お客さんいらっしゃ~~~いのコーナー、後半

 はい、アーティストはクインテットドラゴンズで「ヘルファイア」でした。

 四大属性のドラゴンが勢ぞろいで咆哮を披露してくれるというのはかなりの贅沢でしたね。


「収録時、火、水、風、土のブレスが吐かれてそれはもう大変なことになってしまいましたけどね。混ざったブレスが暫く滞留して録音ブースがしばらく使えなくなりました」


 しかもドラゴンが大きいから、ブース特別に作ったんだよね。

 とんでもなく大きな山をくりぬかないとドラゴン用の録音ブースが作れなかったもんで。


「あの洞窟作るのにどれだけの予算を費やしたか……」


 まあまあ、おかげで四属性のドラゴンの美声が聞けるようになったしいいじゃない。

 ドラゴンの咆哮、もとい歌声が聞けると聞いて毎週のコンサートが大入り満員で、すぐにでも回収できそうなんだよ。

 あとはねえ、光と闇のドラゴンが来てくれると完璧なんだけどね。彼ら二匹の居場所が全然わかんないんだよね。

 光のドラゴンは気まぐれな奴で居場所を転々としてるから中々捕まんないんだよね。


「光のドラゴンならこないだの休暇で地上に居る事は確認したんですけどね」


 その後、裏世界のマグマに浸かってるのを僕が見かけたことありますよ。

 本当に放浪が好きなんだよなぁ。逆に闇のドラゴンは本当にどこにいるのかわかんないんだよね。山に穴掘ってそこに住んでるらしいんだけど、うちの父さんも大魔王やっている時から見かけたのは3回くらいだって言ってたし。


「人探しならぬドラゴン探し、企画でやってみましょうか?」


 お、いいねえそれ。今度の企画でやろうかな。


 さて、音楽も終わったんだけど未だに相馬さんは目覚めません。

 大分音楽の尺を長く取って、その間に覚醒の魔術や目覚めの奇蹟、そのほかに状態異常治すアイテムとかHP回復するアイテムつぎ込んだんですが、結局ダメでしたね。


「おっかしいなぁ。大体ぶん殴って遅くても5分くらいで目が覚めるんだけどもナァ」


「……相馬さん、寝息立ててませんか?」


 あ、なんかそれらしき音が聞こえるっていうかイビキうるせえなおい!!

 ちょっと相馬さんのマイク切っておいてください。音が入るといけないんで。

 これどうなってるんですかラモスさん。


「多分眠りの周期に入っちゃったのかもしれないネ。相馬さまは100年に一度長い眠りに入るんだけども、今ちょうどそのタイミングになっちまったんだネー」


 ぶん殴ったのがトリガーになった……?


「そ、そんな事はないヨ?」


「マオウ様。せっかくラモスさまにも来てもらったのですし、ラモスさまから話を聞くのも良いのではないでしょうか? 仮にも地上で魔王をとしての役割を果たしていましたし、実績も十二分にありますよ」


 そういやそうだ。相馬さんは基本的に裏で暗躍してる事が多いから、記録があんまり残ってないんだよな。細かい事はラモスさんに話を聞いた方がいいのかもしれんね。

 じゃあ、今度は引き続きラモスさんからお話しを伺っていこうと思います。よろしくお願いします。


「うン? 私から話を聞くのカイ? まあ色々話してもいいけんどモ」


 では行きましょう。どこから話を聞こうかな?

 大魔王の理念的な事は相馬さんから聞いたし、実際に色々動いてたのはラモスさんなので、どういう事をやっていたのか聞いていきましょう。


「そうだネ。まず私は人間世界を支配下に置くために、地域の支配者を魔物とすり替えて私達に都合の良いような政治をわざと行わせていたヨ」


 魔物を支配者に!? それは中々どうして、思いつかなかった手段だ。


「マオウ様、意外とそういう知恵回らないんですよね」


 戦う方では脳味噌回るつもりなんだけどね。策略を巡らす的な発想はあんまりないかもしれんね。

 父さんも戦いの方面では頭が回るんだけどそういう策謀はあんまり考えないね。


「貴方達親子は脳味噌筋肉でできてるんですか?」


 失礼な! 僕は魔術も奇蹟も両方使える優秀な賢者ですよ!


