第21話 マサト様の難

 ガチャ、ガチャン……。


「ただいま……って、カオルさんはもうお休みですか」


 マサトさん、男性三人での食事が終わって帰宅しました。

 台所に水を飲みに行くと……。


「げっ! お気に入りのマグカップ割れてる!」



 次の日の日曜日、五月家の朝です。


「ヒロシ、夕べは五月様をほったらかしてどこへ行ってたんですか?」

「ん? 尾行」

「びこう?」

「そ」

「誰の?」

「ん? マサトさん」

「そうですか、マサト様の……えっ?」

「マサトさん、有罪だよ」

「はっ?」

「だから、夕べは、かくかくしかじか……」


 朝霧家の朝です。


「おはよう、パパ」

「おはよう、サトル。カオルさん、おはよう」

「……」

「カオルさん? おはよう」

「……」

「カオルさん?」

「さあ、サトル、朝ご飯できたわよ」

「はーい。パパ、スウェットのズボンずり落ちてるよ」

「うん。カオルさん、ゴム直してくれる?」

「……」

「いえ、自分でやります」

「……」

「なあサトル、ママ何かあった?」

「知らない。パパ、なんか嫌われることしたんじゃないの?」

「えっ? 全然思い当たらないんだけど……」

「パパ」

「ん?」

「スウェットのズボン……」


 ドテッ!


 床まで落ちたズボンにつまずいて転び、マサトさんはおでこをぶつけてしまいました。

 それにしても、なぜカオルさんはマサトさんと会話をしないのでしょう?


 再び五月家です。


「えらいこっちゃ、えらいこっちゃでございますぅ〜!」

「どうしたんだ、メイド、バタバタとそんな慌てて。言葉遣いおかしくなってるぞ」

「五月様、ヒロシが、ヒロシがぁ〜!」


 前日のヒロシの、その後の行動を説明しましょう。

 早とちりをしたヒロシは、その足で朝霧家へ行きました。

 カオルさんに報告した話は、ほとんどがヒロシの妄想。

 聞いているカオルさんの頭からは角が生え、みるみる大きくなっていきました。

 で、マグカップをガチャン、ふて寝です。


 再び朝霧家。


 ドタドタドタ……。

 ジャー、カチャカチャ、キュッキュ、ジャー……。

 ドタドタ……。


 カオルさん、若干行動が荒いです。


「サトル、公園行こうか」

「いいよ」

「久しぶりにキャッチボールしよう」

「うん。今日は家にいないほうがいいみたいだね」

「……」

「ママに言ってくる」


 こんな経験している世の旦那樣方、ご苦労様です。

 マサトさんの災難、まだ続きます。


「そうだ、去年の誕生日にカオルさんからもらったスニーカー履いていこう」

「パパ、ママがいってらっしゃい、気をつけてって」

「サトル……」

「ん?」

「気を遣わなくていいぞ」

「う、うん……」

「それより、パパのスニーカー知らない?」

「ん? 知らない」

「おかしいな、確か下駄箱のここに入れておいたのに」


 はい、そうなんです。

 角が生えきったカオルさん、マグカップだけでは収まらず、スニーカーを庭にポイ。

 無惨、アポロくんのおもちゃになりましたとさ。


「パパ、あった……」

「どこに?」

「お庭」


 ハグハグ、ハグハグ……。

 ガシガシ、ガシガシ……。



「えらいこっちゃ、えらいこっちゃでございますぅ〜!」

「めいと、言葉遣いおかしくなってるぞ」

「ヒロシ! あんたのせいです!」

「……どして?」

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