第30話潜入!ロリータコルセティア10


「ではごきげんよう。ご健闘を祈りますわよ」


「…行って………くるね………」


そう言うとザッハトルテとティッティはまっすぐに敵陣の方へと進んでいった。

それを見送ったキルシュが周囲のメンバーに声を掛ける。


「では皆さん、木の影に隠れながら、

 それでもギルマスたちから目を離さないよう、注意してください」


「わかりました、では」


カーラ、エミリ、リブルなどからなるAグループ9人は

右方向に森の中を進んでいった。


「じゃあ私たちは左からです。皆さん準備はいいですね?」


「はい、サブマスター」


「行きましょう」


ギルメンが応える。


「レィルさんたち、新メンバーの方々もいいですね?」


「もちろん。さっさと行こうぜ」


ウララとプラチナも頷く。


「では、私から離れないように」


キルシュを先頭に、新規メンバー3人を加えたBグループ9人は

森を左方向へと進んでいった。


慎重に進むその道中、レィルがキルシュに声をかける。


「そういえばよ、大丈夫なのかあの二人?」


「あの二人?ギルマスとティッティさんのことですか?」


「そうだ」


「ギルマスのタフさは、あなたも身をもって知ってるでしょう」


「そりゃそうだけどよ、俺が言ってんのはもう一人の方だ。

 あの魔術師も超耐久なんて、そんなわけねえよな」


「ティッティさんですか」


「変態女はさておき、隣のあの魔術師は攻撃に耐えられるのか?


 いやむしろ相手としたら、魔法を発動させねえようにと

 魔術師の方から先に狙っていくと思うんだが」


「それが定石でしょうね。

 ……ですが、それは彼女たちには通用しませんよ」


「ああ?どういうことだ?」


「今ここで長々と説明している暇もありません。

 とにかく大丈夫なんです」


「ふーん……まあそれならいいが」


森の中を更に進むBグループ。開けた空間が右側に見えてくる。


「あ、これが開けたスペースだね。結構広いんだ」


「プラチナさん!

 あまり右に寄り過ぎると敵陣から目視されてしまう恐れがあります。

 木に隠れるように進んでください!」


「あ、う うん、ごめん」


プラチナがとっさに身を引く。


「しっかしあの二人、ああしてると

 のんきに散歩してるだけのようにしか見えねえなあ」


右手の開けたスペースには、ザッハトルテとティッティが

フィールドのど真ん中を歩いていくのが遠巻きに見て取れる。


「相手ギルドはどういう布陣をとっているでしょう?

 私たちと同じように左右に別れているでしょうか?」


歩きながら、ギルドメンバーがキルシュに問いかける。


「…………。いや、その可能性は低いんじゃないでしょうか。


 向こうのギルドも、前情報なしに挑んできたとは考えにくい。

 ギルマス関しての情報は、ある程度仕入れてきてるはず。


 ならば、ヘタに戦力を分散させずにできるだけ一箇所に集まり、

 ギルマスに集中攻撃を仕掛けるはずです。

 私たちとしては、むしろその方がやりやすいですけどね」


Cグループの二人のやや後に続くように、Bグループも注意深く進んで行く。




ザッハトルテとティッティはいよいよフィールドの中央ラインを越え

敵陣へと入っていくところだ。

二人は気ままに談笑をしている。


「さてと、今日はどのような攻撃をいただけるのかしらね?