「そういう意味で言ったのではありません」


「うんうん、若い人は力押し大好きだよねエ。君のお父さんは脳筋って感じだけド。私は元々魔術師出身だから力押しできない事が多くてネ。頭を使ってどうするかを考える事の方が好きってのもあるカナ?」


 なるほどなるほど。


「最初にすり変えたのはとある地方の王様だったんだけど、これは最初は上手くいっタ。でも、真理を見せる鏡とやらに元の姿を見破られて勇者に倒されちゃったンだよネ。もう一人の預言者に成り代わったほうは、酒を飲まされてベロンベロンになって正体をみずからバラしちゃうとかいうアホな事やらかしたんだけどサ」


 まるで八岐大蛇の古事ですね。


「勇者たちの方が一枚上手だったけど、こういう成り代わりって言うのは悪くないヨ。あと、そうそう狙える手段ではないけど魔人みたいに強力な存在に国を滅ぼしてもらってもイイ」


 魔人?


「全てを破壊しつくす魔人という存在が私らの世界には居たのサ。昔、とある王国があったが、彼らは大魔王に恐れを抱いていた。考えに考え抜いた結果、その手段に至っタ。魔人を召喚したまでは良かったけど、その魔人を従える方法までは知らなかっタ。供え物をして召喚さえすれば使役できると思い込んでネ」


 ちなみにその魔人とやらを従える方法というのは?


「簡単ヨ。魔人と戦って勝負して勝つ。それだけネ」


 なんだ、意外と単純なんですね。


「単純は単純だけど、その魔人、めちゃくちゃ強いからネ。そんじょそこらの王国の兵士ではまず勝負にならないし、たとえ勇者パーティが相手だとしても半端者では魔人には傷すらつけられないだろうネ。倒すには大魔王を倒す以上の力をつけないといけないし、仮にそこまでレベルがあるのならわざわざ魔人を呼び出す必要もなイ。本末転倒ネ」


 うーむなるほど。しかし、その魔人とやらをラモスさんや相馬さんは使役しようと思わなかったんですか?


「彼は魔界の中でも特別な存在でネ。私達の支配すら及ばない独立した存在なのヨ。ここだけの話、闇の衣に身を包んだ相馬さまでも勝てるかどうかわからなイ。だから使役したくても出来なかったっていうのが本音ネ」


 過ぎる力は持とうとしてもダメなんですね。結局それの扱いはどうしたんですか?


「彼の持つ、圧倒的な暴力はやっぱり魅力的だったからネ。まわりくどいけど、人間界には魔人召喚の儀式の方法だけ情報を流したのヨ。大抵の人間は怪しむだろうけど、切羽詰まった連中なら手を出す可能性もあるし。現にひとつの王国がこれで滅びタ」


 かなり勉強になります。


「どうやったら扱いづらい難物を扱えるようにするかを考えるのも魔王のお仕事ネ。使えるものはあるだけ便利だからネ。視点を変えるだけで使えないモノも使えるモノに大変身! するかもヨ?」


