Sir Duke

 デカい――

皇帝のいた城に比べれば、もちろんはるかに小さいが、その辺の領主なんかではこんなに大きな館に住むことはできないだろう。

その大きな館を、銀色が眩しい鎧を付けたおそらく騎士であろう人たちが、何人も出入りしている。


「こ、ここに竜士がいるの?」


「そうそう、ここの一番上の部屋にね」


こんなに大きな館で、しかも騎士たちが出入りするような所の最上階にいるような人ということは、また偉い人なのか?


 中に入ると、まず受付があった。

玄関を入ると大ホールで、目の前には大きな階段、真上には豪華なシャンデリア――

という感じのを想像していたので少々拍子抜けだ。

貴族の住む館というよりは、ただの事務所みたいな印象だ。


 アミィはまるで何回も来ているかのように、気さくに受付に話しかけている。

受付のお姉さんも「あら、アミィ! 昨日はお疲れ様。」と、どうやら知った顔のようだ。


「よかったー、今は部屋にいるみたい!」


「あ、そうなんだ」


今から行くって連絡しておいてもらったから早く行こ、とアミィはさっさと階段を昇っていってしまった。

電話みたいなのもあるんだ、この世界。


 昨日、俺が召喚された時に来ていた人も多いのか、チラチラという視線を感じながら階段を最上階まで昇ると、明らかに偉い人がいそうなドアがあった。


「ハァ、なんで電話はあるのにエレベーターはないんだ……」


「あれくらいで疲れたの? 体力ない英雄だなぁ……」


アミィに呆れられてしまった。

文明の利器に頼りきりの現代人には、20階までの階段を息を切らさずに昇れっていうのはちょっとキツいなぁ


 俺は息を整えると、ドアに向き合った。

どういう人物か聞いていないのでちょっと緊張する。明らかに偉い人だろうし。

なんか「団長室」って書いてるように見えるが気のせいだろうか。


「いい? 開けるよ?」


「よ、よし――」


アミィが失礼します、と言いながらドアをノックした。

自然と背筋が伸びる。



 豪華なドアをくぐった先には、思ったよりも若い人物がいた。


「あなたが英雄様ですね。お待ちしていました。」


ちょうど仕事中だったのだろうか。

持っていたペンを置き、こちらに目を合わせた。

意外だ。てっきり皇帝みたいに厳つい老人でも出てくるのかと思った。


「お初にお目にかかります。」


そう言いながら、背中まである長髪のイケメンは、机を回り込んでクロの前までやってきた。


「私は、ローラン・ペンドラゴン。大帝陛下直属のジーアス帝国軍の騎士団長を務めさせて頂いております。」


「き、きしだんちょう……」


皇帝の次は、騎士団長ときたか。


「こ、こちらこそ、初めまして! 真田玄幸といいます!」


咄嗟に出たのはお辞儀だった。

軍人なんだから敬礼の方がよかったかもしれない、と床を見ながら思った。


「そんなに緊張なさらないでください、英雄様。かしこまるのは私の方でございます。」


そういうと、ローランはクロの前に片膝をついた。

長い金色の髪と肩に掛けたマントが、ふわっと舞う。

ちょっと良い匂いがする――


「私の先祖の、そのまた先祖の代から、ずっとお待ちしておりました。」

「どうぞ私も竜士探しの旅にお連れください。粉骨砕身の覚悟でお供致します。」


んー? なんだか勝手に話が進んだぞ?

