第14話霧の大橋



 二人の姿は濃霧の立ち込める、大橋をまっすぐに突き進んでゆく。

「ハアハア、こんどはどっちだ?」

「無駄だって。言ったろ? 夕闇の馬車は霧の中でも道を失わないが、オレたちは徒歩だ。夕闇の神殿まで、どうやって進むんだ」

「無理だ、無駄だと言わず、オレを頼れと言ったろう。方法はオレが考えるから、場所を教えろ」

「まず、管理棟の目玉が向く方向だ」

「よし行くぞ」

「まてまてまてー」

「なんだ」

「なにが行くぞだ。なにが方法を考えるだ。実は何にも考えてないだろう」

「なめるな。オレには闇の中で動ける嗅覚がある」

「う……うんん……」 

 ついに黙って言うことをきくバルダーナ。

 クラインの背の上で、足元の危うさを真剣に案じた。

 周囲のあちこちで、亡者の影が現れては消えてゆく。

 襲ってはこない。まだ悪霊化していないためだ。

「あ! そっちへいってはダメだ、剣士!」

 ふいにバルダーナが言って、クラインの背から飛び降りた。とたん、霧の中にその姿は消え、がらがらと崖の崩れる音がする。

「うああああー」

 がしっとクラインの腕が伸びて、バルダーナを捕まえた。

 危機一髪。

「大丈夫か?」

「う、うん。あの管理棟のさす方向に道ができるから……」

「わかった。だから登ってこい」

「ほんとにわかってるのかよ」

 バルダーナをひきあげてから、クラインは切り出す。

「実を言うとだな」

「?」

「濃霧に鼻をやられたらしくて」

「そーすると?」

「おまえの目が頼りだ、バルダーナ!」

「オレは獣人じゃねえ。どんな目をしてたら、こんなところ歩けるっていうんだ!」

「だから、おまえはあの管理棟の光が見えるんだろう?」

「うん?」

「オレは全然だ。頼まれてくれ。オレの目になってほしい」

「仕方ねえな……」

 しぶしぶ承知して、バルダーナは自分からクラインの背に乗る。

「前方よーし。霧は深いが、まだまだゆけーる!」

「オーライ!」

 二人は夕闇の神殿へむかっていった。

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