 剣や拳の直接的なアプローチがわたくし好みなんですけれど

 たまには、魔法を独り占めにするのも一興かしら」


「………お腹……空いた」


「ティッティさん、さっきお菓子食べていたでしょう」


「………時間なくて……あんまり………」


「だからもう少し早く食べればよろしいでしょうに…」


「……終わったら……ケーキ……」


「どうぞご自由に。わたくしは夕方過ぎまでギルマスの仕事があるので

 ご一緒できませんけれど」


「むぅ…………」


ティッティは頬を膨らませた。


さらにフィールドの中央を進む二人。

すでに敵陣のかなり深部、中央の開けたゾーンを横断しきろうかというところ、

前方に木々が見えだした。


「そろそろ何かアクションがあってもいいはずですけれど……

 あら?あれは……」


前方に人影を見つけるザッハトルテ。

見れば一人、木々を背に佇んでいる。


近づくにつれその人影が鮮明に見えてくる。

全身マントで覆い、頭には頭巾。教団の独特な様相だ。

左右に人影はないが、背後にある林の中まで窺い知る事はできない。


「あのアイコンは……」


ギルド戦のフィールド内では、

相手ギルドのメンバーに対してアイコンが頭上に表示され

さらに、ギルマスに対しては特別なアイコンが表示されるため、

一目で判別できるようになっている。


一人敵陣に佇んでいるその人影の頭上には、

ギルマスのアイコンが表示されていた。


「…………意外ですわね。

 森の中にお隠れになっているかと思っていましたが…


 よりにもよってあれはギルマス。お一人で、なぜあんなところに………」


ザッハトルテは眉を顰めるが、歩を止める様子はない。

徐々にその人物との距離を縮めていく。




その様子を森の中から確認するAグループ。


「あそこにいるのは相手ギルドのギルマス!?まさか!」


予測しない事態に声を上げるギルメンのエミリ。

他のギルメンも声をあげる。


「ギルマスが一人!

 じゃあ私たちがこのまま急襲を仕掛ければあるいは!?」


それをカーラが制止する。


「いや、あまり迂闊に動くのは良くないですよ。

 相手も無策にギルマスを前に出すほどバカじゃないでしょう。


 ザッハさんも出方をうかがっている様子です。

 ここは我々も様子を見つつ、徐々に距離を詰めていきましょう」


少しずつ森の中を進んでいくAグループ。




そのころ、Bグループでも同じ結論に達していた。


「一体何を考えているんだ、ヤツは……」


レィルのつぶやきにキルシュが怪訝な表情で応える。


「わかりません……。

 おかしいですね……過去の戦闘データを見ても、

 教団のギルマスの所在は主に最後列。


 こんな例は一度もなかった………」




いよいよ教団のギルマスに近づいてきたザッハトルテとティッティ。

ティッティが声をかける。


「……この距離………魔法……届く…」


ザッハトルテはしばし考え、それに応える。


「いえ、それではあまりにもつまりませんわ。

 どうせならば、向こうの誘いに乗って差し上げましょう」


「……わかった……」


二人はさらに進み、いよいよ互いの距離は10mを切った。

両者のギルマスが対峙、場には緊張感が走る。


「ごきげんよう、うら若き乙女よ」


そこで初めて、教団のギルドマスターである教祖が声を発した。

声に反応し、その場で歩を止めるザッハトルテとティッティ。


「……ごきげんよう。


 先日の趣向を凝らしたご挨拶、なかなか素敵でしたけれど

 これもまた、何かの趣向なのかしら?」


「まあ、そんなところですよ。

 せっかく我々の招待に応えて頂けたのです。

 ギルドマスターたる私が、まず相見え、

 あなたに直接ご挨拶をするのが礼儀と思いましてね。


 あ、そうそう、私の側近たちをご紹介しますよ」


その言葉を合図に、教祖の後方の林の中から三人の人物が出てくる。

風体は皆、黒いマントに黒い頭巾。

その三人はザッハトルテとティッティの左右、そして後方に

数メートル距離を空けて位置どり、

教団側四人で二人を取り囲む形となった。




その様子を離れた森の中から見守るBグループ。

レィルがたまらず声をだす。


「おい、3人出てきやがったぞ。

 いよいよ俺らも動いた方がいいんじゃねえか?」


キルシュが応える。


「いえ、まだです。まだ20人の中の4人でしかありません。

 残りの16人が気になります。その正確な居所がわかるまでは

 下手に動けば事態を悪くしかねません……。


 きっとそれはAグループの皆さんもわかっているはず………」


未だ、森に潜むABグループは注視を続ける。




「あらあら?それでわたくしたちを取り囲んだつもりですの?


