俺は寿司が食べたいんじゃない

芹澤奈々実

す、すし食べに行かないか?

大学終わり、俺は幼馴染の海老名えびな天音あまねと回転寿司屋に来ていた。


「太一、お寿司好きだね」

返事に困って、ハハッと笑う。

寿司は好きだ。

ただ、今日こそ天音に告白しようと思っていたのに

「す、すし食べに行かないか?」

と言って来てしまったから複雑だ。

しかも、三度目。

いつになったら言えるのだろうか。

つい溜め息がでる。

「悩み事でもあるの?」

「なんでもないよ」

天音にだけは言えない。

「ふーん。ならいいけど」

納豆巻きを食べた天音の頰が緩む。

「いつも納豆巻き食べてるよな。好きなのか?」

「うん、好き」

「へぇー」

「何よ。寿司屋にきて納豆巻きは邪道だって思ってる?」

「思ってないよ」

疑うように俺をジーッと見てくる。

「な、なんだよ。そんなに見るなよ」

赤くなってないよな。慌てて顔を逸らす。

「ふふっ、照れちゃって。赤井くん、かわいいー」

「からかうなよ」

可愛いのは天音だろ。

「えっ、なんて?」

「何も言ってないよ」

危ない。声に出ていたようだ。

「空耳かー。もうお腹いっぱいになっちゃった」

「じゃあ、帰ろうか」


外に出ると、ひんやりとした夜風に襲わた。

天音も寒そうにマフラーに顔を埋めている。

10分ほど歩いて駅に着いた。電車通学の天音とはここでお別れだ。

「つきあってくれて、ありがと」

「なにー、改まって。どういたしまして」

いまの関係がよくて、想いを伝えたら壊れてしまうんじゃないかと不安になる。

「太一、明日の放課後空いてる?」

「サークルあるから、20時過ぎなら」

「少し時間ちょうだい。ここで待ってるから」

「わかった」

「じゃあね」

改札口へ向かう天音を見ていたら戻ってきた。

「忘れもの」

俺の耳に口を近づけて

「次は寿司に誘わずにちゃんと言ってね」

と言って、小走りで改札に向かった。

「えっ! それって……」

周りの視線を気にする余裕もなく、天音の後ろ姿に問う。

改札の向こう側で天音が微笑み、携帯を触る。

ピコンッ。


続きは明日20時頃ね


ああ、今日は眠れないな。

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俺は寿司が食べたいんじゃない 芹澤奈々実 @serizawa0326

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