第17話 鬼平暗殺2

双伍はほとんど休息もとらず、

3日かかって、幻也の拉致されている場所を

突き止めた。

そこは江戸城からほぼ真北にある、

三ノ輪からさらに奥にある、一軒の廃屋だった。


その廃屋には50名以上に及ぶ、

盗賊、<風魔>の忍びが潜んでいた。

とても、自分ひとりで救出できる数ではない。


どうやら、かつての同胞の<風魔>の忍びたちは、

盗賊に雇われているようだった。

盗賊たちにとって、火付盗賊改方は天敵のような

ものだ。その長である、長谷川平蔵を暗殺すれば

火付盗賊改方も弱体化するのではないかと踏んだのか、

それともこれまでの報復なのか、その真意はわからない。


いずれにせよ、双伍にとって、

選択の余地は無かった。

双伍は旅籠に戻り、夜の戸張が落ちるのを待った。

双伍が宿をとっている旅籠には、

旅人として止まっている。


双伍は荷物から、ひとつの竹かごを開き、

漆黒の忍び装束を取り出した。

忍び刀を背負い、クナイなどの武器を懐にしまう。


丑の刻を少し回った頃まで待つ。

窓から屋根に飛び移り、飛ぶように走った。

走りながらも、双伍の心の中では葛藤があった。

実弟の幻也の命がかかっているとはいえ、

また自分は暗殺者となり果て、

江戸の治安を守る長の首を狙っている。


屋根伝いに走りながら、

双伍の顔には冴えた色は見えない。


目指すは清水門外の役宅。

そこに鬼の平蔵と盗賊たちに怖れられる

長谷川平蔵がいる。


聞くところによれば、長谷川平蔵は剣の達人で、

一刀流の使い手らしい。

いかに<風魔小太郎>を齢10代にして襲名した

双伍とて、楽に倒せる相手ではないことは、容易に想像がつく。

それだけに持てる力のすべてを注がねばなるまい。

その気持ちが、さらに双伍の心を重くした。


でき得るならば、寝込みを襲い、

反撃の暇を与えずに葬りたい。

たとえ剣の達人といえど、この刻は夢の中であろう。

忍びは殺気を消すことに、長けている。

気取られずに始末することができれば、それが一番いい。


だが、もうひとつ気がかりになることがある。

それは長谷川平蔵の妻である。

もし、同室で寝ていれば、自分の夫の死に様を

目の当たりにすることだろう。


愛する夫が目の前で、首をはねられれば、

どれだけの衝撃を受けるか・・・。


双伍は様々な思いを振り払うように、頭を振った。

今は、あれこれ考えている場合ではない。

幻也を救うため、意識を集中した。


ほどなくして、長谷川平蔵の清水門外の役宅が

見えてきた・・・。

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