第29話潜入!ロリータコルセティア9


ロリータコルセティアの拠点となる洋館の一室。

外はまだ日が高い。


主に会議に使われる広いその部屋。

長いテーブルの周囲に、ギルマスのザッハトルテをはじめとした

ギルドメンバーが20人ほど集まっていた。


まず声をあげたのはサブマスターのキルシュだ。


「早いもので、いよいよヴォイゲルグ教団とのギルド戦の予定日は明日。


 軽く参加メンバーの顔合わせと作戦会議という事で、

 皆さんには今日、集まってもらいました。


 まず選抜メンバーですが、ギルマスと私とティッティさん

 それと、カーラさんエミリさんをはじめとしたベテランの方々。

 この辺りのメンバーはギルド戦経験も豊富です。慣れたものですね」


「ええ、任せて下さいサブマスター」


「今回も役に立って見せますよ」


「…もぐ……もぐ………」


ギルドメンバーは声を出す。

ティッティはテーブルに出されているお菓子を一心不乱に食べ続けている。


「よろしくお願いしますね。


 それと今回は特例ながら、ギルマスの意向により

 つい先日ギルド入りしたばかりのメンバーも数人選抜されました。

 ビブルさんレィルさん、そしてウララさんプラチナさん、この四人」


「よろしくっす」


「ギルド戦っつってもアレだろ、要は敵をぶっ倒せばいいわけだ。

 ま、四の五の言わず俺にまかせとけ」


「選抜頂けて光栄ね。お役に立てるよう頑張るわ」


「よ、よろしく…」


「ウララさんとプラチナさんのお二人は、

 この前私たちが身をもって実力を味わっていますからね。

 味方になればお二人ほど心強い方はいないですよ」


ギルドメンバーのエミリが話す。


「皆さん、戦闘の実力はなかなかですが、

 ギルド戦経験がない方がいるのが気になります。

 特に新しく入った四人は、私の近くに来て作戦をよく聞いておいてください。

 わからない事があれば、随時質問してくださいね」


「へいへい」


「つい先日、教団から正式にギルド戦の申し込みがありました。

 ギルド戦の仕様や相手ギルドの情報など、まずお伝えしたいと思います。


 ヴォイゲルグ教団というギルド、ギルドランクは44位のSランク。

 正直に言って、我々としては勝ってメリットが多いとは言い難い相手ですね、

 ただ、万が一に負けてしまうとランクへの影響が大きいと予想されます。

 なので手堅く勝たなければなりません。


 いちおう、相手ギルドの過去のギルド戦もアーカイブで確認してきました」


「相変わらずキルシュさんは、そういうところ抜け目がありませんわね」


「誰かさんがそういうこと、全然やってくれないですからね」


「わたくしはほら、戦略とか難しい事はよくわかりませんの」


「よく言いますよまったく……」



その時、ザッハトルテのウィンドウが開く。ギルドコールの着信だ。


「あら、門番の方からですわ。ちょっとよろしいかしら?」


「あ、はい。急用かもしれませんしね。いったん会議を中断します」


「ごきげんよう。何かございまして?」


ウィンドウに門番のギルメンが映し出される。


「あのそれが、ご来客が…」


「またどなたかいらしたのかしら?」


「……はい、また、あの方が……」


「あの方?またって、誰だよ?」


レィルが興味深げにウィンドウをのぞき込む。


「あーー……またですの…」


ザッハトルテは何かを察した様子だ。


「……取り込み中ですの。帰っていただいて」


すると、門番の映像に一人の人物が無理やり割り込んでくる。


「あ!ちょっと…!!何するんですか!」


「アナタのハートにリリンとコール?超銀河アイドル、リリンちゃんです?」


「……うわ、なんだこいつ…」


「…………………」


ザッハトルテは呆れた表情だ。


ウィンドウに無理やり割り込んできたのは10代半ばの少女。

髪の毛はボブでピンク。一部分縛り上げている。

魔法少女のような突飛な衣装、それもまた全身真っピンクだ。

キメポーズのように指でハートを作って見せる。


「…って、あんたに媚び売っても仕方ないわね。

 ちょっと何よ!!せっかく来たんじゃない!!中に入れなさいよ!!」


「別に誰も呼んでいなくてよ。

 何しにいらしたのかしら。わたくしたち、今忙しいんですの」


「この前のお茶会放送見たわよ!!

 なんか薄気味悪いところとギルド戦やるんでしょ。


 言っておくけどね!人気でも、バトルでも、

 あんたを倒すのはこのリリンちゃんなんだからね!!

