第24話 一人きりのクリスマス
仕事が片付き、再び時計を見上げた時はもう10時30分を回っていた。
しばらく見なかったスマホの画面を確認すると、ラインと不在着信が何件か入っている。全て瑠実からだった。
俺は厚手の黒のコートを羽織ると、職場を後にした。建物から外に出ると、ぱらぱらと雪が降り始めている。建ち並ぶ店先が、色とりどりの電飾に彩られていた。
仕事の疲れで、何度も電車で眠りそうになりながらも、何とか待ち合わせ場所の最寄り駅に着く。駅構内はクリスマスイヴを楽しむために繰り出した人達で、ごった返していた。
外に出るまで、いつも以上に時間がかかり、それだけでさらに疲れが増した気持ちになる。
時の広場に着いて、深緑の時計塔を見上げると、もう11時20分になっていた。人混みの中、周囲をざっと見回し、瑠実を探したが全く見つけられない。
俺はコートからスマホを取り出すと、瑠実の着信にリダイヤルした。数回コール音が鳴った後、留守電に繋がる。
「なんで留守電にしておくんだよ」
すぐに電話を切った。
自分が遅れてきたことは棚に上げて、留守電設定している瑠実に苛立つ。
しかし、約束をすっぽかすことも出来ず、時計塔の前で瑠実を待った。
細かい雪がちらつく中、待ち続けたが、瑠実の姿はいっこうに見えない。
再度電話をかけたが、やはり留守電に繋がるだけだ。苛立ちながら電話を切り、ラインする。
『今どこにいる?俺は時の広場にいるけど』
何度もスマホの画面を確認したが、ラインの返信もない。
「こっちが遅れたから、怒ってんのか?」
どこかの店に入ってるにせよ、連絡くらいすればいいのに……。
その時の俺は、それまで寒い中待ったであろう瑠実のことなんて何も考えず、自分のことばかりだった。
時計塔を見上げると、11時50分。
あまりの寒さに、駅前の自販機でホットコーヒーを買い、冷えた両手を温めた。周囲には、残り少ないイヴのカウントダウンを楽しむカップルがたくさんいて、それが余計に心を冷たくさせる。
あと5分で、クリスマスだ。
手に握ったスマホは少しも振動することなく、缶コーヒーで得た温もりさえ奪ってゆく。
……そして、0時ジャスト。
時の広場に鐘の音が響き渡り、周りの木々に取り付けられていた電飾が、一際明るい煌めきを放った。まばゆい色とりどりのイルミネーションに、周囲から喜びのざわめきが起こる。
この時の広場が、一年で一番美しく輝く瞬間だった……。
その後、0時30分まで時の広場で瑠実を待ったが、スマホが鳴ることも、瑠実が現れることもなかった。体以上に冷え切った心を引きずるように、俺は駅へと引き返して行った。
帰りの電車の中、まどろみながら瑠実の顔を浮かべる。
そんなに俺が待たせたことに腹を立てたのか?
確かに悪かったと思うが、最終的に約束をすっぽかすほどのことだったのか?
付き合って三年。
喧嘩もなかった。
……いや、喧嘩のタネは、たぶんいっぱいあったはずだが、それは瑠実の優しさで全部流してくれていたんだよなと、いまさらながら思い返す。
その後、瑠実から連絡が来ることも、俺からの連絡に瑠実が応じることもなく一年が過ぎた。
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