 うちにも言う事を聞いてくれないのが一人いるんですけどね。どうやっていう事聞かせたらいいのかな~~~って良く思うんですよね。


「あなたのお父さんの事かナ? 彼は戦って神を滅ぼす事が願いなのだし存分に戦わせてあげればいいんじゃないノ?」


 それはそうなんですが……。僕の方針とは全く逆なもので。


「平和を愛する、ネ。私らからすればどうにも理解できない考えネ」


 わかってますけども。でも僕の基本方針がそれですのでね。退屈はそれ以上に嫌いですが。


「退屈が嫌いだからって人間世界にちょっかい掛けるほうがよっぽど迷惑だと思うけどネ」


 滅ぼすほど戦うわけじゃないから人間たちは安心してほしいんですけどねえ。

 僕はまだ魔族にしては慈悲を持っている方なんですよ。

 父さんなんかガチで人間も神も滅ぼそうとするから困るンですよね。遊び相手が居なくなったら寂しいじゃないですか。


「人間達は本気で君たちを殺しに掛かってるけどネ」


 まあ、滅ぼされるつもりはさらさらないですけどね。

 彼らにももう少し頑張ってもらいたいものですよ。

 現状有望な勇者が出てきてるんで、ちょっと僕らも本気でやらないとなってなってるわけですが。


「人間達の怖い所は寿命が短い分、世代交代が多いから有望な才能が出てきやすい事よネ。魔族は寿命長すぎて世代交代中々しないデショ?」


 10万年単位ですからねえ。

 人間達はちょっとほっとくといつの間にか全然違う奴らというか、何代目かの子孫になってたりしてビックリしますよ。


「油断してると足元すくわれるからね、気をつけんといかんヨ」


 肝に銘じます。

 

「そうそう、あと一つ思い出したんだけど、宝物を作ってダンジョンの奥に置いておくのも悪くないネ」


 それは僕もやってますが……。


「マオウ殿のはただ単純に宝物の前に強力な魔物を置いてるだけネ。それではまだまだ甘いヨ。宝物に呪いをかけておかなくチャ!」


 宝物に呪いですか?


「私達、とある金属を作ろうと相馬さまと研究してたんだけど、それが思いの外うまくいったから武器に加工したのヨ。呪いの声を吹き込んだ金属をネ」


 呪いの、声……?


「相馬さまの声を吹き込んだのネ。そうすると声にひかれて魔物たちが自然に集まってくル。武器を装備した人間は魔物の群れに襲われ、戦いの果てに死ぬのヨ」


 おお、それは中々考えられた呪いですね……。


「人間達も学習して、呪いの武器を装備して死んだ人間と一緒に埋葬したんだけど、人間達の生まれて死ぬサイクルは早いでショ? いつのまにか呪いの事は忘れられて、宝物が埋まっているという情報だけが流れていくのよネ。だから宝を狙った冒険者はそうやってダンジョンに呑み込まれて死んでいくのヨ」


 ダンジョン含めて考えられたトラップなんですね。


「もちろんそうだヨ。そのダンジョンも罠一杯仕込んでるからネ。それだけやっても欲深い冒険者たちは後を絶たないんだけどネ」


 そこらへん勉強させてもらいます。メモメモ。


「一杯活用してネ」


「では、そろそろ次の話題に行きましょうか。何を聞きますか?」


 そうですね。次は魔物の配置をどうしてるか聞きたいな。

 僕は表世界は完全に掌握できているわけではないので、全ての場所を思い通りに配置できてるわけではないのですが。


「それについては私の時も同じだったヨ。神の加護がある地域には基本的に強すぎるモンスターが送れないのよネ。邪気が強すぎると加護に引っかかってその領域に入れない。だからアリ(ピーーーーー)から勇者が生まれちゃったノネ」


「ラモス様、固有名詞を出すのはNGです」


 ははあ。そういう理由で伝説の勇者は生まれてしまったのですか。


「致し方ないんだけどネー。マオウ殿の世界ではそのあたりどうなってるのカナ?」


 僕たちの世界でも神が守護してる地域はありますね。

 特に北方三国と呼ばれるヴァルディア王国、イストニア皇国、ドニ=アーデン連合国は秩序神オーデムの守護が遺されているせいか、レベルが20以上の魔物が入れないんですよね。

 洞窟や遺跡、山や森なんかはオーデムの守護が及ばないらしく、そこには強い魔物が置けるんですけどね。


「まあ、勇者が生まれる環境というのは往々にしてそういう場所よネ。そうやって生まれた勇者をいかにして封じ込めるか、冒険の途中で殺しちゃうかが大事ヨ。運が良い勇者だとそのあたりも上手くすり抜けてくるんだけどモ」


 僕が今対峙している勇者も、運はとびきり良いなって思いますね。


「やっぱり勇者の周辺国にちょっと強い魔物を置くのは駄目だネ。いきなり初心者殺しみたいにぽつんと強いモンスターを置いておかないと。遭遇したら問答無用で死ぬ、みたいなのを置くべきだなと今では思ってるね」


