12-わからない事


「…メイちゃん、大丈夫…?」



…言葉にならない言葉を目で訴えるが、どうにも涙が止まらない。

私がかぶりついた巻寿司には、大量のワサビやタバスコ等の刺激物が潜んでいて、いくらお茶を飲んでもその辛味が消える事はなかった。


涙目になりながらも咀嚼する私の頭を彼女は優しく撫でながらも、巻寿司に一口かぶりつく。



「…これホントに辛いヤツだね…」




一人で挑戦しようとは思わないメニューも、二人なら楽しめる。

辛さのせいか無言になりながらも巻寿司を完食し、新鮮で貴重な時間を一緒に過ごす事で、より深くお互いを知れた気がした私と彼女は、満足しつつもお会計を済ませ、お店をあとにした。





そして…車に乗り込もうと思ったその時、ふと気付く。


…さっきの巻寿司、一緒に食べ切ったって事は…間接的にそういう事になってるわけで、意識しなければなんて事はない事なのかもしれないけれど

気になりはじめると気になって仕方が無い。



気恥ずかしくなりながらも、隣に座る彼女の方に目をやると、ちょうど彼女も私の方に向いてこう言った。


「辛いのもう大丈夫? 次は甘い物食べに行こー!」


そう言って笑いかけ、車を走らせる彼女は

私が気にしている事を気にも留めていない様子で、自分ばかりがその事を気にしているのが余計に恥ずかしく思えた。




「…メイちゃん、機嫌悪いの…?」


「べ、別にそんな事ないのです!」



事実、そんな事はない。

自分と彼女の間で温度差が生まれている事が寂しい とか

そんな事は断じてない。そう、断じて。



「…さっきのお寿司、気に入らなかった…?」


「い、いえ…辛かったですけど…」



「そっか…メイちゃんと行けてよかったよ。」


「そうなのです…?おいなごちゃんなら、他にも遊びたい人が沢山いそうなのです。」


「うーん、それでも私はメイちゃんと色んな所に行きたいよ。…それにね。」


「…?」


「…間接チューもしちゃったしね、辛かったけど。」


「…!」



彼女の目は遠くを見据えたままだが、頬が少し色付くのが見て取れて、嬉しさと反面、気恥ずかしさが一気に襲ってきた。


…本当に、彼女は一緒に居ればいる程に、何を考えているのかわからない。

いや、わからないのはきっと、自分も同じだ。

自分でもこの気持ちが何なのか、やはりわからないのだから。





人は、わからない事を理解しようとして日々を生きるのかもしれない。

それなら、一つだけ今わかっている事を言葉にしよう。


そう思い、私はゆっくりと それを言葉にした。




「私も、おいなごちゃんと遊べて嬉しいのです!」

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