション豊富ですよね。
まあいいや続き読みます。
特に砂漠地帯の植物が少ないと思います。
――あー、砂漠はね。そもそも水が少ないから水をより必要とする植物系にとっては厳しい環境だろうね。植物に限らず動物や虫も砂漠に適応できたものしか居ないし。生物の匂いがまずないよね。
魔物を置くまでもなく、人間達も過酷な環境によって乾いていく。
それで、砂漠地帯に自生しているサボテンという植物をベースに魔物を作る事を提案します。サボテンは肉厚な茎を持ち、砂漠に生えているだけあって乾燥に非常に強いのです。一番の特徴として「針」状になった葉を無数に生やしているという点が挙げられます。これはまさに武器としてうってつけではないでしょうか。
そういう訳で私は考えました。
針をもっと伸ばせるように改良し、人間の首筋や心臓を突き刺すような針を持った「吸血サボテン」という魔物を作ったらどうかと。
使うサボテンの種類は実をつけ、茎も食べられるものにすると人間が水分補給の為に寄ってくるはずです。そこをズドンと一刺し! これはイケるはず。
是非とも考慮の程よろしくお願いします。
――かなり良く練られたモンスターの案だね! マオウかなり感激しました!
砂漠地帯を通る冒険者は決して多くないとはいえ、魔物の配置はやはりしておくに越したことはないなと改めて思いなおしました。
という訳で、我々はこのアイデアをもとにサボテンの魔物を既に作りました!
今はテストという事で、試しにとある砂漠地帯に何体か置いているんだけど、首尾はいかがかなユミルさん?
「はい、吸血サボテンですがたった今冒険者に襲い掛かり、針が心臓を貫きました。最初の犠牲者となりましたね」
おお、素晴らしいですね!
「サボテンの針ですが、蚊の口の構造を参考にした所、吸血能力が飛躍的にアップしました。また移動できるように根っこを改良して歩行できるようにもしました。これで冒険者が見つからない時でも自ら探すことが可能になります」
歩行速度はどれくらいの速さなのかな?
「残念ながら植物ですのでそこまで機敏には……。人間がゆっくり歩く程度の速度が精一杯です」
まあ、しょうがないか。
そういえばサボテンで僕はもう一つ案を思いついたよ。
もっと形を人型に近づけて、手足をつけて、針を嵐のように飛ばせるようにするんだ。どうだい、これはかなり良いアイデアだと思わない?
「マオウ様。その案は非常に秀逸だと個人的には思いますが、辞めた方が良いです」
ええ? 何故?
「何故も何も私の直感のみですが。これだけは絶対に許可できません」
謎の反対を喰らってしまった。納得いかないが仕方ない。
そういう訳でして人面樹さん、新たな魔物のデザイン案は採用です!
おめでとうございます!
また何か思いついたら送ってください、よろしくお願いします。
はい、では次の投稿に行きましょう。
投稿者、魔王城の図書館司書より。
こんにちはマオウ様。ご機嫌如何でしょうか。魔王城図書館のご利用ありがとうございます。
――はい、こんにちは。いつもお世話になっております。
モンスターデザイン工房というコーナーができると聞き、私も応募させていただきます。
現在、問題になっているのは図書館の警備についてです。
我が図書館は主に魔族の方々やマオウ様、そして秘書の方々が利用するだけでございますが、昨今は勇者たちがこの世界にやってきていると聞き、これは大変だと思いました。
他の施設と違い、ここには戦闘に長けた魔物がおりません。元々ここを襲う勇者たちも居なかったので、これまではそれで良かったのです。
しかし、このたびの勇者パーティーに魔術を究めようとする魔術師が居ると聞き、ここに来るかもしれないという危惧を抱きました。
――そうだね。ギデオンなる魔術師が魔術を究めんとしている、というのは勇者の手紙にもあったし、彼らなら来る可能性は高いだろうね。
とはいえ、今の魔王軍の状況はこちらに派遣できるほど戦力に余裕がないという話が聞きました。我々はともかく、せめて本だけでも守れるようにしたいのです。
そういう訳で、我々も考えました。
本自体が戦えるようになればいいのだと。
本に本が好きな魂を定着させ、本を奪おうとする者どもに襲い掛かる魔物を仕立てるというのはどうでしょう。
開いた本のページには定着させた魂の顔を、そして手を付けます。
また定着させる魂は本好きでなければなりません。でなければ本と一体化などできようもない。
彼らは普段は図書館の本を管理する司書となり、侵入者の気配を感知したら警備員に早変わりするのです。これは我ながら一石二鳥のアイデアだと思います。
名前も考えました。「アポクリファ」とします。
いかがでしょう。是非とも採用されると我々も嬉しいです。
――はい。こちらもまたよく考えられた素晴らしいアイデアですね!
