第8話ルナとの想い出

 クラインもルナに出逢うまでは虐(しいた)げられていた。一人谷底に落とされても、当然だと思っていた。だが違うんだとわかった。ルナと出逢って確実に自分は変わったのだと思えたのだ。

 クラインはルナのために戦い、ルナの剣となり、盾となって目の前の敵をくずし続けたのである。

 彼女が毒矢に倒れた時、とっさに小指の爪を噛みちぎり、己の(獣神の)血を解毒剤として飲ませた。同時にそれは一族の婚姻の証しだった。

 それが、こんなことになるなんて。

 クラインは受けた忠告を無にしてしまったのだ。

『月の宮で運命の三女神に祈れ。命乞いをしろ。おまえひとりの事ではない。ルナの血を穢した罪は重い。彼女は月の巫女なのだぞ』

 数少ない、ルナの親友が言った。金髪の乙女の姿だが、そのじつは卑しいとされる身の上で、神として召し上げられるときには、様々な論議が醸された、逸材。今は次元を超える力をも持つ最高位の神。

 クラインは異教の神のため、宮に上がることが許されなかったのだ。ルナは自分が行くと言って出て行ったきり、戻らなかった。

 そして、そのときを境に、クラインの地獄での日々が、始まったのだ……。

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