第28話潜入!ロリータコルセティア8

「いけぇーーーーっ!!そこだ!

 差せ!差せ!!オラーーーーッ!!差せええええぇぇぇぇ!!!」


ローシャネリアの西部。

この付近は闘技場や球場カジノなど、大規模な施設が多く連なる一帯だ。


その中の一つの大きな会場、

ここはモンスターレースが行われている会場だ。


様々な種のモンスターが会場内のトラックを周回し、

その順位を観客たちが予想し、ゲーム内通貨を賭ける。

現実世界の競馬のようなシステムとなっていた。


今日も会場は溢れんばかりの観客でごった返し

多くのプレイヤーの歓声や絶叫が開場中に響く

その中において、ひと際声が響き渡っているプレイヤーの姿。プラチナだ。

観客席の先頭列からトラック内へと落ちるほどに身を乗り出し絶叫している。

レースが佳境に差し掛かった。


「そこだ!そーこーーだあーーーーー!!

 差せ!差せ!差せ!!差せオラ!!!

 いけたこサンダーーー!たこサンダァァァァァァーーー!!!」


 "おおーーっと!ゴール前の激しいせめぎ合いだ!


 激しい激闘を制したのは………またもやソニックペガサス!!堂々の一着!!

 二着ブラックタイガー!三着ツイストワイバーン!

 次々とモンスターがゴールをきる!

 おおっと、そんななか、大差での最下位はまたしてもたこサンダー、

 どうしたたこサンダー!"


「あああああァァァーーー!!!

 たこサンダー!!なんで!?なんでなのおおおお!!!!

 もおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!」


プラチナは大声をあげて地団駄を踏む。

そのあまりの熱の入れように、周囲のプレイヤーたちは若干引き気味だ。


「…ちょっと!ちょっと!そこのアナタ!」


そんな中、近くで観戦していた一人の少女がプラチナに話かけた。

十代後半、黒いゴスロリ風に身を包んだ少女だ。


「……ん?ボクの事…??」


プラチナは振り返る。


「そうよ!アナタ!さっきっから大声あげて!

 うるさいのよ!!おかげでこっちはレースに全く集中できないの!」


「……え?……ボク、そんな大声あげてました?」


「自覚ないの!?あきれた!

 あなたの声で実況も聞こえやしないわ!!


 それにアナタ、モンスターレースのセンスないわよ!もうやめたら?」


「ううう、すみません……静かにします…」


プラチナは席に付き、ウインドウを開く。

モンスターレースへのベットは

各プレイヤーのウィンドウから直接できる仕組みとなっている。


 (まだやる気なのこの子……まったく……変な子……)


黒ゴスの少女は呆れた顔で見つめる。





「そーこーーだあーーーー!!あああああああああああ!!!

 差せ!差せ!差せ!!差せ!!!

 どうしたたこサンダーーー!

 たーこーサンダァァァァァァーーーー!!!!」


 "おおーーと!本日絶好調ソニックペガサス!!またまた一着だ!!

 二着ツイストワイバーン!三着クリスタルウルフ!!


 そして、大差での最下位はまたしても!たこサンダー!!!"


「あああああァァァーーー!!!

 たこサンダーのばかあああああぁぁぁ!!どうしてなの!!!

 どうしてなのおおおおおおおお!!!!!!」


プラチナは両ひざと手を地につけ、地面を何度も叩く。

隣にいる黒ゴスの少女は怒りを通り越し呆れ果てている。


 (また叫んでるわこの子……。こういう子には言うだけ無駄ね……。

 知り合いと思われても嫌だし、席移ろうかしら……)


 "さあ!次でいよいよ本日最後のレースとなります!!

 どなた様も悔いのないよう、ふるってベット頂ければと思います!"


アナウンスにプラチナは驚き、立ち上がる。


「…え!?次で最後なの!?そ、そんな!

 まずいよお、このままじゃ…お金がだいぶマイナスになっちゃう!」


 (もうダメねこの子。思考と発声の区別もつかなくなってる………。


 でも、これはこれで見てて面白いかも……)


「よ、よし!!かくなる上は!

 たこサンダーに一点賭け!全財産!全財産だ!

 これで今日の負けが取り返せる!!…よし!それしかない!!」


プラチナはウィンドウを出しいじりはじめる。

目は渦を巻き、正気を失っている。

それを見かねて制止したのは隣の黒ゴスの少女だ。


「ちょ!ちょっとアナタ!!落ち着きなさい!

