エピローグ:これはどこかの街で

「やーい、結局フられてやんの」


 茶化す魔女の額に、銃口が、がちゃんと向けられた。

 すぐさまその場で魔女は無条件降伏のポーズを取る。

 そこに横から割り込んできたジャージの酒飲みが頭から安物のウイスキーを滝の如くかぶせてきた。

 その様子を、異形頭は感情の読めない顔で眺めている。

 日曜昼、開店していないのに溜まり場となったウォツチ&リポートの風景だった。


 街外れにある教会の取り壊しが決まったのは、アイン達がウォツチ&リポートで宴会をしていた日の翌日だった。

 しかしその記事が載った新聞には、ただ、以前よりも明らかに破損が進んだ教会の写真しか掲載されていなかった。

 スクラップになった司祭や、星素の結晶の事は一切触れられていない。

 新聞を片付けながら、テレビがぼやく。

「証拠隠滅が早くて結構。流石は北の地方の一大勢力だ」

 そして、ダイヤルを回すと、画面に大きなクエスチョンマークが浮かんだ。その先は、帽子ではなくリボルバーを弄ばせているアインに向いた。

「そしてお前。善良な一般人だったのに、思いっきり教団を敵に回したが、いいのか?」

「今更、だろ」

 慣れていないのか、手を滑らせて危うく銃身を落としかける。寸前の所でキャッチしたが、それ以降は回さなかった。

「ヒューラのかたきだし、あの司祭の美術館に行った以上は、ウォルトも俺も、顔割られてるだろう」

 タールの重い煙草に火を付け、ため息のように紫煙を吐いた。

「来るもの拒まず去るもの追わず、だ。来たら来たで、適当に相手するさ」

「もしかしたら、チャンスがあるかも知れないからな」

「チャンス?」

「うん」

 自分で言っておきながら、アインは苦笑した。今更のように、この街シュガー・ポットに来た目的を思い出したのだ。

(笑っちゃうよなあ。手に入れたら、そうなると思ってたのに)

(どういう訳か、またここにいる)


「まあ、お前が納得しているならいいさ」

 テレビの画面が、ぶつり、と切れる。そして、厨房の扉を見遣ると、「ところでお前ら」と切り出した。

「マユコが、わざわざ、日曜の昼間から騒いでるお前らの為に、特製サンドウィッチを作った。食わないなら地獄の果てまで追い回すが、どうだ?」

「ほぼ拒否権ないな、それ」

「まあ、断るつもりはねェけど」

「わーい! タダ飯だー!」

 ちらり、と振り返り、四人掛けのボックス席を見てみる。

 ねえ、私のこと見たでしょ。

 そんな声は聞こえて来なかったが、ほんのりと、リボルバーの赤文字が熱を帯びたような気がした。






 有象無象が集まる街、シュガー・ポット。


『何者』でもない彼らが、今日もそこで、生きていた。



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ビーネイダーシュガー、ノアソルト 重宮汐 @tokei

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