 しかしながら、四人とは心もとなくございませんこと?

 せっかくでしたら、もっとたくさんの方々に囲んで頂きたいのですけれど」


「なにやら誤解をされているようですね。、

 彼らはレディーに対して、決して手をあげたりはしません。

 むしろ、あなた方を守るために、そこにいるのですから。クックック…」


「………何をおっしゃっているのかしら?」


「ちょっとした余興に、少しお話をしませんか?

 あの放送の反響はいかがでしたか?」


「ええ、それはもう。

 チャンネル登録者数も右肩上がり、あなた方には感謝しておりますわ」


「それはよかった。

 今、この戦いも、さぞかし多くの人々が見守っていることでしょうね。


 いやしかし我々はあなた方とは全くの真逆でした。あの日以来、

 ネットを見れば気持ち悪いだの、インチキ宗教だのと。

 いわれのない罵詈雑言だらけ。

 しまいに、我々の拠点の前にあなた方のファンが詰めかけ騒ぐ始末。


 我々にとっては、まったくいい事なしだ」


「それは失礼を。今度の放送の時にでも、

 そのようなことはやめるように、言っておきましょう」


「いや申し訳ない。

 我々もこのようなことが起こると全く予想できなかったものでね。


 我々が唯一、予想できた事と言えば、

 ………………我々があなた方に勝つということだけです」


「…………………………」


「しかしさすが、セントティアラに名の轟く大手ギルド

 ロリータコルセティアのギルマス様だ。

 このような状況でも、全く動じることなくお話に付き合ってくださるとは。


 その余裕こそがあなた器の大きさ!……そして同時に、


 その余裕こそが……あなたの命取りとなるのだ」


教祖が横に一歩ずれる。すると、教祖の陰に隠れるようにして、

そのすぐ後ろに教団側のギルドメンバーの姿が現れた。

風体はもちろん、教団のそれだ。

教祖がそのメンバーへと話しかける。


「いかがでしたか?使徒よ」


「いやあ~俺、感心しちゃったねえホント、さすが教祖さんだ。

 口八丁……もとい、交渉術がうまいもんだねえ。


 バッチリなタイミングってヤツ?ちょうど今、詠唱が終わったところだよ。

 残り三人もねえ」


「それは良かった」


「アンタの役目はひとまず終わりだ。

 念のためだ。ちょっくら、隠れといて」


「わかりました」


教祖は一人、後方の森の中へと姿を消した。


ザッハトルテが周囲を見渡す。

取り囲んだ教団メンバーは皆、呪文詠唱を終え、発動待機状態だ。


「まあまあ、お話しすると見せかけて呪文詠唱ですの。

 さて…一体どのような攻撃をいただけるのかしら?」


教祖に代わり、使徒と呼ばれた人物が話し始める。


「いやあ~、お初にお目にかかりますねえ~ザッハトルテ様。


 あいにく俺はね、無駄な事はしない主義なんだ。

 だからあんたらに攻撃するなんて、微塵も考えていないんだなこれが。


 ……ガードサークル・アグマ」


使徒が片手を上げ、呪文を発動させた。

使徒と取り囲んだ教団メンバーたち、四人の体が発光する。


あたりに風が吹き始め、

その風に乗り、地面の葉が数多く舞い上がった。

その葉に隠されるように下から現れたのは、魔法陣。


「これは……魔方陣?」


気付けばザッハトルテとティッティは、

その魔法陣のちょうど中央に位置していた。

魔法の発動と共に、魔方陣も光を放つ。


と同時に、ザッハトルテとティッティを取り囲むように

半透明でドーム状のバリアのようなものが現れた。




その様子を見るカーラ、エミリたち、Aグループに動揺が広がる。


「……あれは!?」


「攻撃魔法じゃない?……何らかのステータス異常系の魔法でしょうか…」


「どうしますか!?」


「ギルマスからの合図もありませんし……」


ゴォォォォォォォ…!!!!


