第24話永の都から……(その四)


 時は夕暮れ、朝霧の神殿から鐘の音がする。

 メリは急いで黄色のエプロンをしながら、大きな鎌をもって、自室のドアにまじないをかける。

 空間をつなぐ魔法だ。

 彼女は再び、クラインたちの前に現れた。

 出てきたばかりの真鍮の扉を、勢いよく閉め、振動で石塊になったオーブががらがらと崩れて、バルダーナが下敷きになった。

「と、ゆーわけで、決戦よ!」

 クラインは、首をかしげる。

「なにが、とゆーわけ、なんだ?」

「こっちはタルイんだから、さっさと殺意なり敵意なり、出してきなさいよ!」

 リザが口を挟む。

「おそらく、こいつ、リフレクターを持っている。向けられた悪意なんかを増幅する装置で、うけた何倍もの力で抗戦してくる。守備系の匂いがする」

「ち。師匠の言ってたエインシェントエルフね。いいわ。こちらの手の内がわかるのなら、本気を出すまでよ!」

 そういうとメリは口の中でスペルを唱える。

 クラインたちはかたずを飲んで見守ってしまう。

「ふっ、わかったわ。あなたはクライン、獣人の生まれね!」

「なぜそれを」

「このあたしの力を甘く見ないことね」

 バルダーナが口を挟む。

「そんなことがわかったからってなんだって言うんだ」

 メリは視線を伏せて、舌なめずりをする。

「あらん、好きな殿方を落とすには、情報集めが肝心よ。それにあたしは、あんたたちが黙って隠していることも、暴き出すことができる!」

「あー、なんておそろしー」

 思わずバルダーナが棒読みで言う。

「信じてないわね?」

 それがどうしたと言わんばかりの一行に、メリはキイッとなって、大声でスペルを唱え始める。

「あの子もこの子も、あたしの前に身の上を明かしなさい!」

「ん?」

 するともこもこっとした雲のようなものが、彼らの上に浮き上がり、メリが鎌でそれを刈り取る。

「ふむふむ、なるほどねえ」

 クラインたちは痛くも痒くもないこの攻撃に、疑問を抱くが、何となくこの女には逆らわないほうがいいと判断。

「わかったわ。バルダーナ。あんた、琥珀の一族の異端ね。青い瞳と金の髪をした、双子の妹がいたでしょう? そして王家の秘宝で姿を変えようとして殺された。だから、あんたは悪魔に身を売って地獄へ来たのよ」

 すっと青ざめるバルダーナ。クラインはメリを見つめる。

「まだあるわ。リザ。エルフのくせに魔力も持たず、精霊も操れない一族の恥さらし。せっかく寿命を売っても、こんどは悪魔と関わりを持った罪で風樹の根元に埋められ、ここへきたのよ」

 クラインはふたりの方を振り返らずに、進み出て言う。

「それがわかったからといって、どうなるんだ?」

「あなたは、一人の乙女を救ったために一族が皆殺しになった事実をどう思うわけ?」

「オレはルナを救いたかった。それだけだ!」

「その独りよがりな正義感が、仲間を殺したのよ! だから地獄へ来たんだわ」

「たとえそうでも、あんたにとやかく言われる筋合いはない」

 クラインが睨むと、メリは少し怯む。

「なによ……あたしの言ってることが間違っているというの?」

「間違いとか間違いじゃないとかじゃない。あんたの口からは腐臭がする。不快な息をもう、まき散らすな」

「なんっ……ですって?」

「ここから消えろと言っている! オレはあんたに触れるのも穢らわしいから、もう行け。自分の足で」

「わかってないわね。並ぶ扉のどことどこがつながっているか、知っていて? あんたたちは異次元に飛ばされるだけよ」

「だからどうした。道案内でもしてくれる気か?」

 メリはぶるぶると震えて、鎌をふりかざした。

「そんなわけないでしょー!」

 軽い金属音がして、鎌は石畳にくい込む。

「くっ」

 メリがぐっと力をこめても、どうしても抜けなかった。

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