 何しようとしてるの!!全財産って…やめなさい!!」


プラチナの手を取り、ベットを阻害する。


「な、何するの!?あなた誰!?ちょっと離して!!

 ボクはたこサンダーに賭けて、

 負けを取り返さないといけないんだから…!はーなーしーて!!」


「あの蛸になんの思い入れがあるか知らないけど!!

 アナタすってんてんになるわよ!」


二人は軽く揉み合いになっている。


「大丈夫!!次は勝つ!!次は絶対勝つ!!はなして!

 早くしないとベットの時間が終わっちゃう…!!」


「だからアナタセンスないのよ!あの蛸はどう考えても無理でしょ!!

 あの混乱状態が見えないの!?どうせ暴走して失格よ!!」


「たこサンダーは暴走なんてしないよ!!!たこサンダーは!!

 ボクのたこサンダーは…!!!!」


 "ベット受け付けはただ今を持ちまして終了です。

 各モンスター、準備が整いました!!

 さあ最終レース、どうなる!?"


二人がもみ合いをしているうちに最終レースは始まった。

スタートゲートが開く。


「あーーーーーーーーっ!?ちょっと!!


 受付終わっちゃった!!まだ賭けてないのに!!

 ちょっとそこの人!どうしてくれるの!絶対たこサンダー勝つのに!!

 ボクのたこサ…」


 "おおーーーっと!たこサンダー暴走!!一直線に逆走していくぞ!!

 これは失格!たこサンダー失格だーーーーっ!"


「………………」






やや日も傾いたころ、今日開催のすべてのレースが終わり、

モンスターレース場から多くの人々が去っていく。

肩を落とすもの、笑いが止まらないものなど様々だ。


その中で、依然レース場に残っているプラチナの姿。

黒ゴスの少女を前に土下座をしている。


「……どこのどなたか知りませんが、

 本当にありがとうございました……………」


「ちょ、ちょっとこんな所でやめて!恥ずかしいから!

 そんな事しなくていいから、頭上げて!」


「いえ……あなたがいなかったら、ボクは本当に無一文に……。

 このお礼は、なんでもします……なんでも……」


「いいわよそんなの!

 それよりアナタ本当にモンスターレース向いてないから。

 もうやらない方がいいわよ」


「ううう……そうですね……。

 初めて来たんだけど……、なんか頭に血が上っちゃって………」


プラチナは力なく立ち上がる。


「…………あら??あなたちょっと……」


黒ゴスの少女がプラチナをまじまじと見つめる。


「…………??なんですか?」


「アナタ…よく見ると……」


「え?ボクが……なに?」


「喋らないで!あと、その腑抜けた顔もやめなさい。真面目な顔して」


「…は、はいっ…!!」

 (腑抜けた顔って………)


「今までの騒ぎで気付かなかったけど、アナタ喋らなければ相当美形ね。

 それに改めて見ると……スタイルも抜群に良いし……。


 ………なかなかいないレベルね」


「………………………………」


「……もう喋っていいわよ」


「…………………っは!!ハァハァハァ……!!」


 (誰も息を止めろとは言ってないけど……)


