第50話 満月(フルムーン)と死の月(ブルームーン)
「私はアイリス、よろしくね。」
カローナが初めて王都に連れてこられた時、笑顔で接してくれたのは、アイリスだけだった。
カローナを王都に連れて来た当のルナーでさえ、生来の性格なのか、いつもは始終難しい顔をしていた。
もう当時のカローナは、今のイサベラのように周りに冷たくされたからと言ってめそめそするほどの歳ではなかったが、それでもやはりアイリスが臆することなく普通に接してくれることは嬉しかった。
そもそも月魔法と死霊術は、根は同じ魔法属性であり話も合う。
ルナーに説得されて了承したとはいえ、自分が継ぐことになる、『
そんなアイリスが急によそよそしくなったのは、その『
それ以来、アイリスは、カローナに二度と微笑みかけることはなかった。
アイリスの気持ちを何となく察してしまったカローナには、かける言葉が見つからなかった。
今また思う、「どうすればよかったのだろうか?」カローナは歯を食いしばりながら自問した。
アイリスは今、出会った時と同じような優しい眼差しで、カローナに再び微笑みかけている。
「どうやって死霊術を・・・。」
苦し気に問い掛けるカローナに、アイリスは指にはまった『黄泉の指輪』を見せた。
指輪は禁術の使用による魔力の負荷ゆえに、小刻みに震えたかと思うと、そのままはじけて塵となった。
それだけで、カローナはすべてを察した。
カローナも指輪の存在だけは知っていたからだ。
戦後に、相手の魔法研究所に、目録の記録だけがあり、いくら探しても見つからなかったため、失われたものと思っていたが、アイリスが隠し持っていたのだ。
その、自らの悲願を遂げたアイリスは、人の風貌を失いつつあった。
不死身であるが、生きているとは言えないその体には、あちこちに白骨がむき出しになっている。
重力から解き放たれた全身は、紙や服も、空中でゆらゆらとなびいていた。本当に、もう普通の人間ではない事が分かる。
最上位アンデットの一角を占め、死霊術の最悪の
「ねえ、カローナ・・・。」
微笑んだその顔半分に、白骨が浮いた。
「初めて会った時らずっと、貴方に憧れていたのよ?信じてもらえないかもしれないけれど・・・、お母様が
アイリスは、そういいながら、爪のない白い指で喉を掻いた。
「不思議ね、憧れていたあなたと同じ魔力を手に入れて、満ち足りているはずなのに、なぜだか
アイリスは、また喉を掻いた。その手は少し震えている。
「カローナ・・・、この手であなたを掴んだら。あなたのすべてを吸い取ることが出来るのよね?考えただけで、頭がおかしくなりそう。あなたの生気も取り込めば、お母様も私を『真の月の後継者』だと認めてくださると思うの。そうでしょう?」
カローナは、手に冷たい汗がにじむのを感じた。
禁術『
「(アイリス、お願い・・・。)」
そう言いかけて、カローナは言葉を飲み込んだ。
何をお願いするのだろうか。もうすべてが遅く、後戻りもしない。
彼女が
滅することだ。
永遠の命と引き換えに、他人の生命力を奪い続けなければならず、カローナを手始めに次々に人を襲い始めるだろう。
しかし・・・、滅することが出来るのか?アイリスを・・・。
その感傷を抜きにしても、
カローナの葛藤もむなしく、アイリスは冷たく続けた。
「逃げないでね。もしあなたが逃げれば、そこのセティカを殺すわ。」
姿は見えないが、行方不明のサニールも近くに居るはずだ。二人も放っておくわけにはいかない。
アイリスは、鏡を撫でながら、さらに続けた。
「それにね、イサベラちゃん?この中にいるのよ?」
アイリスの言葉に、カローナは驚愕の表情で、鏡を見た。道理で街中を探しても魔力を感知できなかったはずだ。
「まさか・・・、一体どうやって。」
「その様子だと、やっぱり『
幽鬼と現世のはざまで揺れる肉体は、アイリスの感情の起伏に激しく揺らいだ。先ほどまでの穏やかな笑みは消え、目には狂気が宿りつつある。
「うん、決めた。やっぱりあの子もちゃんと殺さないといけないわね。みんな殺して、私は鏡の中で暮らすの。素敵でしょう?」
もう言っていることがめちゃくちゃだ。
カローナは迷った。鏡にイサベラを追って入るか?いや、それは危険すぎる。アイリスの嘘かもしれないし、鏡の中は時間の流れが違うため、出てこれる時間を予想できない。
