第11話亡者の行き着く先


 ゆっくりしている時間はない。

 有限の力と、無気力な恨み言があふれる界隈だ。

「あれは、月……ではないのか?」

 クラインは運河にかかった大橋のてっぺんに掲げられた光を見て言う。

「騙されんなよ。あれは永の都を目指す、死霊の集まる朝霧の神殿と、悪霊の集まる夕闇の神殿をつなぐ管理棟だ」

 へえ、とクラインはしばし立ち止まる。

 沼からやっとこさたどり着いたのは、そんな管理棟が光るクロスロード。

「蒼ざめた都が眼下に映っているだろう。オレたちはそこから来た。住人だったわけではないが、情報を集めるために滞在してた」

「めちゃくちゃ、優雅(ゆうが)なことだな」

「永の都へ行くには、何かと必要な情報があったので、風樹に願いを立てたんだよ」

 そのとき、大橋の光と見えた、まぶたのない目玉が、ぎょろりと光る。

 夕闇の神殿に掲げられた灯りと、その周囲にまとわりつく悪霊たちに向けられている。

「オレはあれが苦手で。さっさと朝霧の神殿に引っ込みたいんだよ」

「死霊なのか、おまえたちは」

「まさか」

「では、地獄に落とされた囚人とは、おまえたちのことか?」

「しつこいねえ」

 バルダーナが腰に両手を当てて、黙秘する。

 リザが黙って大橋を指さした。

 亡者の群れが、朝霧の神殿から夕闇の神殿を行き来している。

 うろうろと、おろおろと。

「オレは死霊なのか……?」

 という、クラインのつぶやきも濃霧に消えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る