イソギンチャクの触手には 毒がある。

 2ヶ月間 色々な事がありながらも、ようやく 魔界の果てまで辿り着きました。

 地図にあった、ロード・エレクチオンの先に、柵で囲われた 小さな小屋の様な家が1軒ポツンと建っていた。屋根には煙突が出ており 紫色の煙がたなびいていた。


 ノックをしてみるけれども 応対が無い。ドアノブを引いてみると 鍵は開いている様子、そぉ~っと覗くと。

 壁一面 水槽で、中には 何種ものイソギンチャクが飼われている。その奥で 大きな釜の中身をかき混ぜてて居る老人?老婆が1人。

『あのぉ~ すみませぇ~~ん』と小声で

全く聞こえてない様なので もう一度

『すみませぇ~~~~~ん』と大声で

すると ゾワゾワと、イソギンチャクの方が 反応した。

ヒ―ぃ;;;;;


 そっちに気を取られていたら、いつの間にか 奥に居たはずの、老人が目の前に。

『はっ!!』

「どちら様?」

それは 男とも女とも区別がつかない低い声。年配の方かと思ったけど それはただ、背中を丸めていただけでした。顔は帽子で よく見えない。

『すみません 勝手に開けてしまって』

「何か用かね?」

『あっあ!ココは キャノンさんのお宅で合ってますでしょうか?』

「あぁ そうだ、私が 魔法使いのキャノンだよ」

そう答えて、黒い装束の帽子を深く被り直しつつ、裾を引きずらせたまま、釜の方へ戻って行く。


『こちらから 下界へ行けると聞いて来たんですけど…』

「はぁ?」

『このお宅に 下界へ繋がる、裏通路があると』(大声)

「そんな事 大きな声で言うんじゃないよ!」

『あ。すみません』

「何で 下界へ行きたいんだね?」

 と、訳を話すと…



「そんな 顔も知らない男の為に、下界まで行く気かい?」

『えぇ 理由が聞きたくて…』

「行くには リスクがあるよ?それでもかい?」

『どんな?』

「罪を犯しても無い者が 下界に行くには、今の姿のままでは行けないんだ」

『そうなんですか…』

「あんたは 鳥族だね?」

『はい』

「だと 向こうでは鳥になっちまうね」

『それなら構いません』

「鳥になったら 言葉も話せないんだ、それで どうやって、理由を聞きだすつもりだい?」


 そう言われて しばらく考えた。考えたけれども

『それでも お顔だけでも見てみたいんです』

「仕方ないねぇ~」

『お願いします!』

「私が 一度使った種類の鳥には変われないから、どんな鳥になるか わからないけど それでイイのかい?」

『はい 大丈夫です』

すると 魔法使いは、本棚の方へ行き

「この鳥図鑑は、予め 前に使った鳥のページが抜けてるから、あんたが 下界への通路を渡っている間に、私が適当に開いたページの鳥に変身して 出る事になる」

『わかりました』と、静かに答えた。

「それと 下界に居れるのは、最長で3週間。それ以上過ぎたら 通路は閉じて、一生戻れなくなるよ?いいかい 3週間だよ」

『はい』力強く返事をした。


 私に「イソギンチャクの面倒を看ておいておくれ」と言い、魔法使いは 屋根裏部屋へと上がって行った。来る日も来る日も 魔法使いは降りて来ず、許しが出るまで 上がって来ちゃダメだと言われているし。

 とうとう 肩にのるイソギンチャクも居る位、仲良くなったりした。時々 短歌を詠んだりもして、イソギンチャクに読んで聞かせると 喜んでいる様でした。


 1週間経って やっと、「上っておいで」 と声がかかった。

梯子を登って みると、上の階に来たはずなのに 目の前の床は、下に向かってポッカリと大きな穴が開いている。生暖かい風が そこから吹き上がって、何とも言えない 玉虫色の光のトンネルになっている。

『これが 下界への裏通路なんですか?』

「そうだよ」

私は ゴクリと唾を飲み込んでみたけど、口の中は カラカラに乾いてしまっていて、喉が鳴っただけだった。


 「いいのかい?」

と尋ねられて、もう後戻りは出来ないと 覚悟を決めて、頷いた。

「じゃぁ 穴の縁に足を下ろして座って」

言われるまま しゃがんで 穴へ足を差し込むと。何も感触がなかった ただ、何かフローラルな香りがする気がして、少し気持ちが落ち着いた。

「私が 1・2・3と声を掛けるから、3で 滑り台の要領で降りとくれ。次に出た時には 鳥になってるから、気を付けて」

『は・はい…』

「3週間だよ。遅れちゃダメだよ」

『はい!』


 それじゃ!

『いぃちぃ』


『にぃ~』


『さん!』



ザンっ!!! 






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