第25話 一年後

そして、今日が一年後のクリスマス・イヴ……。


一週間前、俺は久しぶりに瑠実にラインを送った。


『クリスマス・イヴの夜9時に、時の広場で待ってる』


相変わらず返信は来なかったが、俺は時の広場で瑠実を待つつもりだ。


あの一年前のイヴのこと、そして、それまでの瑠実に対してのわがまま全てを。心から謝って、もう一度、一緒に過ごしたい。


ただ素直に、ありのままの想いを伝えたい……。


電車が暗闇を抜け、地下の明かりに照らされる。


自宅マンションの最寄駅に着いた。駅を出て、大通りを真っすぐ歩いていく。紅葉も終わった並木道は、乾いた枯れ葉を道に落としている。歩く度に、降り積もった枯れ葉がカサカサと革靴の下で音をたてた。


初めて瑠実をマンションに呼んだ時、一緒に、この並木道を歩いたことを思い出す。


手を繋いで俺の横を歩く瑠実は、それまでで一番嬉しそうに見えた。



「もうすぐだよね?」


「ああ」


目を輝かせ見つめてくる瑠実に、素っ気なく返したっけ。


「嬉しいな。一哉かずやの家に行けるなんて」


子供のように、はしゃいでいた瑠実。


自宅マンションに着き、オートロックのドアを開けると、いつも通りの冷えた部屋が広がる。


瑠実が最後に来て、もう一年経つ。


今も瑠実の置いていったカップや着替えがあって、ふと、それが目に映る時、切ない気持ちになる。この一年、何度も、この部屋に来ていた時の瑠実の幻想が心を過ぎった。


ダイニングテーブルに一人座っている時、


「コーヒー入ったよ」


と瑠実の声が聞こえた気がして、キッチンに視線を移したことは何回あっただろう?


その度に、数え切れない後悔に俺は苛まれた。


脱いだコートを軽くソファーに投げ、冷蔵庫のミネラルウォーターを飲んだ後、浴室に向かう。熱いシャワーを浴びると、冷えた体が熱を帯びて、心が和らいだ。


浴び終わってからタオルだけ身につけ、寝室に移動する。寝室はエアコンのタイマーが作動していて、程良い暖かさになっていた。


ベッドに腰を下ろすと、スプリングが軽く体を押し返す。向かいに置いた鏡に、自分が映っていた。首筋で、細いチェーンのネックレスが光を反射している。


初めて、瑠実がこの部屋に入った時の記憶が心に過ぎった。



「おいで」


ベッドに腰掛けて、瑠実を呼んだ。瑠実は頷いた後、躊躇いがちに俺の横に並んでベッドに座る。


「キスしていいか?」


俺が言うと、瑠実は真っ赤になって下を向き、固まってしまった。


「瑠実」


彼女の手を握り胸に引き寄せると、その指先が、緊張で小刻みに震えているのが伝わってくる。

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