第3話 アーモンドプラリネ


夕焼けのともしびが差し込む教室で時間を持て余していた。

教室とは本来にぎやかであるものだ。一人でぽつねんと誰かを待っている以上に哀愁を感じる時はない。

なんでもない自分の足音さえ高く響きおののいてしまいそうになる。

教室を独占しているのだから好き放題やってみればいいものをやはりいつもの自分の席に小さく座ってスマホをいじるのみであった。

「どうすっかなぁ。」

置き勉している教科書や参考書の奥へ手を伸ばしピンク色の小さな包みを取り出した。

俺が今日たらふく女の子からいただいだそれとなにも変わらない。

夕日に金色のリボンが照らしだされ謎めいた輝きを放っていた。

机の中に入れといてやろうか、それとももう持って帰るか。行き場をなくしたその包みは俺の問いに答えるでもなく手の中でいいように遊ばれている。

そんな時―

勢いよく教室の扉を開ける乱暴な音が響きわたった。

こんな時間だ。教室に人がいるとは考えもしなかったのだろう。目を大きくむいてフリーズする。

「お、おぉぉ。おぉ。」

ずっとここで座っていた俺でさえ驚きを隠せず感嘆符しか出ない始末だ。

「悠貴、じゃん。なにしてんの。」

「や、べ、つ。ま、麻咲こそ、なんだよ。」

「明日の英語の宿題やるの忘れてたから置いてた教科書とりに来ただけだよ。」

「そ、そうか。」

「入っていい?」

こくこくとうなずきながらとっさに手に持っていた包みを隠した。

妙な緊張感が漂う空気を打ち破るかのように麻咲が声を発する。

「チョコもらいすぎじゃん。どれが本命?」

地雷を踏まれたかのように鼓動が脈打つ。

「本命も義理もねぇよ。俺は全ての女の子を平等に、」

「じゃあそれは?今隠した、それ。」

いたって平穏な表情で、ただの世間話にすぎませんよというような調子で胸をえぐり続けるのはやめていただきたい。わかってるよ、もうすでに俺に興味なんかねえんだよな。

さぁ、なんて言う?なんて言おう?


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