 あんな妙ちくりんな奴らにやられたら承知しないんだから!」


「ちょっとアナタ!やめてください!!」


門番とその少女はもみ合いになっている。


「あの人また来たんですか…」


キルシュも呆れている。


「おい、なんなんだコイツ……」


レィルがザッハトルテに尋ねる。


「自称、アイドルの方ですわよ」


「じ、自称じゃないわよ!!失礼ね!!」


ウィンドウから反論が返ってくる。


「わざわざそんなことを言いに来たんですの、お暇ですのね。

 ……適当に追い返しておいてくださいまし」


「ちょっと!!

 このリリンちゃんが来てあげたのよ!!お茶の一つも出しなさ」


ザッハトルテはウィンドウを閉じた。


「……無駄なお時間を取らせましたわ。さて会議を続けましょうか」


 (……………………。

 TSOは俺の知らない強い奴らもまだまだいるが、

 俺の知らない変な奴らも、まだまだいるんだな…)


レィルは一人、感心していた。




「………ゴホン。では、気を取り直して、作戦会議を再開します」


キルシュが仕切り直す。


「えーーっと、どこまで話しましたっけ……」


「サブマスターが相手ギルドの過去戦を確認したと…」


ギルメンが話す。


「あーそうそう、そこからですね」


「で?どうだったんだあいつらの戦いは。

 一応、Sランクってことはそこそこやり手なんだろう?」


レィルが尋ねる。


「そうですね、多人数戦を好んで行い、主に魔術を主体とした戦い方です。

 相手をひきつけた上で死角から攻撃、

 そのままたたみかけてしまうというのが一番多かった勝ちパターン。


 しかし逆を言えば、真正面からの肉弾戦には弱いということになります」


「相手の土俵で戦わせない、これがギルド戦では重要よね」


ウララの言葉にレィルも続く。


「相手をいかにしておびき出すか……、

 もしくは、いかに素早く懐に潜りこむか……」


「ええ、そういう事になります。

 それで相手が申し込んできたギルド戦の方式ですが

 公式型のベーシック、20対20の団体戦です」


「公式型はこの前聞いたけど……ベーシックって?」


プラチナがキルシュに尋ねる。


「べーシックは、広いフィールド上で全参加者が一斉に動き、

 先に相手ギルドの全滅させるか、またはギルマスを戦闘不能にした時点で

 勝敗が決まるというやり方です。


 ちなみに、道具による回復は認められていません」


「へえー、面白そうじゃん」


レィルは腕組みをし、笑みを浮かべる。


「そしてこちらも向こうが指定してきました、戦闘フィールドは森林地帯04」


「森林地帯04……。いかにも遠距離型の魔術師が有利なフィールドですね」


ギルメンが声を漏らす。


「一応説明しますと、

 森林地帯04は主に木々の生い茂ったゾーンが多いフィールドです。

 ただ、その中心部にぽっかりと開けたスペースがあるのも特徴ですね。


 この地形を加味したうえで、一応私とギルマスで作戦を決めました。

 基本的に皆さんには、これに沿って動いてもらいますので」


「了解よ」


キルシュがおもむろに紙を取り出し、テーブルに広げた、

そこには森林地帯04のおおなかな地形が記されていた。


「まず、この20名をA、B、Cの3つのグループに分けます。


 カーラさんエミリさんをはじめとしたベテランの皆さん9名のグループ、

 これがAグループ。

 そして新規メンバーの4人と私、それと中堅メンバー4人を加えた9名、

 これがBグループ。

 最後にギルマスとティッティさんの2人がCグループです。


 詳しいメンバー表がここにありますので、後で見てくださいね」


「え?でも、ギルマスさんがやられたら負けになっちゃうんでしょ?

