ある神秘主義者のひとり言

   ある神秘主義者のひとり言



 三月十一日の原発事故のせいで不思議な夢を見るようになったと、ある神秘主義者は告白した。昨夜は口の中に赤い舌がたくさん生える赤子を見たと言った。

 不気味だなと感想を述べると、そんなことはないと彼は反論した。


 さらに理解できないことを、その神秘主義者は言うのである。

 実は一昨年の政権交代は天災地変が起きることを予知した民衆の神秘的な力で起きたのである。自分はその一員として、家族を捨て世の流れを観察し続けることに専念していたのだと言うのである。

 まさか反論すると、彼は説明した。

 ドジョウなど下等動物の動きで地震予知をする輩より、万物の霊長である人間の直感を信じる方が合理的だ。難しいことではない。かって日本人は不幸な事件が起きると都や元号を変え、厄払いをした。今は進化し、逆になっただけである。災害を予知した日本人は、先に政権を変えることで厄払いをするようになっただけだと言うのである。

 倒錯をしていると反論しても耳を貸さない。

 だが彼にとっても原子力発電所事故は想像を超えたものであった。

 もっと早く知っていたら政界の実力者に連絡し、処置が出来たかも知れないと大ボラを吹くのである。


 職場で冷や飯を食い続けたのも、若い頃に原子力発電事故に備える必要があると、大勢の前で自説を説いたせいだと言うのである。以降、彼は原発は絶対安全だとする国家主張に反逆する変人として人生を歩むことになったのだと自己弁護したのである。


 その神秘主義者が最近、妖怪が現れると夢を見ると言うのである。

 チェルノブイリ原発事故の被ばく地で、今でも生まれ続ける染色体異常の奇形児のような姿の妖怪が多いと言う。

 覚悟を決めて、慣れておくためには良いとも言う。

 河童や、雪ん女、雪ん子も野山に捨てられた哀れな奇形児だった。

 今夜の夢では頭に角を生やした元気な赤鬼が姿を見たいと彼は言った。

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