第27話 余談

<天魔衆>は各地に散らばり、盗賊として

暴れていると、長谷川平蔵以下、与力同心は

風の噂できいた。勿論、双伍の耳にも入っている。


妖刀<鬼神丸>で辻斬りに身を落とした

加藤祥三郎は双伍の十手で、両手首を砕かれ、

二度と刀の持てない体になった。

その上、加藤家は、次男の罪により、

当分の間は江戸城への立ち入りを禁じられた。


仇討ちで両親を亡くしたお紺は、

大店である反物問屋、方月屋ほうづきや養女ようじょとして

引き取られ、幸せに暮らしているという。


鬼平暗殺のはかりごとに、はめられた双伍は、

後悔と長谷川平蔵長官への感謝を抱いて、

その恩返しを心を新たにした。


そして<風魔>の襲来。

これほどの災いは江戸幕府を震撼しんかんさせた。

明智左門筆頭与力をはじめ、多くの与力同心が

重傷を負った。そのこともあってか、

幕府はさらに忍びに対する警戒を強めたのである。


だが、数人の<風魔>の忍びは逃げおおせた。

その行方はわからぬままである。

逐電ちくでんした<風魔>の中には、忍びのおさといわれる、

十四郎の名もあった。


双伍は実弟・幻也の亡骸を、成田山深川不動尊なりたさんふかがわふどうそんの寺社の

片隅にほうむった。江戸の世を騒がし、数え切れない犠牲者を出した、

<風魔>の頭目、幻也は、戒名かいみょうしるされず、板塔婆いたとうばさえ立てられる

ことを禁じられた。


だが、双伍は幻也の眠る、小さな小山に、

我が身に刺さった、クナイ数本をえた。


双伍は重傷を負ったが、ひと月もせずに、

番屋に顔を出した。下っ引きの弥助をはじめ、

八丁堀の与力同心たちも、手放しで喜んだ。


そして、さまざまな悲しみ、そして喜びを背負い、

今日も双伍は紫の着物を羽織り、漆黒しっこくの腰帯に

2尺余りの長大な十手を2本を差して、

江戸の町にり出していく・・・。


双伍はいつものように懐から一枚の葉を取り出す。

その葉を口にふくみ、軽やかな音色をかなでた。

その音色ねいろは、江戸の町にけ込んでいた―――。




草笛双伍 捕り物控え 一 完



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金土豊

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