これも既に1体試作しております。本好きな魂なんて深淵にいくらでもいますからね。ユミルさん、アポクリファの働きぶりはどうですか?
「はい。よく働いているかどうかはわかりませんが、今は机の上に本を山積みにして読みふけっていますね。自分で本を片付けたり、図書館の中を進んで掃除しているようです。あとは侵入者が来た時にどう動くかを見たいですね」
うんうん、だいぶいいですね。
アポクリファは基本的に空を飛んで移動するみたいだね。
ま、固着してる魂は大抵賢者や魔術師だろうし、浮遊移動の魔術くらいは使えて当然か。
試作したアポクリファの働きぶりも中々良好みたいだし、これから量産していくと司書たちには伝えよう。きっと喜ぶぞ。
というわけで図書館の司書さん、どうもありがとうございました。
また新しい魔物を思いついたらこちらに送ってね。
……うん、ここまで二つ紹介したけどどっちもガチな部類のアイデアだね。
必要に迫られたものと真面目に考えた奴だからかな。
「マオウ様。実は私もひとつ案を考えたのですがいいでしょうか」
お、ユミルさん何かいいアイデアあるのかな? 是非発表よろしくお願いします。
「はい。実はもう既に試作しております」
ん? ブースの奥から何かがひょっこりと姿を現して……。
ってキモっ! なんだこれ!?
「魔物の名前はイヤーフェイスと言います。老人の顔に大きな耳をつけたそれだけの魔物です」
どうやって歩くのかと思ったら耳たぶを器用に動かしてそれで歩くのか……。
で、この魔物を作ろうと思ったきっかけなどは?
「特にありません。フッとある時急に思い立ちました」
閃きかよ!
で、作ったはいいけどこの魔物どうしようね?
「うーん。強いて使い道があるとすれば、迷宮に意味もなく配置して冒険者の不安を煽るくらいでしょうか。あ、一応あと叫び声で敵の素早さを半分にできます」
お、どういう叫びなのか一度聞かせてよ。
「わかりました。ほら、鳴いてみて」
『ま゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』
なんかこう、老人が唸ってるような声だな……。すごい不安になる。
確かにこんなのが迷宮にいて、ひょっこり通路の角なんかから出てくるとビックリするかも。
「一度見たらそれでおしまいのビックリ箱系の魔物ですけどね。私はこういうの嫌いじゃないのですけども」
ユミルさんのセンスは中々独特なものがあるよね。
ともあれ、今回3つのアイデアが紹介されましたが全て採用とします。
センスがある、或いは実用的な魔物のデザイン案が集まりました。
「応募してくださったリスナーの皆さま、ありがとうございました」
はい、という訳でモンスターデザイン工房のコーナーは以上となります。
「番組はいつでも貴方のお便りをお待ちしております。宛先は魔王城地下666階のラジオブースの各コーナーまでよろしくお願いします」
お、では番組終了の時間がそろそろ近づいてきましたのでお別れの挨拶を……。
ん? 何? どうしたのディレクター。
今すぐ繋いでもらいたいものがある? 番組の進行を止めてでも?
