第27話青い目の人形

 町の人形館には全国の地方にまつわる人形を展示してある部屋がある。実は創造主の地球儀なるものとの出会いが衝撃的で奥に、そのような部屋があることは最近まで気づかなかったのである。

 館長は扉を明けながら説明した。

「故郷の玩具や人形は子どもにとって大事なものです。残念ながら、あなたのふるさとには玩具は存在しない。貧しすぎて、そのような文化を育む余裕もなかったようです。ただあなたの心に刻まれた強い印象から分析すると地球の図柄が玩具の役割を果たしたようです。大人たちの願いは地球は広い。海でつながっていると教えよとした。だがあなたは逆のことにも気づいてしまった。地球は暗黒の宇宙の中の存在する小さな星にすぎない。人間はその地球上でしか生き続けることができない。すべてが有限だと。これがあなたが思春期に陥った孤独の原因であり、絶望的な閉塞感の原因になった」

 と館長は語りながら部屋に案内した。

 隣の部屋にある人形にも玄関入り口の部屋と同じように、それぞれ説明書きが記されていた。

「いわく付きの人形ばかりです。大きな霊力も持ち合わせている。いつもつらい話では気も滅入るので、今日は明るい話題にしよう」と言い、部屋の中央にあるガラスケースに案内した。ケースの中に青い目の人形が陳列されていた。

 昭和二年にアメリカから日本に送られた人形と書いてある。

「もちろん模造品ですよね」と失礼なことを聞いた。

 館長は悪びれる様子もなくもちろんと答えた。でも霊力は一流だと自慢した。

「日米友好のシンボルだ。この人形の祖先が果たした役割は実に大きなものがある。この人形はアメリカ国民の友好の気持ちを立派に日本に伝えた」

「ふるさとはアメリカですか」

「この子は横浜で入手したので、横浜がふるさとです」と館長は答えた。

「横浜をふるさとと思う人たちには格別なことを語ってくれる。先日も老夫婦が遠路をわざわざ訪ねて来て、言葉を交わして帰りました」

「どんな会話ですか」

「さあ」と館長はとぼけて応えなかった。

 このような時には聞いても無駄である。彼は知っていても教えない。

「入館した時にはひどく暗い表情をしていたご夫婦が、帰る時に晴れ晴れとした表情になぅていた」

 それから数日して、私が人形館を訪ねると館長が興奮して出迎え、新聞の切抜きを差し出した。初老の夫婦の間に、小さな女の子が写る写真である。

「日米友好の奇跡。大津波で流されたと孫娘が無事帰還。屋根で漂流中の少女をアメリカ海軍のヘリコプタが救い出すと記事が目に飛び込んできた。先日、この展示館を訪れたのは、このご夫婦でした。祈りが通じたようです」と、館長は小躍りして語った。

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