 それでレベルが上がった冒険者に後から駆除されるパターンもあるんですよね……。


「難しい所ね……。魔王を引退した今でもああしとけばよかった、こうすればよかったんじゃないかと考える事が多くてネ」


 わかります。今でも時々魔物の配置は変えてますね。魔物がいつも同じ場所に居ると冒険者達も慣れたり、対策を立てたりするんでやっぱり大事ですね。

 話はちょっと前後するんですが、ラモスさんは罠についてはどういった感じで設置したりしてました? 僕も今までの例にならって宝箱に毒ガス仕込んだりとか、宝箱開けるとそのフロアごと落とし穴になったりするトラップとか仕込んでるんですが。


「そうだネ。私の場合は宝箱に仕込むんじゃなくて、宝箱そのものを罠にしてたネ」


 なるほど、人食い箱やミミックですね。今ではもうポピュラーになってますけどあれはパイオニアでしたね。


「でもあれネ。私が最近見たミミックのバリエーションでびっくりしたのは、宝箱を被った人間みたいなミミックネ。あれは凄かったヨ。ローリングソバットとか繰り出してきたり、今まで私達が築いてきたミミックの既成概念を打ち破るような素晴らしいミミックだったヨ」


 あれは僕も最初観た時度肝抜かれましたね。まさかあのようなデザインをしても良いとはと。その上、強烈に強いですし立派な罠として成り立ってますね。


「冒険者をぶち殺すみたいな意思を感じさせない罠は設置する意味がないからネ。人食い箱は圧倒的な素早さと攻撃力で、私らのミミックは呪死の魔術で冒険者を殺すからネ。マオウ殿ももっと殺意を込めた罠を作らないとダメヨ」


 肝に銘じます(二回目)。

 やっぱり暇つぶしで人間の相手をしてると殺意が半端になってダメですね。


「遊びで戦ってるのは良くないネ。一度ここらへんで人間に痛い目喰らった方がいいんじゃないですカ。マオウ殿は」


 ちょっとそれはどうかなって思うんですけど(笑)


「私らは人間を滅ぼす為に本気で戦ってたからネ! やっぱりマオウ殿はまだまだ覚悟が足りないヨ!」


 それは思います。もう少し本腰入れてやらないと人間達に喉元を突かれてしまいますね。


「む、むむむ」


 あ、ようやく相馬さんが目覚めそう。


「もうちょっと喋りたかったけどもネ。残念ね」


 まあでも、そろそろ時間なんでこのコーナーも〆ですけどもね。

 というか100年の眠りに入ったとか嘘ついてたんじゃないかよラモスさん。


「きにしないきにしなイ」


「……一体余は何で眠ってしまったのか? それに後頭部がやたらと痛いが何故?」


 相馬さん、突然眠ってしまってビックリしたんですよ(大嘘)。

 覚醒の魔術も効かなかったし回復アイテムも効かなかったし起こせなかったんです。


「そうか、余には魔術無効化のフィールドと回復アイテム無効化の効果があったからそのせいだろう」


 なんでそのような特殊能力つけてるんですかね……。外してきてくださいよ。

 

「忘れていたのだから仕方なかろう」


 ……まあ相馬さんのお話しは非常に有益でした。またいずれお話しを伺いたいと思います。


「む? まだまだ余は話し足りない気がするのだが……」


 申し訳ないですが時間ですので。また今度お呼びしますから!


「そうか」


「それではゲストさんいらっしゃ~~~~いのコーナーはこれで〆となります。相馬さま、ラモスさま、長時間のご出演ありがとうございました」


 ありがとうございました!


「うむ」


「またよろしくネ~~~~~~」


(魔法陣が出現し、相馬さんとラモスさんがキラキラと輝く光に包まれて消えていく)


 はい、では曲紹介に参りましょう。

 アーティストはゴールドスタチューで、曲名は「黄金の戒め」です。

 ではどうぞ!

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