第8話 夜遊び

 上海は大都会で高層ビルが海に面して立ち並んでいた。街も道路も舗装されて大変美しい。ホテルはオーシャンビューの広い部屋でテンションが上がる。窓を開け放ち海にめがけて大声で叫ぶ。


「遂に来ちゃったよ! 海外! 」


 解ってはいるが言わずにはいられない。浮かれて足元がふわふわしている。皆でぞろぞろ歩いて観光をした。四川料理に舌鼓を打ち、アジア特有の街並みをバスで見渡す。一日目は出発時刻が早かったのもあり早めに就寝した。


 二日目はマカオだ。そこで初体験のカジノに行く。ルーレット、ブラックジャック、スロットなどが大量に設置されていた。受付の女性もチャイナドレスでスリットから覗く生足が魅惑的だった。ディーラーは全員がタキシードで正装していて格好良い。トランプを切る手つきが鮮やかでイカサマされても分からないなと感じた。


 試しにルーレットで軽く遊んでみたが全く勝てない。私は普段ギャンブルをしないので楽しみ方がよく分からないが、普段からパチンコに命をかけている他の同期連中は熱くなっているように見えた。課金してどんどん金をつぎ込んでいく。目が血走って怖い。


 夜は宴会場を貸し切ってのパーティーが行われた。飲み、食い、歌い、一発芸を披露する若者たちを肴にし楽しむベテラン達。普段はあまり話さない社長とも会話する。酔っていたので内容が全く思い出せない。確か豪華なサロンでみんなでコーヒーを飲みながら談笑した気がする。「青島ビールが飲みたいな」と心の中でずっと思っていた。


 宴会が終わり部屋に戻り一息ついていると先輩からホテルの内線で全員に連絡が回った


「ホテルの広場前に集合しろ」


 夜の外国の街を日本人だけで遊びに行く。前もってリサーチ済みの先輩は薄汚れた鶯色のベレー帽を被った背の低い中国員と待ち合わせ、なにやら日本語で交渉している。


「オーケー。オメラついてこいよ! 」


 怪しい日本語で道案内されながら暗がりの街を案内される。


「このまま誘拐されたりしてな」


 小心者の同期が軽口を叩くが誰も笑わない。食べ物の腐った匂いや人間の体臭が立ち込めた紫や赤のネオンを抜けてビルの中に案内されるとそこには複数の女の子が立っていた。


 背が低く年齢は若くも見えるし、大人にも見える。アジア人特有の褐色の肌をして怯えたようにこちらを見ている。正直、私には好みの子がいなかった。先輩も一瞥した。そして


「それじゃ、俺たちは帰るわ。此処はお前たちだけで楽しんでな」


 先輩は顔を顰めていた。恐らくは好みの子がいなかったのだろう。決断が早くあっさりと後輩を当て馬にして逃げて行く。残された我々と中国人ガイドと女の子たちの間に微妙な空気が流れた。


「どうする? 」

「いやどうしようもないだろ、ここで遊んで行かなきゃ。ドアのそばに用心棒みたいなのが二人現れたし。ガイドのおっさんも目が笑っていないぞ」

「だよな〜」


 私たちは逃げられない。


「マネー。マネー」


 先払いで払えと催促してくる。仕方なく全員が支払うとニヤリとガイドは笑った。前歯がなくタバコのヤニで歯が黄ばんでいた。


 しょうがないので女の子を選ぶしかない。ここからは弱肉強食の世界で後輩も先輩もなかった。


「俺この人にする! 」

「それじゃ、俺はこっちで」


 女の子と肩を組んで個室に案内される。お金は支払ってしまったので元を取るしかない。覚悟を決めるしかない。私の酔いはすでに吹っ飛んでいた。


 部屋の天井は低く圧迫感があり薄汚れていた。浴室ものぞいて見たが黄ばんでいて不潔に見えさらに萎えた。


 部屋に入ると女の子も緊張しているようだ。それはそうだろう。逆の立場で考えると見知らぬ外国人とをしなければならない。あまり経験がないようだった。日本の店の女の子のようにはサービスがよろしくない。なんというか投げやりなのだ。適当にやって時間が過ぎればいいや。そんな気持ちが態度、仕草の一つ一つから伝わる。言葉の壁を超えて簡単に伝わってしまう。


「やーめた。もういいや」


 私は行為を途中でやめてベッドに大の字に寝そべった。


「確か一時間だったよな」


 日本語で話しかけるが彼女はキョトンとしている。


「フィニッシュ! オーバー、オーバー! オーケー? 」


 服を渡して着替えるように指示してテレビをつける。外国語で何を言ってるのか理解できないが見続け時間を潰した。


 やがて彼女は隣に寝そべり猫のように体をすり寄せて抱きついてくる。私は腕で彼女を抱き寄せ時間がくるまで二人で仲良くテレビを眺めた。


 異国の地で何をやってるんだ、と自分に呆れた。


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