第4話 ブラックビタータブレット

俺を真正面から見つめる彼女の視線が焼けるようで痛い。

「いやぁ美味しいかどうか透視できねぇかなぁと思って。」

意気地無し。根性無し。甲斐性無し。

どんな美人でもビビらなかったじゃん。おべんちゃら並べ立ててくどいてきたじゃん。ここにきてなにやってんの。

へらへらっと笑う。爆発寸前の心臓に冷たい風が吹きつけた。

「わりに大事そうにもってるから本気で本命できたのかと思ったじゃん。」

「できてたらどうすんだよ。」

二人しかいないこの部屋に場違いなくらい強めな語気で迫ってしまった。

麻咲の視線がちらと揺れる、一瞬を見逃さなかった。


「ほんとはこれ、お前に用意したやつなんだ。」

「は?意味分かんな・・・」

「俺は麻咲が好きだ。だから、受け取ってほしい。そんで、付き合ってください。お願いします。」

1秒、5秒、10秒、その時が永遠に感じられた。

そんな、嬉しい。ありがとう。って言われることを祈りながら頭を下げ続ける。

「馬鹿言わないでよ。からかうのもいいかげんにしてくんない?どうせその袋の中のひとつでしかないくせに、嘘でももうちょっとマシなのあるでしょ?」

へ?なんで?

一世一代の大告白のつもりだったのに、あっさり一蹴されるどころか、なんで逆ギレされてんの、俺。

「ち、ちがくて、本気なんだって。マジ。ほら、裏見てみ、名前ねぇだろ?差出人。」

「だからなに。」

「俺にチョコくれる子はうずもれるの分かってっから絶対名前なり手紙なり入れといてくれるんだって。だけどそれにはなにも書いてねぇだろ、俺が用意した証拠だよ。」


「そんなことない!だって私、そのままポストに入れたもん。」

はてそれは、どういう意味で、お嬢様。

今朝俺が他の女の子といちゃついているその前にポストに入れて去ってしまわれたと、そういうことでございましょうか。

差出名もなく毎年ポストに投下されているそのチョコレートが俺の元へ来るはずもなく、それ以上食べたら体に悪いからお母さんがもらってあげるわねと、スイーツ好きな母の不敵な笑みと共に消えていったあれは、まさか。

あぁ、なんと弁解しよう。


麻咲の手に無理矢理その包みを押し付けて肩を抱き寄せる。

輪郭に手を添えて唇を一気に狙う、つもりだったはずだが。

「そういうとこ、治してくんなきゃ絶対うんって言わないからね。」

強がる麻咲の手の中に宛先をなくしたチョコレートがしっかと抱きしめられていた。

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逆チョコ 紅雪 @Kaya-kazuha

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