やはり、アイリスは何としてもここで『止め』なくてはいけない。そのためには何といってもヒルドだ。
無尽蔵の陽魔力の供給される王都なら、今のアイリスとてヒルドに勝ち目はない。アイリスとカローナの大きな魔力同士でやりあえば、ヒルドは必ずこの場所に来るはずだ。
「カローナ・・・、ふふ、あなたの考えていること分かるわ。ヒルドでしょう?駄目よ、彼女はまだ私の
ついに、アイリスの白骨の手は喉を掻きむしり始め、体は小刻みに震えはじめた。
かつての友人の変わり果てた姿に、カローナの目には思わず涙がにじんだ。
「アイリス・・・、どうして?」
やっと一言だけ絞り出すのが精いっぱいだった。
「憐れむなぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
アイリスが激高して間合いを詰めてくるよりも早く、カローナは後ろに飛びずさると、その手は青白い炎を宿し、一気に膨れ上がった。
「
陽魔法以外は、強い魔力耐性を持つ
しかし、その攻撃の向かった方向に、アイリスの顔は一瞬にして凍り付いた。
自動追尾の|鬼火は、
「(鏡!)」
アイリスが声を上げる暇もない間に、
「いやぁぁっ!!!!」
アイリスは酷く取り乱し、はじけ飛ぶように床に落ちた鏡に駆け寄ると、震える手で鏡を抱えながら、鏡面を狂ったようにこすった。
割れていないのを見てもなお、アイリスは鏡をこすり続けた。
「
街でイサベラを探すときに召喚して、部屋の外に待機させておいたものだ。
その
アイリスは、連れ去られるセティカには見向きもせずに、やっと鏡をこすり終えると、それを床に置き、ふらふらと立ち上がった。
「傷でもついたらどうするの?」
「その鏡は、生徒一人より大事なものではないわ。」
「あなたのそういうはっきりしたところ・・・、昔から『合わないな』って思っていたのよね。」
カローナを睨みつけながら、静かに語るアイリスの周囲に、いくつもの青白い火の玉が、ゆっくりと出現し始めた。
「(始まった・・・。)」
周辺に
「
漂っていた
自動追尾。
意志を持つ青い火は、目標ににあたってはじけるまでどこまでもついてくるため、相殺するか、敢えてくらうしかない。
カローナは、衝撃に耐えるため、歯を食いしばった。
直後に、無数の
アイリスは、もうもうと立ち込める埃の向こうにいるであろうカローナを見つめながら、体の埃を払った。
無論、これだけの攻撃で決着がつくとは思っていない。
「久しぶりね、あなたのその姿。それよ・・・、それが私の憧れたカローナ。」
立ち上がったカローナの体には、被弾の直前に発動した
「ますます、欲しくなるじゃない。」
アイリスは、喉を掻きながら微笑んだ。
「
アイリスの狂気に構うことなく、呪文を唱えたカローナの両手が青く燃え上がり、その手を固く握ると、カローナは格闘家のような構えを取った。
「
立て続けの魔法の発動と同時に、小さな輝きが稲妻のようにカローナに落ち、全身を淡い光が包んだ。
既にあの世へ旅立った、過去の英雄霊を呼び出して自らへ憑依させ、その力を借りる死霊術だ。
カローナが体に呼び込んだのは、ある徒手空拳の達人、それも『受けること、竜の
カローナの意識に、英雄が語りかけてくる。
(久しぶりに呼び出されてみれば、あれアイリスか?きっついな。)
「(無駄口叩かないで!)」
呼び出した、達人の霊を叱咤しながら、カローナは呼吸を整えた。
アイリスは、そんな微塵の隙も無いカローナの姿に・・・、見とれていた。
「でも・・・、今見ると簡単そうね、その
アイリスは、空中を掻くようにまさぐったかと思うと、突如として現れた黒い
「これでいいのかしら?」
セオリーを無視した、めちゃくちゃな死霊術だ。
だが取り込んだのは、カローナ同様、体術の達人。過去に付いた呼び名は『狂獣』。その戦い方は、相手の喉笛を掻き切ることしか考えない、まさに狂った獣だ。
その戦闘スタイルを忠実に体現するかのように、アイリスは四つん這いになると、肉食獣が獲物を狩るときのように、目を細めた。
(よりによって『狂獣』か・・・。知ってるか?俺、あいつに勝ったことないんだぜ?)
