第4話

 __数ヶ月後、ついに上層へと向かう道が発見された。しかし、そこにはボスがいてそいつを倒さない限り次のステージには進めないらしい。

 よって、そのボスを攻略するための『攻略者キャプチャーパーティー』の募集が行われていた。

 当然俺たち2人も参加して__いない。俺たちはそんな募集を横目に今日も今日とて平原のモブ狩りに勤しんでいた。


「『ゴブリンのツノ』5個回収終わりましたよ〜」

「おー、こっちも『スライムの核』15個回収終わったぞー」

「これでクエスト完了ですね!」

「そうだな、帰りに美味いもんでも食って帰るか」

「いいですねそれ!私はグリーンバードの唐揚げが食べたいです!」

「俺はミノフィッシュの煮付けかな〜」


 そんな風に2人で夕飯の話をしながら街の中に入る。そして、まっすぐ『冒険者ギルド』に向かい。クエストの報告をする。


「はい、確かに『ゴブリンのツノ』と『スライムの核』ですね。クエストお疲れ様でした!こちら報酬になります!」

「ありがとうございます。それでは」


 俺がそう言うとギルド職員の女性NPCはニコリと笑って手を振ってくれる。手を振り返すと隣から殺気が。


「…アンリさんおこ?」

「怒ってません。喋らないでください」

「怒ってんじゃん!?」

「うるさいです、息をしないでください」

「俺に死ねと!?」

「あら?直接言わないとわかりませんか?」

「酷い!酷すぎるっ!」


 くそっ、なんでだ…仕方がないこんなときは__!


「ア、アンリさんや。今夜の晩御飯はデザートにアイスを頼んでいいぞ?」

「え?マジですか?やったー!ラッキー!」


 すると先ほどまでの不機嫌は何処へやら、とても無邪気に喜ぶのだった。

 本当に年齢に合わず幼__これ以上考えるのはやめよう。

 俺は身の危険を感じて思考を停止した。


「あれ?おーい、シュウ!」

「ん?おお、ショウヤじゃねえか。今日は1人か?」


 声をかけてきたのは数ヶ月前に知り合ったショウヤという男性プレイヤーだ。

 何の用だろうか…?あとの2人がいないなんて珍しいな


「ああ、2人はあそこにいるよ」

「あそこって…広場か?」


 なぜ広場にいるんだろうか?デートでもしてたんだろうか。

 頭にハテナマークを浮かべていると横からアンリが教えてくれた。


「覚えてないんですか?今日はボス攻略のための『攻略者パーティー』の募集審査の日ですよ」

「攻略者パーティー?ああ、そんなのあったな〜、そういえば」


 自分たちが参加しないから完全に忘れていた。しかし、広場にいるということはこいつらは受けるんだろうか。


「なあ、お前らはそれに応募したのか?」

「いや?してないよ。ただ単に興味本位で覗いてるだけ。そんなことより君たち、応募してきなよ」

「は?」


 は?今こいつはなんと言った?応募してこい…?俺たちに?何を言ってるんだろうか、意味がわからない。

 はあ…とため息をつくと俺はショウヤに言ってやる。


「あのなあ…俺たちは弱いぞ?俺の固有技能は壁を作るだけだし、アンリは使った後しばらく魔法を使えなくなるポンコツだし_『おい、ポンコツとは_』_わかったうるさい黙ってろ」


 そう、俺たちは弱いのだ。下手したらショウヤたちのパーティーにも負けるレベルで、ミノタウルルスは不意をついたから速攻倒せたが、ボスはそうはいかないだろう。

 そのことを伝えるとショウヤは微妙な表情をして呟いた。


「優勝したら『ゴールドポーク』の肉がもらえるんだけどなあ…」

「よしやるか、おいショウヤ応募はどこでできる?」

「やってやりましょう。私の杖が火を吹きますよ」

「君たち変わり身早いねえ!?」


 当たり前だ、肉だぞ肉。しかもあの超激レア肉『ゴールドポーク』これは逃せないだろう。

 呆れているショウヤに連れられて俺たちは応募を行った。


 さあ、肉のために頑張るぞ!


 おそらく会場の誰よりも不真面目なことを考える俺たちだった。


◆◆◆◆◆◆◆


 ついに『攻略者パーティー』の審査が始まった。ルールはこうだった。


・全プレイヤーのトーナメントで上位6名がパーティー入り。


・武器や技能アイテムの使用などは自由。


・場外に出た時点で失格となり、試合終了。


・尚、この審査で行われる戦闘は全て『決闘』システムを使用すること。


 の4つだった。

 決闘システムとは設定した体力以下には絶対にならないPVPである。これを使えば死亡事故が起こらないため、こういった行事で使われる。

 しかしトーナメントか…まあいい、肉のためだ。頑張るぞ!

 そう決意を固めると先程ルール説明をした男性NPCがステージの上に上がって叫んだ。


「それでは第1回戦めろんぱんVSアンリ!ステージの上へ!」


 お、1回戦目はアンリか。さて、どんな戦いをするんだろうな。

 相手を見てみると北フィールドの沼地のモブであるトロルと見紛うような巨体を誇る女性プレイヤーだった。あれ、ダイヴチョーカーつけられたの?てか、名前とのギャップの凄さよ。

 そんなトロ…めろんぱんさんはアンリを見ると「げっへっへっへ」と笑っていった。


「1回戦目があんたみたいなちっこいのとはね、楽勝だわ!」

「……」


 めろんぱんさんに挑発されてもアンリはなにも言わずに、ジッと相手の顔を見ていた。

 そして審判が叫ぶ。


「両者準備はいいですね?レディー…ファイッ!」

「グヘヘ!【金剛__】」

「【プロージョン】」


 瞬間で削り取られるライフ。相手にスキルを使わせる間もなく勝負を決めてしまった。

 会場の人間は一瞬なにが起こったのかわからずポカンとしていたが、審判の「し、試合終了ッ!勝者、アンリーーーー!!!」という勝利宣言を聞いた途端に歓声が場を包んだ。

 アンリはこっちを向いてニコリと笑うと走ってきた。不覚にも可愛いと思ってしまった。そしてなぜか視線が突き刺さる、痛い…

 俺の隣に座るとアンリは言った。


「どうでしたか?」

「ああ、すごいと思うぞ」

「うへへ〜、アイスをつけてくれてもいいんですよ?」

「調子に乗んな、バカ貧乳」


 俺がそう言った瞬間、俺の耳の横を風切音が通り過ぎ、俺の隣から石が砕ける音がした。

 チラリとそちらに視線を向けるとアンリの持つ杖によって俺の隣の階段にヒビが入っていた。


「その2つはセットにしない。オーケー?」


 あ、いかん。これはマズい。目がマジだ。

 俺は、声も出さずに頷くことしかできなかった。

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