その7

 葉瑠は、ガラス体をコンタクトレンズとして目に入れているらしい。そしてハードとなるタトゥを鼻の両側に目立たない形で掘っていた。こうすることでタトゥが常に視界に入り、コンタクトと相まって視界の中ですべての機能を使用することができる。


 おれのように左手を持ち上げる必要がないというのは便利だ。人間の発明は怠惰のために生まれるとはこの歩みにも当てはまるだろう。



 さて。

 はじめの数日は検査検査の毎日だった。

 おれの遺伝子的な特徴、後天的な変化、それらが身体的・心理的に分析され、裸以上に丸裸にされていく。


 AIはその結果を事細かにおれに報告した。

 遺伝子に刻まれたおれの情報と、実際にいるおれの情報は96.75%一致しているそうだ。残り3.25%は遺伝子に記載されていないおれの身体の部分であり、もしかしたらそれが今後はガンに育つかもしれなかったり、おれと共生しているウィルスだったりするかもしれない、とのことだ。


 96.75%。

 一致率としてなにも問題ない数値と医師は言った。とはいえ知識のないおれは「そうですか」と返すしかないのだが。


 そして迎えた入院目的第一弾の体内メンテナンスの処置は、とても文明的と言える内容ではなかった。

 まず、腸の洗浄液を口から大量に飲まされ、しばらくしてからトイレで叫び声をあげそれらを排出する。


 トイレに篭り気づけば太陽は午後にすすんでおり、空っぽになったおれは手術室へ案内された。

 ガラス体がなければこの病院は手術室すらもシンプル極まりなく、内覧用のアパートの一室のようだ。


 手術室の中心には処置台が置かれており、おれはその上に寝かせられた。

 そして葉瑠含む男女を問わないメディカルスタッフに自身の下半身をさらけ出し、粛々と、肛門から大量のなんらかの異物を挿入される。さらには奥深くに差し込まれ、ねじったりされる。


 当然ながら色々な声が漏れた。

 その時おれと目が合った葉瑠は、必死で笑いをこらえているようだ。処置の様子はガラス体で患者自らが確認できるとのことだったが、どうせおぞましい光景なのだろうと想像がついたのでやめておいた。


 処置自体は30分ほどで終わった。

 車いすが用意され、なぜだろうと処置ベッドから立ち上がろうとすると、がくがくと両ひざが震えまともに立てなかったので、提案に甘え車いすに座り自走で自分の部屋へ戻る。



 次いでおこなわれたのは、遺伝子整形と呼ばれるものだ。これがとにかく時間がかかり、コツコツじっくり処置していくものらしい。

 人間の医師が説明をしてくれたが、おれはあまり理解せず頷いていた。特定の細胞を探し当て、その細胞と、おれ用に遺伝子情報を弄くって培養されたおれ由来の細胞をとを交換する、といったようなことを話していた。そしてその進捗によっては入院期間が長引く可能性もあるという。


 まずは細胞がどこにあるか特定する作業があった――というわけでそれから毎日、おれは朝起きると特定の薬を飲むことになった。ガラス体グラスの中で錠剤に掘られたコードを展開してみると、それは目的の細胞にのみ反応して位置を示すマーキング用の薬とのことだ。


 3日ほど経ってから、おれはMRIのような大げさな機械にかけられ、位置が特定された細胞と新しい細胞の交換手術がおこなわれた。


 手術の一部を、今度はグラスでおれは見ることにした。医師からも説明があったので、その記憶を辿りながら処置内容を見守る。


 はじめに、特定の細胞が存在する部位に注射をうち、その周囲が安全な形で数日中に壊死(医師はそう表現した)するようにする。そして同時に細胞シートを同部位に貼り付け、原細胞の壊死に合わせ取り変わって機能するようにする。


 それをマーキングが消えるまで繰り返すのだから、身体には100近い穴があいた。

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