「(守ってたからでしょ!来る!
初撃。
アイリスは、地面すれすれの突進から、跳ね上がるように、カローナの喉元に手を伸ばしてきた。
アイリスの望みはただ一つ。カローナの生気を吸うこと。掴んでしまえば、抵抗もできずに、それは完了する。
しかし、掴みかかろうとしたその手は、カローナの鬼火籠手に軽くいなされた。
二撃、三撃。
続けて、突進から遅れて放たれた何体もの
「がぁ♡(
一瞬ひるんだカローナの喉を掴んだ、・・・かに思えたその瞬間。カローナの体は視界から消え、逆にアイリスの腕が、カローナの鬼火籠手に掴まれていた。
そのまま勢いを利用されて、壁に叩きつけられる。
(知り合いを叩きつける・・・、やっぱりきついな、これ。)
「(言わないで!)」
物理攻撃はすぐに再生されるため、ダメージがないのは分かっている。それでも相手の攻撃の手を止めるには、大きくいなすかはじくしかない。とにかく凌ぐのだ。
「痛いじゃない。」
変わらぬ獣じみた動きで壁から着地すると、アイリスの周りには、また鬼火が集まり始めた。
しかし、数が増えている。
「私の中の『狂獣』がね、『もっと手数を増やせ』ですって!」
言い終わるや否や、アイリスの狂ったような猛撃が始まった。
その攻撃の合間には、部屋のほぼ全体まで広がった鬼火が、弾幕のように全方位から破裂する。
だがカローナも、その猛攻をことごとく
(勝ったことはないけど、攻撃は生前と同じで読みやすいね。)
「(ああ、死の
アイリスは、猛撃を加えながら、うっとりとカローナを見つめた。
友情や愛ではもちろんない。それはただの『欲』だった。
「(やっぱり仕方ないわよね。)」
街の方では、意識を共有する
カローナは疲れ始めているが、このままでは守りを崩せそうにない。ヒルドが来る前に決めなくては。
アイリスは、猛攻の手を止めると、向きを変え、
その行動は、カローナにとって、一瞬、不可解だった。しかし直後から、言いようの不安がせりあがってくる。アイリスはいつからその兆候を感じていたのだろうか?
要領の悪いあの子が、このタイミングで鏡から出てくるということを、どうしてカローナが予想できただろうか。
「イサベラ!」
(待て!集中を解くな!)
武人霊の警告にもかかわらず、カローナも鏡の方へ向かおうとした、その時だった。
背後からの一撃。
それでも鬼火の攻撃ならば、
しかしそれは、
「かはっ!」
投げつけられた
戸口には、サニールが
その眼は赤く光り、彼の体に巣食うものの正体を現していた。
カローナは、部屋中に散らされた鬼火によって、サニールと、その体内にいる
鏡には、イサベラの姿はもうどこにもなかった。
「(しまった・・・、幻術に・・・。)」
アイリスが近づいてくる。
「あんなちゃちな幻術。普段のあなたなら簡単に見抜いたでしょうに、よっぽどイサベラちゃんが大事なのね。」
月魔法のもっとも得意とする技。知り尽くしている魔法だったはずなのに、完全に不覚を取った。
「
固まっていたサニールが動き出し、人形のような動きで、
赤く光る目。サニールの中にいるのは、白い魔物『魔力喰い《エーテルイーター》』だ。
アイリスも驚いたことだが、普通なら、魔力を吸い取った人間には興味を失うはずが、サニールの場合は、そのまま体内に憑りついたのだ。そしてサニールごと操ることもできた。
恐らく、肩当て《スポールダー》から無尽蔵に供給される魔力によって、吸い取り続けることが出来るからだろうが、アイリスにとっては格好の切り札となった。
「殺してはだめよ。」
膝をつくカローナに、サニールの非情な二撃目がくわえられ、カローナは気を失った。それによって
「さあ、カローナ。私の糧に・・・。」
アイリスは、喉を掻きながら、もう片方の腕をカローナへと伸ばした。
キィィィィィィ
その指先がカローナの喉元に触れ、カローナの生気が流れ込んできたとき、アイリスは天を仰いだ。
「(ついに!ついに!)」
キィィィィィィィィィィィィィ
もっと強くのどを掴もうとしたとき、アイリスは異変に気が付いた。体が動かない。
キィィィィィィァァァァァァ!!