……それほど重大な事なのかな。わかった、流そう。
えー、ここであるリスナーからのメッセージ……ではなく生放送がつながっている、とのことです。マジで?
というわけなので、ちょっとお話ししてみようと思います。
* * * * *
ザー、ザガッ、ザザッ……ピュイーン。
「本当にこれでつながっているのか? 勇者様よ」
「少し落ち着いてよイリーナ。多分これで相手と話できるはずだから」
うむ、実に鮮明に聞こえるぞ。勇者どもよ。
「うわっ! 本当になんか聞こえてきた! マジかよ」
一体どういった御用かな? それにどうしてこちらの連絡先を知っているのかね。
「知ったも何も、お前が散々ラジオで宛先言ってたじゃないか」
おお、そういえばそうだったな。
今話している君は一体どなたかな?
「勇者様の盾にして恋人、イリーナ=ラディオノフだ!」
「いやいや恋人でもなんでもないから。ただのパーティーメンバーです」
ほほう。君がイリーナ。勇者のけがれなき貞操を奪おうとしたハーフジャイアントのイリーナ君か。是非とも一度お目にかかりたいものだな。
「なななななな! 何でそれを知っている!?」
そこの勇者殿にでも聞いてみればすぐにわかることだよ。
「くっそぉ~~~~。あとで覚えてろよ勇者様」
「こっわ……マジこっわ」
それにしてもイリーナ君。君はなぜこのラジオの存在を知れたのかな?
「勇者様が夜中こそこそ何かやってるのが気になってな。様子を見てみたらこのラジオ? って変な道具で何かを聞いているじゃないか。ぶんどってアタシも聞いてみたらなんと大魔王が喋っているというから驚きだ。魔王軍の情報やら魔物の配置の話やら、アタシらにとっても色々と有用な情報を得られてそれはそれは感謝してるぜ、DJマオウ様よ?」
「……僕は大魔王が本当にラジオなんかやってるだなんて思いもしなかったよ」
タイトルコールで散々マオウと言ってるんだがな。
「マオっていう名前の人がやってるのかなって」
色々とその理解の仕方は無理があると思うぞ、勇者ハッシーよ。
「今考えるとそうなんだけどね。思い込みの力は怖いね」
「何のんきに魔王と喋ってるんだよ! アタシたちはそんな話する為にわざわざつないだわけじゃないんだよ!」
「わわっ! ごめんって!」
うむ。ようやく本題に入ってくれるか。それで何用だ。
「そうやって余裕こいていられるのも今のうちだぜマオウ! アタシたちはな、ついに封印の遺跡を攻略したのさ」
何? 本当かそれは。
「封印のペンダントが何よりの証拠さ……って見せられないのが残念だがね。これから魔王城まで行くから首を洗って待っているんだな!」
「というわけで、僕としてはラジオのリスナーだった手前、すっごく気が進まないんだけど出会ったらよろしくね。はぁ、しかし本当に魔王がラジオ放送なんかやってるとはなあ、びっくりだよ―――」
ザー、ザガッ、ザザッ。ピシューン……。
* * * * *
切れたか。
「マオウ様。如何なさいますか?」
うむ。すぐに直下の将軍たちに召集をかけてくれ。
勇者たちはまだ封印の遺跡にいるのかな?
「はい」
そこから魔王城に来るまでは船を使って海を越え、険しい山岳地帯と魔物が蠢く洞窟を抜けなければならない。
どんなに速く見積もっても2週間はかかるだろう。
急いで対策を立てる必要がある。緊急会議だ。
「その前にマオウ様」
あ、そうだね。
リスナーの皆、聞いての通りだ。
ついに勇者たちがやってくる。僕たちも負けてはいられないよ!
一致団結して勇者たちを倒そうじゃないか!
それでは今週のDJマオウのデッドオブナイトラジオも間もなく終わりの時間を迎えます。今日も長時間お聞きいただきありがとうございました。
DJは勇者をなぎ倒すもの、マオウでした!
SEE YOU NEXT TIME! BYE BYE!
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