第10話蒼き乙女たちの舞い

 地獄にも様々な次元が存在する。

 深い霧の中、満月の谷に若い乙女たちの、死霊が舞い踊るころ。

 彼女らは背に小さな羽根があり、ふわりふわりと重力など無視した動きで頭上の満月に向かって、連なりながら飛び立っていく。

 その満月は月ではなくて、一時地上に出るための、異次元の世界への通り道である。

 死霊は気流に流れる霧の中を、まるですいすいと、踊るように軽やかに進む。

 くるくると片脚だけで回ったり、後ろへ反ってみたりと、悩ましい肢体を優雅に折り曲げては、苦悶するようにうつくしい眉をひそめている。

 蛇行するように、列をつくり、一人一人の姿は定かではないが、その光景は精緻に編まれたタペストリーのよう。さまざまに色合いを変え、見れば無限の空間に引っ張り込まれたような感覚が走る。

 高く脚をかかげ、白い指先が人をさしまねく。

 うつくしく幽玄ゆうげんではあるが、その分、容易に手出しできぬような、気品と気高さがある。

 まるで空気の精だが、実際は結婚を間近に、命を落とした乙女たちなのだ。

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