転がっていった髑髏。『魔族の
「(ま・さ・か・・・。)」
動けないアイリスの横を、黒い影のようなものが横切ったかと思うと、そのままカローナを抱えるように引きずっていき、床に置かれた、
「
カローナは、吸い込まれるようにして、鏡の中へ消えていった。
「イ・ザ・ベ・ラァァァァァ!」
アイリスの出した幻術ではない、本物のイサベラが、『魔族の
意を決して鏡から出たとき、想像のはるか斜め上を行く、まったく理解不能の状況だったが、異形のアイリスの手が、カローナに伸びているのが見えたとき、目の前に転がる髑髏を無我夢中でつかんだ。
つい先ほど、『
本当は、鏡を抱えて一目散に逃げだすか、せめてカローナと一緒に鏡の中へ逃げ込みたかった。
だが、目の前にはサニールがいる。その赤い目と、体内に感じる
サニール様子から、彼の置かれた状況はだいたい察することが出来た。
助けなければならない。
イサベラは恐怖に震える体を叩きながら、必死で考えを巡らせた。
「(大丈夫。セフォネさんの話が本当なら、『これ』で行けるはず。)」
セフォネから貸してもらった、黒いぼろきれ。今は、前掛けのようにイサベラが身に着け、その裾は、薄く伸びる黒い煙のように、ゆらゆらと宙に揺れている。
『死神のエプロン』。
嘘か本当か分からないが、セフォネが死神からもらった物だそうだ。
その効果は強力で、死霊術の魔力によって発動し、魔力の続く限り『無敵』になれる。
全ての攻撃が、吸収されるのだ。あらゆる魔法が吸収されるのはもちろん、物理的な衝撃さえ吸収され、空中も浮遊できるようになる。
ただし、装備している者の魔力もガンガン吸収していく呪われた魔法品であり、つけ続ければ気絶する。
イサベラでは数十秒も持たないが、鏡から出て、瞬間的にうまく逃げれられるようにと、セフォネが貸してくれたものだ。魔力喰い《エーテルイーター》も、触るだけで消滅するはずだと教えてもらった。
「(サニールさんと、鏡に避難出来れば!)」
イサベラは、鏡を掴んで、サニールに向かって一直線に飛んだ。魔力はもってあと数秒。
「それをはなせぇぇぇぇ!!!!」
『
しかし、アイリスの放った
「魔力喰い《エーテルイーター》!」
アイリスは、怒りに震えながら、
時間が止まったような一瞬。魔力喰い《エーテルイーター》は、一直線に向かってくる少女を凝視した。
少女の身に着ける魔法品。それは自らの消滅を強く感じさせるものだった。しかし、もとより恐怖などない。
『死にぞこない《アンデット》』ととして創られた自分が、やっと満たされることのない空腹から解放される。
イサベラは、サニールに触れる瞬間、赤い目が閉じるのを確かに見た。
魔力喰い《エーテルイーター》は、『死神のエプロン』に吸収され、消滅した。
イサベラは、そのまま意識のを失ったサニールを抱え、最後の魔力を振り絞って、呪文を唱えた。
「
しかし、確かに開いていた反転世界の扉に、サニールの体は弾かれた。
「(なんで!・・・ああそっか・・・。サニールさんは入れないんだ・・・、馬鹿だ、わたし・・・、死・・・。)」
イサベラは、自分の間抜けさに無力感を感じながら、死神のエプロンに全ての魔力を吸い取られ、気を失った。
「バカねぇ・・・、本当にバカねぇ。」
アイリスは、軽蔑と哀れみと怒りのこもった声で吐き捨てながら、イサベラを見下ろした。
忌々しいのは、カローナのことを台無しにされた事だ。
もうすぐヒルドが来る。カローナは一旦置いておいて、イサベラを殺した後、鏡とともにここを去るしかない。そのあとでゆっくりと
