13話-同じもの


謎の腹痛の悪化を回避するために、一旦名東区に戻った私達。

じわじわと襲ってきていた腹痛は、名東区への境を越えると共に落ち着いた。



この作戦を思い付いたのは、彼女…おいなごちゃんだった。

曰く、

「私も名古屋市から出ると、頭痛と吐き気に悩まされるんだけど…市内に戻ると治まるから、メイちゃんのジワジワ痛くなるのもリセットされるかも…?」


との推察で、活動できる範囲に違いはあれど、自分と同じような悩みを抱えているという事実が嬉しくもある。

何よりこの方法なら、名東区から出ずに遊んできたこれまでの人生で、行きたいと感じても諦めていた複数箇所への外出ができるのだ。


「メイちゃん、お腹痛いの治まった?大丈夫?」


「はい!おいなごちゃんの言う通りだったのです!」


「じゃあ、次のお店に行こうか。痛くなってきたらすぐ言うんだよ。」



「はいなのです!」




そうして私達を乗せた車は、今度は先程までとは違う方向へと走り出す。

名東区が【丘】というイメージなら、次の目的地は【山】だろうか。

名古屋16区の中で唯一、市営地下鉄が通らない場所

守山区のとある場所に、お目当てのお店を見つけた。



「ついたよー!」


「はい!運転お疲れ様なのです!」


「念願のタルト食べ放題だよ…!」


「はい!…ちなみに名東区には、シフォンケーキ食べ放題なお店もあるのです…っ」


「そうなの!? 今度一緒に行こうねー!」



今度また遊んでくれる。

そんな約束をしてくれたように思えて嬉しい一言だ。





タルトの焼き上がりを待つ間に、彼女がふと思い出したかのように口を開く。



「…そうだメイちゃん。今朝の事なんだけど…」


「は、はい…?」


「何で遊んでくれるの? って、聞いてくれたじゃん。」


「あ…はい…!」



その出来事が今朝の話だとは思えないくらいに充実した1日を過ごしていたせいか、すっかり忘れてしまっていた。

今思えば、私は何故そんな恥ずかしい質問をしてしまったのだろう…。



「メイちゃんと初めて会った日、私も同じ質問をメイちゃんにしたの、覚えてる?」


「は、はい…。」


「きっとね、お互い同じ事を考えていて、同じように不安なんだよ。」



そう言うと彼女は、真っ直ぐにこちらに向き直る。

鮮やかな緑色の瞳に、私の姿が映るのが見えた。


「お互いの質問の答え、せーの で言おう。いいかな? せーのっ」






「…すっ」


と、お互いが言葉を発しようとした瞬間に、焼きたてのタルトが運ばれてきた。


それもあって結局うやむやになってしまったが、「す」の一致だけでも今日は満足だ。



好きだから、一緒に遊びたい。

こんなにシンプルな答えなのに、きっかけが無いと言葉に出来ないのは

このシンプルな答えが、本当だからだろう。


私はその「す」を胸に秘めて、目の前で満足そうにタルトを頬張る彼女に視線を移す。


その視線に気付いたのか、彼女は私に幸せそうな笑顔を向けながらこう言った。



「スイーツは、別腹だよねー!」

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