薔薇の花言葉は「愛」「美」

 私?私の名前は マーレ、この店を見張ってる。というか 毎日、観察してるの。


 ひまわり町にある 大通りから少し入った所にあって、目立たないけれども 赤レンガ造りで、所々 蔦が絡まる おしゃれな外観。店内は アンティークの西洋家具で統一された、温かい雰囲気。

 オープンから 半年も経たないそうだけど、女子の間で人気となり。卵料理が 特に美味しいと 評判で、開店前には 行列が出来る程の盛況ぶり。


 店の名は『Trick or Treat』略して “ ToT ”


 「毎日が ハロウィン」と謳っているから、スタッフは仮装しているし 不思議な事が……

 あっ 今夜は、狼みたいな人が 店内をウロチョロしてる。こんな事が起こっても お客は、パフォーマンスか何かだと思って それすら楽しんでいる。


 けれど ここの従業員は、すべて人外。

魔界から 島流しに遭うと、どうやら この店で働く事になるらしい。各々 罰金が課せられて、その金額まで稼げれば 戻れる。

 ただし 下界の娘を嫁に連れ帰れたなら、帳消しにしてもらえる。だからか 吸血鬼は、ろくに働かないで あぁやって、手当たり次第に 口説いてまわっている。



 私?何で この店を見張っているかって?それは… 3ヶ月前。

あ!下界は 2ヶ月遅れているから、5ヶ月前という事になるわね……




*****




 庭で 花を摘んでいた時の事。

「姫様~ 姫様ぁ」

と 召使が、私を探して やって来た。

「あぁ 姫様、ここにおいででしたか。ラ・イチ王がお呼びです」

『お父様が?』


 広間の前まで行くと、使者らしき男性が 丁度出てきたところで、深々と 私へ一礼をして、玄関の方へ向かわれた。

 それを見て 中に入った。玉座には 父と母が座っており、その前へと進むと。

「マーレ、魔王の使いの者が来てのぉ 王子との婚約を解消してくれとの事じゃ」

と 父が。すると 母が俯いて泣きだした。

『えっ?! お父様どうして?』

「理由は ワシにもよくわからんが、王子は その罰で、もう既に 下界送りになったそうじゃ」

『そんなぁ~(泣)』

「なぁに マーレ、心配する事は無い。ワシが もっと相応しい男を見つけてきてやる!大丈夫じゃ」

「お前も メソメソ泣くんじゃない、マーレは ワシらの自慢の娘、きっと良い相手がおるはずじゃ」

と、母を慰めている。


 私は 状況が把握出来ないまま 広間を後に、摘んできた花を 花瓶に活けながら、昔を思い出していた。

『そう言えば この花、小さい時 お父様に連れられて、魔王の宮殿に行った際に見つけて。キレイだったから 触れたとたん、棘でケガしてしまったところに 男の子が駆けつけて、血の出てる 私の指を咥えてくれて、すごくドキドキした 思い出の薔薇』


 薔薇と秋桜を 交配させて、赤とピンクの花びらが 1枚ずつ交互に咲く、男の子のお姉さんが開発した 特別な薔薇で。そのお姉さんが病床に臥せっているから「見せてあげたい」って 摘みに来たって。 その後 一緒に摘んで、お姉さんの所へ。部屋の前まで来て 男の子は「ちょっとコレお願い」って、花束を私に預けたまま 戻って来なかったの。

 代わりに 私がお姉さんの部屋を訪ねてみると、暗い部屋だったけど 透き通る様に 美しい儚げな人だったなぁ~ 「今年もキレイに咲いたのね、ありがとう」と、柔らかく微笑むのが あまりにも素敵で、『あの方の様になりたい』と思ったなぁ


 お父様の御用が終わって 帰り際、「若君と姫君からです」と あの薔薇を1株、お礼とお詫びだって 持たせてくれたの。その時 あの子が、王子だって事を初めて知った。でも 見送りにも出てこなかったし、あれっきりお目にかかれてないから どんなお顔していたのかも よく思い出せない。お姉さん思いの優しい子だったなとは 記憶している。

 それでも「魔王の下へお嫁に行くんだよ」と言われ続けてきて、それが 当たり前と思ってきたから。この薔薇だって 嫁ぐ日のドレスの飾りに使おうと思って、大事に育ててきた。王子にも あの美しい人にも褒めてもらいたいと思って。

 何も疑わず ここまで来たけど、よく考えたら 今は、顔だって知らないし どんな人になっているかもわかんない訳だから、これで良かったのかもしれない……


 これで良かったのかもしれない・・・

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