第24話 風魔襲来4

八丁堀の与力同心の官舎には、

20名ほどの与力同心が集められていた。

勿論、長谷川平蔵の姿もある。

その左腕には血ににじんだ包帯が巻かれている。

表戸の土間には、双伍の姿もあった。


だが、与力同心の面々は、それも

沈痛な面持ちを浮かべていた。

それもそのはず、どんな大盗賊も怖れる

火付盗賊改方の官舎が襲われたのだ。

それも下っ引きは皆殺し、そして駿河右京同心は

重傷を負い、町医玄田元禄の話によれば、

ひと月ほどは安静が必要だという。


相手は<風魔>。それも精鋭の手練てだれの集団で

あることは、長谷川平蔵長官の口から聞かされた。


「親方や沢村誠真殿でさえ、苦闘を強いられる

 <風魔>をどのように捕らえろと申すのですか?」

特に気弱な森村忠助が言葉を発した。


「やつらの目的は、火付盗賊改方の全滅、もしくは親方の

 命でしょうか?」

いつも冷静沈着な佐々木音蔵同心が口をはさむ。


その問いに答えたのは双伍だった。


「それは違うとおもいます」


「何ゆえ、そう思う?」

佐々木音蔵同心の問いかけに、双伍は言いよどんだ。


そんな双伍は長谷川平蔵と視線が交差した。


「皆がそろうても、らちが開かぬ。

 日暮れを期に、お前たちは見回りをしろ。

 それと双伍・・・ちと飯を付き合え」

長谷川平蔵は双伍に対して、そう命じた。

双伍も平蔵の意を悟り、軽くうなづいた。



二日後、食事処<あじさい屋>に、

長谷川平蔵と双伍の姿があった。


長谷川平蔵はいわしの味噌煮と飯、そしてシジミ汁を

食していた。双伍はいつものように、きつねうどんだ。


平蔵は味噌煮をつつきながら言った。


「お前の話だと、<風魔>の狙いは銭ではないと?」


「銭も欲しいんでしょうが、本当の狙いは

 火付盗賊改方の壊滅と、あっしの首だと

 考えたんでさぁ」

物騒な話をしながらも、双伍は油揚げを

旨そうにかじった。少しかじっては、つゆに浸ける。


「ほう、火付盗賊改方の壊滅とな。それは盗賊として

 思うところではあるが、おめぇの首を狙うのは、

 どういった了見だ?」

シジミ汁をすすりながら、平蔵は言った。


「あっしは<風魔>の頭領になって、最初に

 下した命令は風魔の解散。今後は皆、農民なり、町民なりと

 なって平穏に暮らせと命じたんでさぁ」


長谷川平蔵の箸が止まった。


「その命令に素直に従うたぁ思えねぇな・・・。

 戦国の世から培われた暗殺集団<風魔>だ。

 俺がその身でも、反目はんもくするやも知れぬ」


「あっしも当時は若かったからで、安易なことを

 命じたと思っておりやす」

双伍はきつねうどんの露を一口すすった。

その丼椀どんぶりを縁台に置いて、双伍は言葉をつないだ。


「<風魔>は各地で、盗賊に身を落とした者も

 多いと聞いておりやす。だが、昨夜の<風魔>は

 単なる銭取りの盗賊じゃないと踏んでます。

 火付盗賊改方の壊滅は元より、あっしへの

 復讐ではないかと・・・いやそれこそが

 真の目的じゃねえかと思っておりやす」

双伍の双眸が妖しく光る。


「で・・・おめぇはどうするつもりだ?」

と長谷川平蔵。


「決まってまさぁ。決着をつける

 つもりでござんす」


平蔵は飯を掻き込み、シジミ汁を飲み干した。


「死ぬぞ、おめぇ」

長谷川平蔵の目が真正面から、見据えてくる。


「自分のいた種は、自分で刈るもの・・・

 親方に拾われたこの命、いつでも捨てる

 覚悟はできておりやす」


「俺に拾われた命と本気で思っているなら、

 勝手に死なれては困る。双伍、おめぇ

 何か策でも考えているのか?」


双伍は軽くうなづいて言った。

「それなんですが、奴らは近日中にまた

 勤めを働き、火付けをやるでしょう。

 しかし、それはおとり

 真の目的はあっしの首でしょう。

 そこでなんですが・・・」


長谷川平蔵は双伍の考えを聞いて、

目を細めた・・・。

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