その時だった、Aグループの周囲の木々が一斉に黒い炎に包まれる。


「な!?これは…!?」


「黒い炎…!?これは闇属性の魔法!!い、一体どこから!?」


「なぜ私たちが標的に!?」


突然の出来事に戸惑いをあらわにするAグループのギルメンたち。

周囲はあっという間に一面の炎に包まれた。


「み、皆さん落ち着いて!!冷静に対処を!!

 ここは、一旦引いて………

 ………………………!!!何これ!?体が動かない!?」


混乱を納めようと声をあげたエミリだったが、

ふいに体の自由が利かない事に気が付く。

それは周囲にいるギルメンたちも同様だった。


「ダフィウム・ガウフェイル…!!」

「ダフィウム・ガウフェイル…!!」

「ダフィウム・ガウフェイル…!!」

「ダフィウム・ガウフェイル…!!」


混乱状態のAグループに対し闇魔法の攻撃。数か所から同時に襲い掛かった。





一方、ザッハトルテとティッティに使徒が話掛ける。


「いやあ、ロジックが具現化した瞬間というのは、何度味わっても

 やめられないねえ~、

 そっちのご気分はどうかな?篭の鳥さん?」


ザッハトルテはそのドーム状のものに内側から触れる。


「……出られませんわね。


 これは…拘束魔法の一種ですかしら…

 この手のものは攻撃を加えれば大体消えて……

 ……………………………あら変ね?武器が出ませんわ」


ザッハトルテはアイテムから武器を取り出そうとするものの、

取り出す事ができない。


ティッティも現れたドーム状の物体をまじまじと見つめている。


「あーちなみに、その中では魔法も使えないからよろしくね♪」


「ティッティさん、本当ですの?」


「……うん………無理………」


「まあ………………」


「自分らの置かれている状況が理解できなかな?


 しっかし、TSOってのは本当に奥が深いゲームだねぇ。

 呪文の詠唱文字列をいじくったり、こうやって魔法陣を媒介させることで、

 こんなことまでできちまうんだもんなあ。

 まあ、知ってるのは俺みたいな一部の魔法マニアだけだろうけど」


「……………………」





かたや、森の中に潜むBグループにも動揺が広がっていた。


「あのドーム状のものは……一体なんでしょうか……」


キルシュが呟く。レィルも眉を顰める。


「あの二人が苦しんでる様子もねえ、……攻撃魔法には見えねえな。

 動きを制限するようなタイプの術か?」


「いえ、そういうタイプであれば、

 内部からある程度攻撃すれば破壊できるはずです。

 でも…ギルマスが武器を出す気配がない……。どうにも不可解ですね」


「状況がイマイチわからねえな」


「………あの外道男……そういう事……」


呟いたのはウララだ。


「……?なんですか?ウララさん」


キルシュが尋ねる。


「………いえ、なんでもないわ。


 少し…私の意見を言ってもいいかしら?」


「え、ええ。あの魔法について、何かご存知なんですか?」


「………いえ、正確にはわからないわ。

 だからあくまで、予測込みの話と思って聞いて頂戴。


 たぶんあの魔法は防衛方陣ね」


「防衛方陣………って、自分の身を守る時に使うやつだよね?」


「いやいいやいや、敵に防衛方陣かけるアホがどこにいんだよ。

 ありえねえだろそんなん」


プラチナとレィルが言った。そこにキルシュも付け足す。


「それに、ああいうタイプの防衛方陣は、

 基本的に自分を中心とした範囲にしか発現できないはずですよね?」


「……それがやりかねないのよ。あの男なら……」


「…………あの男?」


「やり方はともかく。

 古くてマイナーなタイプの防衛方陣の中には、

 方陣内部の動きや攻撃に制限のつくものがあるの。

 もしあれがそうだと仮定すると、……奴らの狙いも見当がつくわ」


「動きや攻撃に制限って、中から出られないって事か!?