アイリスの、イサベラの生気を吸い取ろと伸ばしたその腕は、石化した。
「(どうしてこう)」
次々と邪魔が入るのだろうか。
歯を食いしばったゴニアが、戸口に立っていた。今のその瞳には、魔力が可視化できるほど、凝縮されている。
イサベラを探して街中を駆け回り、近くで魔力による戦いを察知して、誰よりも早く学校にたどり着き、イサベラとアイリスの前に立ったのは、幸運だったのだろうか、それとも不運だったのだろうか。
「イサベラさんに・・・触らないで!」
ゴニアの瞳と、石化するはずのない
それを目で追うゴニア。
イサベラを見て、感情が爆発し、
アイリスのいた場所は『空気が石化』し、砂のようになって落ち、突如生じた真空に、部屋の中で乱気流が生じた。
だがアイリスに焦りはなかった。
アイリスはこの暴走状態を見たことがある。かつて戦場で、メディキュラスが見せたものだ。普段の石化能力とは違い、アンデットはもちろん空気や水さえも石化していくすさまじい状態だ。
だが、その弱点も知っている。尋常ではない速さで、激しく魔力を消費するのだ。狙いを定めさせぬように、素早く動いていれば、すぐに自滅する。
「はぁぐっ!」
アイリスの予想通り、ゴニアは苦しそうに目と胸を押さえると、倒れるように壁にもたれてしまった。
「
動きの止まったゴニアの喉を掴むと、アイリスは冷たく言い放った。
「死になさい。」
先ほど、イサベラの無様を見たからかもしれない。ゴニアも同じような小娘と考えたのは、アイリスの油断だった。
アイリスのゴニアを掴んだ手が、パキパキと石化していく。魔力が尽きたのは、見せかけだった。
目で追えないと悟ったゴニアは、アイリスにわざと掴ませたのだ。
「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
まさかこんなところで終わるわけにはいかない。せっかく死霊術の魔力を手に入れたのだ。
半狂乱になったアイリスは、もう片方の腕で、ゴニアを殴打した。同時に、無数の
しかし、ゴニアはすでに自分自身をも硬く、硬く、石化し、衝撃をはじく。
そこでゴニアの魔力は本当に尽きた。
アイリスの石化は、肩口まで来ていた。
「小娘がっ!」
ゴニアの動きが止まり、石化も止まったことから、アイリスは安堵の悪態をついた。
問題ない。まだ間に合う。
少し手間どうが、石化した部分を引きちぎって、すぐにおさらばだ。
・・・のはずだった。
アイリスは、引きちぎろうと力を込めた腕を下ろし、静かにうつむいた。
まさか、ここで終わりとは・・・。
気絶から回復したサニールが、
肩当て《スポールダー》からの魔力回復があるとはいえ、この速さで意識を取り戻すのは超人的だ。そして彼ならば、仕損じることはほぼないだろう。
人間だった時なら、執着にもがき続けただろう。だが皮肉なことに、死霊になった今では、突き付けられた最後に、どんどん無感情になっていくのが分かる。
「・・・無念だわ。命乞いをしてもいいかしら?」
サニールはアイリスの顔を見なかった。
「・・・『
無念さで、ふり絞る様に、サニールは答えた。
「そうだったわね・・・。」
魔力充填の完了した
「(お母様・・・。)」
太陽殴り《フルスイングフレア》がさく裂する瞬間、アイリスは手を伸ばして呪文を唱えた。
「
鏡が反応したかを確認することなく、アイリスは灰塵となって消えていった。
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