「ハァハァハァ……」


「…さっきアナタ、なんでもするって言ったわよね」


「ハァハァ…え?ええ………まあ」


「じゃあそうね、ちょっと人手が欲しいの。

 手伝ってもらいたい事があるんだけど?」


「え、……うん、ボクにできる事なら……」


「ええ、とても簡単な事よ。

 ギルドの用事、ちょっとしたお使いというところね。

 ちょっと私のギルドに一緒に来てもらえるかしら?ウフフフ…」


「…………う、うん…」


「あ、そうそう。私の名前はウララ。改めてよろしくね、

 ウフフフフ」


「………プラチナです」







----------


時系列は戻る。


ロリータコルセティアの屋敷。

ここ数日の出来事を振り返ったプラチナが、

ついにある一つの結論に達しようとしていた。



「……………………」


「………………うん。自業自得だね!」


晴れやかな顔で場を後にした。




「アイツ……。しばらく動かなくなったと思ったら

 急に独り言言い出すし……。怪しさのカタマリだな…」


その後方でレィルが怪訝な目をして見つめていた。





----------


セントティアラの一角。

中心地から離れた、あまりひと気の多くない地域。

そこにギルド、ヴォイゲルグ教団の拠点となる建物があった。


一見教会のようなその建物、しかしながら壁や床や天井、

いたるところに意味不明な文字列や魔方陣が描かれ、

人とも魔物ともつかないような、怪しげな彫像がいくつも置かれている。


さらに窓という窓は封鎖され、

屋内はろうそくの怪しげな明かりのみが揺らめいていた。


一人、壇上で両手を広げている人物、

それを崇める、数十人のギルドメンバーが壇下に整列している。


その場にいるものは全員、黒いマントで身を覆い、

顔にはすっぽりと三角形の頭巾をかぶり、素顔は窺い知れない。


「クククククク……契約の日は近い。

 か弱き乙女たちを礎に、

 我々がこのTSOにおいて、絶対的な権力と地位を手に入れる

 その第一歩となる記念すべき聖なる日だ…!!」


壇上の人物が高らかに声をあげる。


「教祖様……!!」

「ああ!待ち遠しい…!!」

「教祖様万歳……!」

「ヴォイゲルグ神万歳…!!」

「万歳……!!」


ギルドメンバーからは口々に声が上がる。

その中の一人が前へ出て、言葉を投げた。


「しかしながら教祖様!彼女らもTSOの最高峰、SSランクに他なりません。

 いくらヴォイゲルグ神の加護を頂く我々とて、

 そう容易く勝てるものでしょうか?」


その言葉に教祖が振り返る。


「…………おや、徒よ、

 キミはヴォイゲルグ神の持たれる全能なる力を疑うというのですか?」


「!!……い、いえ!決してその様な事は……!!」


「……………。安心なさい。我々は必ず勝ちます。


 そういえば、君たちにはかの乙女たちを生贄として選んだ理由を

 まだ明かしていなかったですね」


「理由…!?お教え下さい教祖様!!」

「教祖様!!」


「落ち着くのです、徒たちよ。

 それはまさにヴォイゲルグ神のご意向に他ならないのです」


「おお…!!」

「なんと…!!!」

「神のご啓示があったのですか!?」


「ええ、勿論。

 つい数日前、この私の前へ神が降臨され、こう言ったのです。


 『親愛なる徒よ。しばしの後、我の使いがその目前に現れるだろう。

  その者の言葉を我の言葉とし、心して耳を傾けよ』


 とね。そして、そのお告げはまさに現実のものとなった!

 この私の元に、神の使徒が現れたのです!!」


「本当ですか教祖様…!!」

「その使徒様は今どちらに!?」


ギイィィ……


聖堂のドアが開く、そこには一人の姿があった。

その様相はほかのメンバーと同様。顔には頭巾をかぶっている。


カツカツカツ……


その人物は壇上に向け、ギルドメンバーの間をゆっくりと歩く。

その様子を息をのみ見つめる面々。


壇上の教祖の横まで進むと、その人物は静かに振り向いた。


「この方が、先日神より遣わされた使徒、その人です」


「おおお……!!」

「使徒様…!!」


使徒は落ち着いた口調で話し出す。


「ヴォイゲルグ神はこう言った、

 ロリータコルセティアは我々の贄となるべく存在している!

 そして、その手段とお知恵を我々に与えたもうた!」


「おおお……!!」

「使徒様…!!」


「かの乙女たちに戦いを挑んだ事も、

 この使徒からの啓示、つまりは神の啓示です。

 そして、この使徒は同時に神の力、神の御剣でもあります!

 ……そうでしたね?使徒よ」


教祖が使徒に問い掛ける。


「ああ勿論だ。この我の指示に従い行動すれば、勝利は約束されている!

 諸君らの信仰心が本物であれば、

 必ず彼女たちをうち倒す事ができると、ここに約束しよう!!」


「おおお……!!」

「使徒様万歳……!」

「教祖様万歳……!」

「ヴォイゲルグ神万歳…!!」


堂内は今までになく大きな歓声に包まれる。

その歓声に見送られるように使徒はゆっくりと壇上を降り、聖堂を出て行った。


ギイィィ……


ドアが再び閉じられた。

堂内は依然として歓声が上がっている。


ドアの外には、同様に頭巾をかぶった人物が使徒を出迎えるようにそこにいた。

使徒よりもさらに大柄で巨漢。身長は2メートル近い。


「カカカッ……!!!名演技で!」


その言葉に使徒が応える。


「ふう~、キャラに合わない事を言うと疲れるねえ~、

 まったく、単純な連中は扱いやすくて大好きだなあ、ホント」


「カカカカカッ……!!」



ロリータコルセティアとヴォイゲルグ教団。

そのギルド戦の日時は、あと数日というところに迫っていた。

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