 まじかよ!?」


「じゃあもし、それが本当だとすると…!?」


「ええ。あの二人は実質、無力化されてしまったという事になるわね…」


「……!!!」


一同、ウララの言葉に衝撃が走る。





ザッハトルテは使徒に話しかける。


「わざわざ事前に魔方陣まで用意して、まったくご苦労様ですわね。


 でも、わたくしたちが二人きりでここまで来なかったら、

 一体どうするおつもりでしたの?」


「あんたらが二人で中央からくる事は知っていたんだなぁ、これが」


「……………………」


「それに、あんたらは自分の意思でここまで歩いてきたと思うだろう?

 違うんだよねえ~」


「…何が違うのかしら?」


「こっちが黒猫を使ってギルド戦を申し込んだ。

 あんたはそれがギルド戦を断れないようにするためだと言った。

 だけど、それじゃあ50点だ。


 大勢のファンの前でのあの演出によって

 あんたらのギルドは2つの重石を背負わされたんだよ。気付かないうちにね。

 一つはギルド戦を無視できないという重石。

 そしてもう一つ、多くのファンが注目するこの試合、

 つまらない試合には出来ないという重石さ。


 つまり、遠くから大魔法であっさり試合を終わらせるという選択肢は

 元々あんたらには許されていなかった。


 いやぁ~、人気ギルドのギルマスというのも大変だねぇ」


「…………………。

 アナタ……ただのギルメンにしては、少々出来すぎではないかしら」


「いやぁ~、大したもんじゃない、ちょっとしたお手伝いといったところさ」


「ですが、この方陣の周囲にいる4人は動けないのでしょう?

 とすれば あなた方のチームは残り16。

 こちらのチームは、わたくしたちを差し引いて残り18。


 ご面倒にしては、

 あまり良い状況になってないような気がいたしますが?」


「あんたらみたいな怪物を封じ込めただけでも、大金星だと思うけどねえ。


 だけど、ここから先も考えてあるんだなぁ、ちゃんとね。

 あんたは16対18と言ったが、……本当にそうかねえ。

 実は他にも同胞の"お手伝いさん"がいたりするんだよね~、ここだけの話」


「同胞……お手伝い?どういう意味かしら?」


「おっと、上上」


使徒は上を指さして見せる。


「…上?」


フィールドの上空には巨大モニターが浮かんでおり

そこには、現在の経過時間と各チームの残り人数が

リアルタイムで確認できるようになっている。

そのモニターを見たザッハトルテは驚きの表情を浮かべる。


「これは……!!」


ヴォイゲルグ教団残り人数20人、ロリータコルセティア残り人数12人。

そう表示されていた。


「まだまだ驚くのはこれから。これからもどんどん数は減るからお楽しみに。


 馬鹿とハサミは使いようってねぇ」





同時刻、残り人数の変動にBグループも気が付いていた。


「12人……!?という事はもう8人やられてしまったということですか!?

 いつの間に!?