 たった二人で大丈夫なの?」


プラチナが問いかけた。


「ええ、問題ないでしょう。うちギルマスは特殊ですから。

 むしろ二人の方が都合がいいんです」


「団体戦はいつも

 ギルマスとティッティさんのペア行動が基本ですよね」


ギルメンが話す。


「そうなんっすね」


キルシュが地形図を指でなぞりながら話し出す。


「まず、Cグループが正面から進みます」


「正面から進んだら、中央の開けた空間に入ってしまうけど?」


ウララが問いかける。


「ええ、それでいいんです。

 そのままCグループは敵陣の方まで進みます。


 同時にAグループが右回り、Bグループが左回りに森の中を進みます。

 ギルマスとティッティさんの動きに注視しながら、

 そのやや後方に位置するように。

 過去戦を見ても、相手陣営は待ち構える戦法とみて間違いありません、

 ABグループがこの時点で敵に遭遇する可能性は低い」


「つまり、二人はおとり役ってわけか」


「まあそういうところですね。

 間もなくギルマスたちに対して、敵の攻撃が仕掛けられるでしょう。

 おそらくは林の中から。

 ですが、

 ある程度攻撃が出きるまでは、AグループBグループはその様子を注視します。


 目的は攻撃の出所の把握です。ある程度把握したところで。

 AグループBグループ、その出所へ向かい、急襲を掛ける」


「作戦というか……。ギルマスが攻撃を受けるのは前提なのかよ……」


「それはまあ……。

 でも、私たちもそのやり方で勝ってきたというのもありますし

 何より、ギルマスがそうしろって聞かなくて」


「なにしろわたくし、

 これが楽しくてギルマスやっていると言っても過言ではありませんの」


「…変わった趣味をお持ちなのね」


ザッハトルテにウララが声をかける。


「ある程度AグループとBグループで敵の戦力を削ったところで

 最後はティッティさんの大魔法でとどめ。


 大体の流れはこんなところでしょうか。

 何か質問や意見などある人いますか?」


「あの……ちょっといいっすか?」


手をあげたのはリブルだ。


「何ですかリブルさん?」


「ウチ、ここ数日ギルメンのカーラさんに良くしてもらってて。

 この機会にカーラさんの戦闘技術も見習いたいと思ってるんすけど

 カーラさんと同じ、Aグループでやらせてもらうことはできないすかねえ?」


「あー、そうでしたか。……わかりました。


 それでしたら、リブルさんをAグループに、代わりに菊香さんがBグループに。

 これでどうでしょう?」


「わかりました」


「ありがとうございますっす」


「では皆さん、作戦会議は以上です。

 明日の集合は絶対遅れないように。今日は解散とします」


キルシュの合図でメンバーが部屋から一人二人と出ていく。


「…ちょっといいかしら?」


そんな中、ウララがプラチナに声をかけた。


「なに?ウララさん」


「ちょっとそこまで来てもらえるかしら?

 一応、話しておきたいことがあるのだけれど…」


「え?う、うん……」


二人は部屋を出ていった。



一方キルシュ、レィルの周囲に人がいないのを確認すると、

レィルに駆け寄り小声で話す。


「ちょっとちょっと!!なにしれっと馴染んでるんですか!

 アナタ一体、いつまでいる気なんですか!」


「なんか面白い事になってるんでな。

 このギルド戦が終わったらやめるよ」


「本当でしょうね!?まったく……」




「…もぐ……もぐ………」


「…もう少し早く食べられないんですの?テッィティさん……」


「…もぐ……」






------------


TSOのとある酒場。

今日もプレイヤー達が思い思いの時間を過ごしていた。


その中の一つのグループ。

各々がウィンドウを出し、それを食い入るように見ている。


「………ついに始まるな」


「教団の宣戦布告があったお茶会配信も、あの後ネットでかなり話題になったが

 いよいよ今日はギルド戦本番。こりゃあ絶対見逃せないぜ」


「今日もザッハトルテ様のご雄姿が楽しみだぜ」


「いや、ティッティちゃんの大魔法がなにより見所だろう」


「俺は断然、この前加入したレィルちゃん推しだな」


「レィルちゃんと同時に加入したあの二人も気になるな。

 ……今日は出場するんだろうか?」


「にしても、相手、ヴォイゲルグ……とか言ったか?

 どいつもこいつも頭巾かぶって顔わからんし、薄気味悪い連中だなあ」


「おい!いよいよ開始時間だ!!」





TFO内にギルド戦用として特別に隔離された空間。

その空間内に、両ギルドの参加者たちはいた。


500m×2kmほどのそのフィールド。

その範囲から外に出る事はできないが、戦闘不能、降参、ログアウト

いずれかの行動をとった場合、自動的にフィールドから離脱する事になる。


時間設定は昼、天候は晴れ。


フィールド全体にアナウンスの音声が流れ、

空に巨大なスクリーンが浮かび上がっていた。

スクリーンを見上げながら、音声に集中する両陣営の参加者たち。


 "ギルドランク8 ランクSS、ロリータコルセティア、

 ギルドランク44 ランクS、ヴォイゲルグ教団


 ただいまより、両ギルドによるギルド戦を開始いたします。


 方式は公式型のベーシック。相手陣営を全滅させるか

 ギルドマスターを戦闘不能状態にした時点で勝敗が決します"


テンカウントが始まった。


 "10 9 8 7 6 5 4 3 2 1、ギルド戦スタート"

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