『怨』

 三月十一日に、すべてが終わり、すべてが始まった。

 東方沿岸を襲った津波は、多くの人を奪った。

 それは天災であり、地球でしか生存できない人間が宿命だと諦めるしかない。

 しかし翌日の福島原子力発電所の事故は別である。


 津波で犠牲になった死人は、放射能原野に打ち捨てられたままである。

 原野をうろつく、黒いカラスや獣のえさになっている。

 生き残った者は死人となり原野に打ち捨てられたままになった親兄弟の姿を想像し、悪夢にうなされる。

 思い出も、生活の糧を得る生業も、希望も。

 すべてを捨て故郷を去るしかない。

 生きて故郷に戻れるかも定かではない。

 

 すべてを奪った者、そしてその子孫に

 怨、怨、怨、、、、、、、、、、、


 山野に棲む獣も被害者だ。

 猿、イノシシ、鹿。

 山野に打ち捨てられた家畜、ペット。

 生まれ落ち、すぐに死んでいく獣は幸いである。

 目のない獣。口のない獣。

 見たこともない奇怪の生物が山野を徘徊する。

 哀れな獣は慟哭する。


 すべてを奪った者、そしてその子孫に

 怨、怨、怨、、、、、、、、、、、


 人とは思えない赤子が生まれた。

 口がない赤子。

 目がない赤子

 頭が二つある赤子。

 手が四つある赤子。

 足が四つある赤子。

 背中に甲らがある赤子。

 妖怪人間。

 だが母親は必死に介護する。

 いつかは正常な人間になると信じた。

 だが祈りや願いが天に届くことはない。

 疲れ切った。


 すべてを奪った者、そしてその子孫に

 怨、怨、怨、、、、、、、、、、、


 くそ喰らえ。

 悪魔。

 死ね。

 無限地獄に落としてやる。

 絶対に許さないぞ。

 殺してやる。

 呪ってやる。


 待て。待て。、、、、、、。

 知恵を絞れば、性根が腐っていなければ、きっと良いふうに変えることが出来る。

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