 サブマスター、これは一体どういうことでしょうか!?」


ギルメンが驚きの表情で声をあげ、レィルもそれに続く。


「俺らは全員いるだろ、それにギルマス達はあんな感じだ。……てことは」


キルシュが応える。


「……やられたのはAグループの方たちですね、9人中……8人」


「おいおいマジかよ。

 ABグループから先に攻撃される可能性は低いんじゃなかったのか?」


「なぜ今回に限ってこんなにイレギュラーな戦略なのか……。

 私にもわかりません。


 それに、Aグループも周囲に気を配りながら森に身を潜めていたはずです。

 それをこんな短時間でほぼ全滅させるなんて、

 よほど戦力を集中させるか、

 もしくは……事前にそこにいる事を想定していない限りは……」


「それって……情報が漏れたってことですか!?」


「内部に……スパイが!?」


「そんな!まさか!」


「でも……Aグループにはカーラさんもエミリさんもいましたよね。

 その彼女たちが、あっさりやられるなんて…そうでも考えないと……」


ギルメンたちが口々に不安げな声をあげ、疑惑が広がる。

その様子を見たレィルが声を出した。


「いや、そんな事言っててもしょうがねえ。

 それより、今俺たちはどうするべきなんだよ。そっちが先決だろ」


「それはアナタの言う通りかもしれませんが…一体どうすれば……」


「私は、今すぐに出ていくべきだと思うわよ」


その中で提案したのはウララだ。


「出ていくって、あそこにか?」


レィルはザッハトルテたちのほうに目をやる。


「そう。すぐにでも出て行ってあの周りにいる奴らを叩く。

 そうすればあの防衛方陣も消える可能性が高いわ」


「いや、待ってください。

 ……あれが防衛方陣だというのも現段階で憶測に過ぎません」


渋る様子のキルシュにレィルが反論する。


「でも、ここでじっとしててもしょうがねえ。

 とりあえず行くしかないんじゃないか」


「ちょっと待つっす!!」


不意に周囲に声が響いた。

それはBグループの後方、ロリータコルセティア陣方向からの声だった。

森の中を走ってくる音が聞こえる。


「あの声は……リブルさん!?」


後方の森の中よりリブルが走って来るのが見えた。


「ハァハァ……!!!

 よかった、追い付けたっす、ハァハァ…!」


Bグループ後方へとやってきた。両ひざに手を突き息を整える。


「一人の生き残りはあなただったんですねリブルさん!!」


「ハァハァ……そうっす、突然の出来事で…

 うちもよくわかんなかったんすけど…ハァハァ…

 なんか急に周りから魔法浴びせられたんす。すごい量の魔法を…………

 あっという間だったんす…ハァハァ…」


周囲の視線はリブルへと集まる。


「そうだったんですか…やはり、どこかから情報が漏れて……」


「ウチだけ運良く魔法が外れて、

 それで逃げたふりして影に身を潜めてやつらの作戦を聞いたんす。

 奴ら、ウチらを一掃した後、自陣奥へ戻って迎え撃つとか話してたっす、

 きっとあの中央付近に今、敵陣の全員が集中しているはずっす。


 迂闊に近づいたら、集中砲火っすよ!」


「……そういう作戦でしたか。ありがとうございます、リブルさん」


キルシュが声をかける。


「だからってよ、いつまでもここにいても埒が明かないだろう!」


「今出ていったら、相手の思うツボっすよ!」


「とりあえずここはいったん引いて……」


皆が口々に声を出す中、不意に一人のメンバーが武器を発現させる。

槍に似た形状で矛先が斧のようになっている、ハルバートと呼ばれる武器だ。


その人物はおもむろに、その武器をリブルへと突きつけた。


「全く……面倒なことをしてくれるわね」


「……!!!」


その人物はウララだ。

唖然とする一同。


「ウ、ウララ……さん?」


「何を……?」


ギルメンから戸惑いの声が上がる。武器を突きつけられたリブルも困惑の表情。


「ウララさん……なんの冗談っすか?これは…」


「…………………………」


ウララは言葉を発しない。


「う、うちらを裏切るつもりっすか!?」


その言葉に、ギルメンたちの困惑はさらに広がった。


「う、裏切り…?ウララさんが??」


「来た時から、強すぎて不自然だと思ってましたが…もしかして……」


「情報を敵に流していたのって………」


「そんな………」


「……………………」


レィルはその様子に括目している。

キルシュが声をあげた。


「ウララさん、今すぐ武器を降ろしてください。

 今は仲間割れをしている暇なんてない。


 もしそのまま武器を向け続けるなら……

 リブルさんの言っている事が本当だということになってしまいます……」


「……………………」


ウララは依然言葉を発さず武器を構え続ける。


その光景に、武器を構え始めるキルシュとギルドメンバー達。

しかしその前に、一人の影が現れた。


「プラチナさん…!?」


武器を下に構え、キルシュたちの前に立ちはだかる。

場の空気は一気に張りつめたものになった。


「やはり……………あなたたち二人は……」

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