蜜柑の花言葉は「花嫁の喜び」

 降りた時 不意に目を瞑ってしまったから、どんな感じだったか 見れないまんまで。フワッっと 体が軽くなったと思ったら、宙に浮いてた。

 気流に煽られて 吹き飛ばされそうになり、慌てて 手を伸ばすと、益々 風当りが強くて ひっくり返った。手だと思ったのは 翼で、だからかぁ~と 納得した。

 羽の色は 濃いグレー。脇(翼の付け根)をつついてみると、どうやらクチバシ全体は 黄色で、先が赤くなってるみたい。俯いて お腹をみると、薄いクリーム色。「何だか 地味な鳥ねぇ~ 折角なら、もっと キレイな鳥にして欲しかったなぁ」 

 そんな事を 考えていると、空中で でんぐり返ってしまう。滑降と宙返りを 何度も繰り返し、4日間程飛ぶ練習をして どうにか風にのれる様になり、遠くまで飛べる様になった。

 鳥伝とりづてに ひまわり町を聞き、3日かかって あの店を見つける事が出来た。




*****




 鳥になって 下界に降りてきた、鳥族の姫 マーレ それが 今の私。


 この辺を縄張りとしている 鳥にイジメられる事もあるけれど、それでも めげずに毎日通い、電線にとまって 機会を伺っているの。ココからじゃぁ 店先の、お客さんの出入り位しか チェック出来なくて、店の中までは見れない。

 店の前には 桜の木が植えてあるから、そこに留まれば イイんだけど、枝に留まっても ホンの少しが高すぎて やっぱり見辛い。枝先へ移動すれば見えるんだろうけど、順番待ち用のベンチにかかってしまって 人目につくから、端まで行けない。


 あっ 今日は、そのベンチに登って 女の子が、店の中を覗いてる。ぅ~んと 確か、あの子は 小夜ちゃんって言ったかな?この子も 良くお店に来るなぁ、前は 店の裏で見かけたっけ。

 表からは 店の奥の様子はわからない。勝手口の方は、すぐ裏が団地。掴まりどころの無い壁面で、私は 上空をウロウロ飛び回るだけしか出来ない。厨房の窓は きっちり閉じられている、だけど あの声はしっかり響いてくる。


 いっつも 女子で一杯の店内。「どの店員が好み?」とか キャピキャピ話してて、中でも 王子の人気は抜群に高い。格好よくって、料理が上手くて、俺様キャラ、どの店員へも怒号の声を上げる。それが また堪らないらしい。

 それを聞いているから 益々顔を確かめたくなって、何度も何度も 裏口辺りを旋回したわ。


 見張りを続けて 10日目の朝。

店はランチタイム 11時からの営業。だけど 10時前、何だか色々な機材を持った人達が入って行き、少し遅れて 若い女性も入って行った。

 すでに順番待ちをしているお客から

「TVの取材?あの人 蜜柑さんだよね?」

と話しているのを聞いた。


 しばらく経つと 若い青年が出てきて、順番待ちのお客さん達に声をかけて ペコペコ頭を下げている。すると お客達は、渋々と店の前を空ける。そこへ 従業員の9人が、ゾロゾロと出てきてた。

『あんなに 大勢居たんだ……』


「きゃぁ~♡」

待っていた女性達の悲鳴。そして 入口前で整列、真ん中に さっきの女性が入って、カメラ撮影をしてる。その様子を 道向かいから、皆が 写真撮影している。




 『あっ!』




 私も 一目で、虜になってしまった。


 スラっと伸びた足、引きしまった腰、何と逞しい肩。


 あっ…… でも すぐ店の中に入って行ってしまった。

 もっと見たくて 何とか低めに飛んで、裏手の厨房のガラス窓から 一瞬だけど、泡立て器でかき混ぜている 真剣な眼差しの彼が見て取れた。素敵・・・♡


 私の頭の中は あの時から、妄想の世界で占拠されて、飛んでいる間も うっかり墜落しそうになる程。

『あぁ あの人の傍に行きたい』

『あぁ~ あの耳元で、愛を囁きたい』

『じっくり あの唇をなぞってみたい』

『いっそ あの背中にしがみつきたい』

どうしてだか わからないけど

『頭の上にも のりたくて堪らない』

何なんだろう?この気持ち……

と ドンドン想いはエスカレートしていって、自分でも止められない。



 少しでも 見ていたくて、残りの1週間、毎日毎日 通った。

すると 同じ様に、毎日来る女の人がいる事に 気付いた。あの人は……角の花屋さんに勤めてるね。彼女も まさか?彼を狙っているのかしら?

 何だか 気になる……



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