という顔でアミィの方を見たら、察してくれたのか説明してくれた。


「この人はね、皇帝一族の分家のペンドラゴン公爵家の現当主で、帝国軍の実質のトップ。めっちゃ偉い人。」

「そして、龍神様の子孫の一人。」


「その通りでございます。我がペンドラゴン家は、代々龍神様の子孫として、天空神様の子孫である歴代の皇帝陛下をお守りする立場にございました。」

「しかし同時に、龍神様に選ばれた英雄様が現れた際には、英雄様をお守りし、手助けをするようにとも伝えられておりました。」

「世界が滅びかけ、英雄様が召喚されし今! まさに当家の使命を果たすとき! 必ずやお役に立ってみせましょう!」


固く手を握られてしまった。


「今のとこ、竜士だってわかってる人ってこの人だけなんだよねー」


そういってアミィは、持っていた杖をローランに渡した。

ローランの手に杖が渡った途端、杖の先端の青い宝石のような物が光りだした。


「ね?」


どうやら、杖の宝石が光ると竜士という事らしい。


「竜士って事は、どっちにしろこの人を連れて行かなきゃいけないんでしょ? 俺としても騎士団長が付いて来てくれるなら心強いし」

「それはいいんだけどさ、どうやって竜士を探しに行くの? 歩きで地道にやってく?」


俺の質問に対し、二人は顔を見合わせ「ニヤリ」と笑って答えた。





 デカい――

俺は、目の前のものに対し、本日2度目の言葉を発していた。


 「ニヤリ」と笑った二人は、まあまあ付いてくればわかるよ、と言って俺を外に連れ出した。

また20階分の階段を歩かされ、息を切らしながら外に連れ出された俺は、どこに向かうとも知れず、ひたすら二人についていった。

そして、たどり着いた場所には、馬が並んでいた。


「ここに並んでいますのは、我が雷竜騎士団の所有する名馬たちでございます。」

「一頭一頭が諸国の王に献上される程の名馬であり、人が1ヵ月かかる道のりを3日で駆け抜け、敵と対峙しても怯むことのない、戦場で頼りになる相棒でもあります。」


ローランが意気揚々と説明してくれた。


「へぇ、馬で行くのかー。乗れるかなぁ」


車ならまだしも、馬なんて小さい頃にポニーの乗馬体験をして以来だ。


「いえ、馬ではありません。続いてはこちらへ。」


そういってローランは、隣の建物へと俺を案内した。

馬じゃないならなんで紹介したんだ……


 ローランに案内されてやってきた建物には、元の世界でも見た事のある物が並んでいた。

バイクだ。

それもただのバイクじゃない。

ものすごく、デカい。

それこそ馬と大差ないんじゃないかってくらい、デカい。

そんなのが10台ちょっと、ずらりと並んでいる。


「でっか…すっげ…この世界、バイクもあんの?」


「おや、英雄様の世界ではバイクというのですか? 私共の世界ではこの手のものは「オートモー」と呼んでおります。」

「中でも特に、こういう形状の物は「コーサ―」と呼ばれています。」


ローランはひと際大きい「コーサ―」に近寄ると、片足を上げ颯爽と跨った。

スラリと伸びた脚でやられると、とてつもなく画になる。


「私は騎士団長とは呼ばれていますが、実際に率いているのはこの「コーサ―」に乗る精鋭たちを集めた最新鋭の部隊。その速さと、その迫力からついた名は――」


なんだろう、雷みたいな速さと迫力の機械の馬だから、「雷光機馬隊」とかかな? うーん、咄嗟に思いついた割にはかっこいい。いつか自分で部隊名とか付ける時があったら使おうかな。

そんな時が来るかわかんないけど。


「その名も「電撃戦隊」!」


うわ、思ったよりダサかった……ていうか聞いたことあるし……


「そしてこいつは私の愛馬。」


ローランが、跨っているコーサ―を撫でる。


「名を「ヴィランティフ」といいます、今は眠っていますが、オートモーなのに意思を持った変わったやつでしてね。かわいいんですよ。」


自分の愛馬を撫でるローランの顔がほころぶ。

白と黒と青のカラーリングに、金の装飾の入った、とても大きく、そしてとてもかっこいいバイクだ。なんとなく騎士の鎧を連想させる。

形状は……なんだっけな? 前に名前を聞いた事がある気がするんだけど……前輪が大きく突き出た、アメリカのグラサンをかけたかっこいいおっさんが乗ってるようなゴツいバイクだ。

このバイクに鎧を付けたローランが乗っていたら、あまりのかっこよさに通り過ぎた後には気絶した女性たちで道ができるだろう。

しかし意思を持った機械とは――いよいよファンタジーだな。

いや、特撮というべきか?


「そうか! 馬じゃなくて「鉄の馬」に乗るって事か! いやあ、確かにかっこいいけど、こんな大きいの乗れるかなぁ」


教習所でスクーターなら乗った事があるんだけどね。


「あ、すみません……。コーサ―でもないのです。紹介しておきたかっただけでして……」


……ほう。





 ほんとはこっちでした。と、また隣の建物へ案内された。


「さあどうです! 素晴らしいでしょう!」


ローランが自慢げに腕を広げる。その先にはまた、元の世界で見た事があるものがあった。

車だ。

さっきのコーサ―とは違って、元の世界の車と変わっているようなところは、パッと見では無い。

というか、元の世界でそっくりの車を見たことがあるぞ?

かなり古い車だったと思うけど、カブトムシみたいだって思った記憶があるような――。


「車かー。先にバイク見ちゃったから驚かないなー。街でも走ってたしー」


街で走ってたのはもっと旧式の、イスに車輪を付けたみたいなやつだったけどね。


「なにをおっしゃいますか英雄様! この「プロスペクター」は、街を走っているただのオートモーとはわけが違うんですよ!」

「まずこのボディ! 街を走っているオートモーは乗っている人がむき出しですが、このプロスペクターは安全面を強化するためにすべてを金属板で覆っています! しかもその金属板は、外側は魔力を吸収し、内側は魔力と生命力を増幅するという二つの貴重な金属を合わせた、一部の人たちにしか作れない貴重なもの! 座席は長時間乗ることを考慮してふかふかの快適なものを用意し、エンジンも長旅においては現在実用化されているものでは役立たずになることも想定されますので、技術者の寝不足と努力によって従来のエンジンでは為し得なかった馬力とトルクを実現し――」


「わ、分かった分かった! すごいということはよく分かった!」


バイクに乗ってるだけあって、メカオタクなのか?


「いえ、まだお伝えすることが他にも――」


「まあ、どうせ運転の仕方も教えなきゃいけないだろうし、あとでもいいんじゃない?」


アミィは俺以上に興味なさげだ。


「あー……、多分、あんまり教えてもらわなくても走れると思う……」


オートマ限定の免許なんて恥ずかしいよな! って言ってた友人に感謝しよう。

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